「小春穏沖津白浪」(2016/1/5)
河竹黙阿弥=作
通し狂言『小春穏沖津白浪-小狐礼三-』
(こはるなぎおきつしらなみ こぎつねれいざ)
四幕十一場
日時:2016年1月5日(火)12時
会場:国立劇場
< 場割 >
序幕 幕開き
上野清水観音堂の場
二幕目 第一場(雪)矢倉沢一つ家の場
第二場(月)足柄越山中の場
第三場(花)同 花の山の場
三幕目 第一場 吉原三浦屋格子先の場
第二場 同 二階花月部屋の場
第三場 隅田堤の場
第四場 赤坂田圃道の場
大詰 第一場 赤坂山王稲荷鳥居前の場
第二場 高輪ヶ原海辺の場
< 配役 >
尾上菊五郎:日本駄右衛門
中村時蔵:船玉お才
尾上菊之助:小狐礼三
坂東亀三郎:奴・弓平
坂東亀寿:三浦屋若い者・小助
中村梅枝:月本数馬之助
中村萬太郎:礼三の手下・友平
尾上右近:三浦屋傾城・花月
市村橘太郎:飛脚・早助/三浦屋やり手・お爪
片岡亀蔵:三上一学
河原崎権十郎:猟師・牙蔵
市村萬次郎:三浦屋傾城・深雪
市川團蔵:月本円秋
坂東彦三郎:荒木左門之助
2016年の幕開きは新春歌舞伎から。新春公演というのは何時もより華やいだ気分が会場を覆っている。ロビーや場内のあちこちで新年の挨拶が交わされていた。
「小春穏沖津白浪」は二幕目の通称「雪月花のだんまり」だけが単独で上演されることが多く、通し狂言としては2002年に138年ぶりとなる復活上演を果たした。今年が作者の河竹黙阿弥の生誕200年にあたるのを記しての再演となる。
前回同様の音羽屋中心の配役だが、主役の小狐礼三は菊五郎から菊之助にバトンが渡され、菊五郎は座頭格として日本駄右衛門を演じ、時蔵が前回と同じ船玉お才役で加わる。
歌舞伎狂言の筋書というのは単純なものが多い。中でもお家騒動をテーマにした芝居が典型的で、家宝をめぐってお家横領を企む一派(悪玉)と主君を守る一派(善玉)が家宝を奪い合い、一時は善玉が窮地に陥るがこれを助けるヒーローが現れ、最後は善玉が勝利し悪玉が成敗されるというのが決まりだ。登場人物同士が複雑な因縁で結ばれていて「000実ハXXX」というのが多いのも特徴。これに男女の恋模様や派手な立ち回り、間にコミカルな所作が挟まれ、観客が飽きぬように芝居が進行する。
図式で書けば”単純明快なストーリー+涙と笑い+派手なアクション”という事になる。未だに歌舞伎を難しいものと思っている人がいるが、落語で小僧の定吉が主人の眼を盗んで芝居を見てくるという噺が出てくる。子供でも歌舞伎の面白さは分かるということだ。
この狂言でいえば月本家に伝わる家宝・胡蝶の香合をめぐって、これを奪ってお家の乗っ取りを謀る三上一学らと、これを取り返そうとする若君・月本数馬之助らとの争いが発端となる。家宝を奪われ勘当となった若君が相変わらず花魁にウツツを抜かすという頼りなさで(これは定番)、このままではお家の一大事。その危機を救うのが小狐礼三ら3人の盗賊たち。この内、日本駄右衛門は元は月本家につかえていた旧臣の倅だし、船玉お才はその従妹という因縁で結ばれていた。3人の尽力、とりわけ狐の妖術を使う小狐礼三の働きにより無事に胡蝶の香合を取り戻し、若君の帰参も叶ってメデタシメデタシで大団円となる。
見せ場は3人の盗賊と猟師・牙蔵が雪の一つ家、月の達磨堂、花の引っ込みという背景の下で繰り広げられる「雪月花のだんまり」で、礼三が「狐六法」を踏んで花道を引っ込むのも見所となっている。
もう一つの見せ場は大詰の山王稲荷鳥居前での立ち回りで、鳥居の下と上でアクロバティックな動きを見せる所。礼三と捕り方との立ち回りは迫力十分で、礼三の見得には会場からヤンヤの拍手が送られていた。
これに数馬之助と三浦屋傾城・花月との恋模様や、飛脚・早助が繰り広げる「穿いてます」や五郎丸のポーズなどのコミカルな演技が加わる。
新春らしい華やかで楽しい舞台となった。
出演者では主役の菊之助の演技が圧巻で、「菊之助奮闘公演」と言っても良い。美形で匂い立つような色気があり口跡も良い。同世代の役者の中でも頭一つ抜けている感じがする。
菊五郎、時蔵が貫録を示し、亀三郎と橘太郎が好演。
難をいえば萬次郎の野太い声に違和感があり、客席からも失笑が洩れていた。傾城らしいセリフ回しにするための工夫が必要だ。
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