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2015/12/30

My演芸大賞2015

当ブログ年末恒例の「My演芸大賞」、2015年の受賞者は下記の通りとなった。
【大賞】
露の新治『中村仲蔵』4/24「まいどおおきに露の新治です」
【優秀賞】
五街道雲助『お直し』3/6「雲助蔵出しぞろぞろ」
柳家権太楼『らくだ』5/1「鈴本演芸場5月上席」
桂雀々『鶴満寺』5/6「雀々・生志・兼好 密会」
桂南光『百年目』7/12「南光・南天 ふたり会」
桂吉坊『三十石夢乃通路(通し)』12/1「吉坊ノ会」

【選評】
今年、各種落語会や寄席に出掛けた回数は70回以上と例年に比べ多かった。その中から授賞者を選んだので厳しい審査となった。
大賞、優秀賞を合せて6人だったが、内訳は東京2人上方4人となり、上方落語の充実ぶりが眼についた。

大賞となった露の新治『中村仲蔵』は2度の高座を観たが、いずれも水も漏らさぬ緻密は構成と作品の完成度の高さで群を抜いていた。
東京版に比べ仲蔵夫婦の情愛により重点が置かれていたのと、仲蔵が芝居に失敗したと思い込んで上方へ向かおうとした時に仲蔵を褒めている客に出会い「ああ、ありがたい!広い世間にたった一人だけ、おれの芸をいいと言ってくだすった方がいる」という一言は胸を打つ。この客は仲蔵の趣向だけではなく今までの定九郎の演じ方や扮装に違和感があった。仲蔵の芝居を見て、その謎の絵解きが出来たと喜んでいたのだ。仲蔵の工夫と、それを受け止める客の存在とが相俟って芝居の成功に結びついたという設定に納得させられた。素晴らしい高座だった。

優秀賞の五街道雲助『お直し』では、好きで夫婦になった男が甲斐性なしで、花魁から仕舞にはケコロにまで転落してゆく女の哀れさに温かい眼を注ぎ、最下層に生きる男女の深い情愛を描いていた。駄目な男と分かっていても魅かれる女と、それに依存してしか生きて行けない男という組合せには普遍性がある。まるで川島雄三の映画の世界を観ているような結構な高座だった。

柳家権太楼『らくだ』では、この噺に出て来る主な登場人物は江戸時代の士農工商という階級からも外れた人たちだ。権太楼の高座は、そうした蔑まれた貧民層の人々の怒り、苦しみと同時に、仲間への思い遣りや優しさを主人公の屑屋に象徴させていた。このネタに新たな視点を与えてくれた高座として高く評価したい。

桂雀々『鶴満寺』は、今年最も面白かった高座と言える、涙が出るほどの抱腹絶倒。しかし雀々の噺の中には笑いの陰にどこか哀しみがある。砂糖に少量の塩を加えるとより甘味が増す、そういう演じ方だと思った。

桂南光『百年目』、このネタの決め手は店の旦那の描き方、とりわけ風格が出せるかどうかだ。番頭の行状を知った主人が驚きと怒り、今まで気付かなかった自責の念を抱えたまま店に戻り、一晩かけて帳簿を調べる。しかし不正は一切見つからなかった。翌朝に番頭を呼んでチクリと皮肉を交えながらも、「旦那」の故事を引きながら部下の奉公人にもっと露を降ろすよう諭す。南光の高座ではこの旦那の器量の大きさが十分に表現されていた。番頭が花見で遊び呆ける場面ではこの人の明るさが発揮されていた。

桂吉坊『三十石夢乃通路(通し)』、手元にあるCDで桂米朝がこのネタを演じたのは60歳の時で、マクラでもうこれが最後だと語っている。1時間近くの口演になるので体力がついて行けないとのことだった。この演目は『東の旅』の最終章となるもので、東山側から京都に入り中心部を観光した後に伏見に向かい、そこから三十石船で大阪に戻るまでを描く。従って通しで演じないと意味が薄れてしまうが、大半の口演は船宿から始まり三十石の船が漕ぎ出すまでで切っている。吉坊の高座はほとんど米朝の語り通りであったが、長講に一切の乱れがなく演じ切った。芸と気力と体力が全て備わっていなければ出来ない業だ。

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寄席・落語」カテゴリの記事

コメント

上方の噺家にも気が抜けないのですね。
新治だけじゃない。
楽しみが増えました。

佐平次様
今年は上方落語を重点的に聴いたせいもありますが、印象深い高座が多かった気がします。東京も若手で有望な人が出て来てますので楽しみです。

聴いた日は違いますが、私も感動した露の新治「中村仲蔵」の大賞受賞、嬉しいです!
優秀賞の顔ぶれに上方の噺家さんが多く並んでいるのが、羨ましい。
拝見して、来年は、もっと上方落語を聴きたくなりました。

今年もいろいろとお世話になりました。
良いお年をお迎えください。

小言幸兵衛様
露の新治「中村仲蔵」は同じ日にも聴いていましたが、こちらを先に聴いていたので「まいどおおきに・・・」の方を採りました。東京は東京で上方は上方で、それぞれの良さがある事を発見した1年だったように思います。
来年も幸兵衛さんの記事を楽しみにしています。

権太楼『らくだ』の美点については以前も拝読しました。素晴らしいことだと存じます。

落語は本当に演者の力量で変わるもんです。
某女流作家が俳句は制約があるがゆえにかえって創造しやすい、と述べていましたが、
落語にもあてはまるんじゃないか、と思います。

今年も様々にご教示いただきました、よいお年をお迎えください。

福様
台本のある芝居と違い落語は演者自身が台本を書き演出もするので、かなりの部分は演者の手に委ねられています。従ってライブでしか味わえない、そこが魅力です。
今年も色々お気付きを頂き有難うございます。
どうか良いお年を。

大阪に住んでいますが、新治の良さはHOME9さんや関東の方から教えられました。それまでは、新治のHPを見てもわかるように、政治、9条、差別、人権等、ややこしそうな人、とゆうイメージで、食指が動かなかったとゆうのが正直なところです。高座の評価とは全く別、なのですが、落語家はやっぱり聞いてみなわからへんなあ、と思います。

大阪の事情は分かりませんが、露の新治という人は大阪より東京のファンが多いのではと思った事があります。東京では数年前から固定ファンを獲得していて客の入りも良い。柔らかな語り口が受け容れれているのかも知れません。聴いてみないと分からないというのは仰る通りでしょう。

ホームページ「まいどおおきに露の新治です」の管理人です。ある方から、こちらのサイトを紹介していただきました。「まいどおおきに露の新治です」で、貴サイトを紹介させていただいてもよろしいでしょうか。新治さんも紹介してほしい旨、連絡を受けております。よろしくお願いします。

MORI様
お申し出の件、了解しました。

ご了解いただき、ありがとうございました。

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