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2016/02/07

ザ・桃月庵白酒その2(2016/2/6)

大手町独演会「ザ・桃月庵白酒 其の二」
日時:2016年2月6日(土)13時
会場:よみうり大手町ホール
<  番組  >
桃月庵白酒『花見の仇討ち』
桃月庵白酒『千両みかん』*
~仲入り~
桃月庵白酒『寝床』
桃月庵白酒『富久』*
(*ネタ出し)

大手町独演会は柳家さん喬、柳家権太楼、桃月庵白酒3人による不定期の独演会で、既に1巡目が終り2巡目に入っている。今回は白酒の2回目。
3人の人選だが、さん喬と権太楼については異論がなかろうが、3人目に白酒を選んだのは実力と人気の両面から判断したものだろう。若手で、一人でこの会場(定員501名)を一杯に出来る集客力を持つ人は限られているから。
この会の特長は4席演じ、各演目も「春夏秋冬」それぞれの季節に因んだものという趣向だ。
先日の「ザ・権太楼」の時にも感じたが、一人4席、しかも比較的大きなネタを演じるというのは演者にとって負担が大きく、集中力を切らす時があるような気がする。それは客席にも言えることで、3席にとどめておいた方が良いのではと思う。
この日について付け加えれば、前座を使わなかったこと、これは良い。白酒の別の独演会でもこうしたケースに出会うが、是非他の会、他の演者も見習って欲しいところだ。
以下に短い感想を述べる。

春に因んだ『花見の仇討ち』、春の季節になると『長屋の花見』と共に頻繁に高座にかかる。同じ花見の仇討ちを扱ったものでも『高田馬場』は演じる人が少ないし(アタシはこっちの方が好きだが)、花見がついたタイトルでも『花見小僧』や『花見酒』は高座にかかる回数が少ない。白酒の演出では巡礼の二人の内の片方を泣き虫にして違いを明確にさせていた。「親の仇」を「マヤの遺跡」「山のマタギ」に言い換えたり、悪役の浪人者の名前を清原和博にするなどのクスグリで受けていたが、全体としては平凡な印象。

夏に因んだ『千両みかん』、志ん生の古い録音を聴くと、「噺家にとって損な噺」と語っているので、以前は時間が長い割には受けないという事だったんだろう。その志ん生の演出では、金物屋から「主殺しのハリツケ」の場面を番頭が聞かされて腰を抜かすくだりを入れて爆笑編に仕立てていた。以後の人たちは志ん生の演じ方を踏襲している。白酒の高座ではこの場面で金物屋は嬉しそうにリアルに語るので、より番頭の恐怖心を際立たせていた。ミカンが一つ千両と聞いて驚く番頭だが、店の主人や息子は全く驚かない。そこから番頭の価値観の混濁が起きるという解釈なのだろう。この番頭の造形が良く出来ていた。
太平洋戦争を境にして貨幣価値がガラリと変わってしまった。アタシの両親の持っていた国債は紙クズになり、永年掛けていた郵便局の簡易保険は戦後に満期になったら下駄を一足買って終りだったそうだ。そんな戦後の価値変動を経験した人にとっては、このネタはより現実味があったかも知れない。

秋に因んだ『寝床』、と言ってもこのネタを秋に結びつけるのはちと強引。落語の中でも明らかに秋に因んだ噺は少ない。『目黒の秋刀魚』は定番だが、『秋刀魚火事』や『秋刀魚芝居』はタイトルは知っていても実際に聴いた事がない。他は『笠碁』ぐらいか。噺の中のある場面だけは秋と言うのはあるだろうが、全体に秋の季節感が溢れるとなると、数が限られるだろう。
白酒の高座だが、長屋の住人が旦那の浄瑠璃の会を欠席する理由を通常とは大きく変えていて、具体的な商売も通常とは異なるものだった。唯一通常と同じ職業の提灯屋も法事などでと言ってたが、法事ではそれほど多くの提灯は作るまい。ここは常法に従いお祭り提灯で良いのでは。前に演じた『花見の仇討ち』や『千両みかん』の人物を無理やり話しの中に入れていたが、成功したとは思えない。奉公人が一致して旦那の義太夫が下手で迷惑していると繁蔵に言わせるという設定も疑問が残る。繁蔵を一番番頭と混同している様子が見られ、これも気になった。
全体として、不満の残る高座だった。

冬に因んだ『富久』、入場の際に配られたチラシで白酒が「私は久蔵の浮き沈みを見せるために、削る所は削ってポンポンと30分位でやると噺の魅力が生きて・・・」と語っているが、その通りだと思う。極め付けと言われる8代目文楽の口演時間は26分で、スピード感が要るネタだと思う。その点では白酒の高座は良かった。ただ気になったのは、久蔵が富籤を買う時にもし富が当たったら半分を富籤を売った男にあげると申し出ていた事だ。こういう設定は初めてだし、『宿屋の富』に似ている。この申し出を後半でどう処理するのかずっと関心を持って聴いていたが、最後まで何も起きなかった。久蔵として単なるリップサービスだったのなら、あのセリフは不要だ。これがマイナス要素となってしまった。

総体として、今ひとつ白酒の力を出し切れなかったという印象に終わった。

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コメント

『花見の仇討ち』虚実入り乱れる落語らしい噺ですね。
市馬の演じたものがよかったですが、白酒いまいちでしたか。
4席は多いか・・・

白酒の魅力は一之輔と同じく(質的には異なりますが)、
説明能力の高さにあると思います。
そのへんが生かせる独演会になるといいですね、

投稿: 福 | 2016/02/08 07:03

福様
白酒が決して不出来だった訳ではありません。こちらが白酒の高座、それも独演会というと期待が大きくなり、その期待ほどの出来ではなかったという意味です。
仲入りを挟んでの4席連続した口演は、少々ミリがあるかなと感じました。

投稿: ほめ・く | 2016/02/08 08:56

たしかにメニューをみるだけでお腹いっぱいになります。
落語にはその前後のことを聞いてみたくなることがあります。
それと西念のように二つの噺が続き物ではないかと感じるものも。でも単に名前を突っ込むだけじゃ芸がないです。

投稿: 佐平次 | 2016/02/09 10:11

佐平次様
一口に言うと、詰め込み過ぎの感がありました。1席目のマクラでこの会は気が重いという様な事を語っていましたが、そうした気分も反映していたのかも知れません。

投稿: ほめ・く | 2016/02/09 11:56

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