「三田落語会『大感謝祭』・夜」(2016/1/30)
「三田落語会『大感謝祭』・夜の部」
日時:2016年1月30日(土)17時
会場:浜離宮朝日ホール 小ホール
< 番組 >
前座・春風亭朝太郎『雑排』
春風亭一之輔『明烏』
柳家喜多八『やかんなめ』
~仲入り~
柳家喬太郎『転宅』
柳家権太楼『井戸の茶碗』
三田落語会は今年で7周年を迎えた。主催者である仏教伝道協会の創立50周年を記念しての「大感謝祭」を銘打った特別興行だ。実は昼夜のチケットを取ってニンマリしていたら、妻からの「あたしのは?」の一言で泣く泣く昼の部を譲り、当方は夜の部へ。
全てはお家安泰のため。
この顔ぶれで会場を小ホールにする所がいかにも三田落語会らしい。チラシの序文に石井徹也氏が書いてるように、この会は「営利を超越した」会なのだ。
会場のアチコチで言葉が交わされていて、今日の観客もほとんどが常連さんだろうと推察する。
一之輔『明烏』、いくつか独自と思われる工夫が見られた。
・若旦那の時次郎から「町内の札付き」「悪の権化」と言われた源兵衛と太助。源兵衛は聞き流すが、太助は根に持っていて若旦那が駄々をこねる時に凄みを利かせる。これによって二人の人物像の違いをはっきりさせていた。
・宴席から時次郎を連れ出すオバサンが怖い。女郎屋の遣り手とはかくあろうという設定だ。
・強引に連れ出される時次郎が志ん朝以来、「二宮金次郎」を引き合いに出す演り事が多いのだが、これを「ナイチンゲール」にしていた。相手が花魁だからナイチンゲールの方が相応しいかも。
全体としてテンポ良く、人物の演じ分けも出来ていて上々の高座だった。
喜多八『やかんなめ』、いったん幕が閉じられ、客席は喜多八の出番を予測した。幕が開き板付きで喜多八が顔を上げると客席から静かな反応があった。私も3カ月ぶり位になるが、あまりの変貌に身体がこわばる。だが声はしっかり出ていて、寄席を休んでいたことを自虐的な戯れ唄で茶化すところから、いつもの喜多八ワールドに客を導く。ネタも病気に因んだもので、これも喜多八らしいチョイスか。
上方では「癪の合い薬」というタイトルで演じられるそうだが、女性特有の病気である癪の治し方には様々な民間療法があったようだ。男のマムシ指を患部に押しつけるとか、褌で女性の身体を縛るとか。いずれも性的な連想をさせる。
この噺の奥方はヤカンを舐めると癪が治るという。折しも梅見に出掛けていて癪を起したが急なことで周囲にヤカンはない。そこへ通りかかったのが禿頭の武士。奥方の女中が失礼をも省みず、その頭を奥方に舐めさせてくれと頼む。くだんの武士は当初は烈火のごとく怒り手討ちにすると息巻くが、女中の忠義に免じて奥方に頭を舐めさせる。無事に癪が治り奥方一行は去るが、武士の頭がヒリヒリ痛む。家来に見て貰うと歯形を付いていた。家来が「ご安心ください、洩るほどじゃありません」でサゲ。
武士と家来のヤリトリや顔芸で場内を沸かせたのは、さすがだ。
相貌を見る限りでは高座に上がっている場合じゃなく、治療に専念して欲しいと思わざるを得ないが、ご本人としてはそれを承知で演じ続けるつもりなのだろう。
こればかりは生き方の問題なので、意志を尊重するしかない。
喬太郎『転宅』、当ブログで一之輔を10年に一人の才能と称しているが、ではその前の10年に一人はといえば喬太郎だ。2000年に真打昇進以来、古典と自作の新作落語の両刀使いで、それも双方ともかなりのハイレベルの高座を見せていた。花形演芸大賞3連覇という前人未踏の記録も作り、独演会は常に満席だった。当時、『竹の水仙』『按摩の炬燵』『錦木検校』など立て続けに聴き感動したものだ。
この15年に限れば、最も多くの高座を聴いたのは喬太郎である。
しかし2007年頃をピークにして、その後はフラットな状態が続いているように思う。ネタもしばらく高座にかからぬような珍しい作品を発掘したものもあるが、総じて以前のネタを繰り返していると見受ける。最近の高座は上手いなと思うけど、心を動かされる事はなくなった。
この日のネタも何度目かになるが、泥棒とお菊姐さんとの会話の間が絶妙なのは相変わらずで上手いと思うが、それだけだ。
柳家喬太郎、まさかこのままで終わるつもりはなかろう。
柳家権太楼「井戸の茶碗」、この日の夜席は顔芸の巧みな人が集まった。もし顔が見えないと面白さは半減するだろう。会場の半分位までの席に傾斜がなく、椅子の間隔も狭いため席によっては見え難かったかも知れない。昼の部へ行った妻は前に大きな人がいて、噺家がほとんど見えなかったとこぼしてした。せっかくだから、もう少し余裕のある会場の方が親切だったかも。
浪人の千代田卜斎と細川家の家来・高木作左衛門とも意地の張り合いで、二人の間を行ったり来たりして苦労する屑屋の清兵衛の困惑ぶりを権太楼流の大仰な表現で客席を沸かせていた。
でも権太楼だったら他のネタを聴きたかった、というのは贅沢かな。
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