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2016/02/21

#42三田落語会「新治・一之輔」(2016/2/20)

第42回三田落語会夜席「露の新治・春風亭一之輔」
日時:2016年2月20日(土)18時
会場:仏教伝道センタービル8F
<  番組  >
前座・柳家小かじ『道具屋』
露の新治『猿後家』
春風亭一之輔『子別れ・中下』
~仲入り~
春風亭一之輔『堀の内』
露の新治『中村仲蔵』

プログラムに石井徹也氏が書いた、露の新治が昨年の芸術祭優秀賞を受賞したことへの賛辞が挟まれていた。受賞演目である『中村仲蔵』が彦六の正蔵から師匠の露の五郎兵衛を経て新治に受け継がれていたことなどが記載されている。新治の芸の特徴として仕科(こなしorしぐさ)の決め方、鳴り物の間の取り方、芝居がかりの科白(せりふ)廻しをあげている。そして「はんなり」という上方ならではの持ち味と、東京落語の洗練が見事に融合していると評価している。
露の新治という噺家の特長を端的にとらえた文章で感心した。

三田落語会は二人会という形式になっている。組合せはかなり自由のようで、恐らくはこの会でしか見られない二人会も多い。
この日の新治・一之輔の二人会も他の会ではまずあり得ないだろうし、芸風からいえば両極端のように思える。
新治の高座は練って練って練り込んで完成した作品として高座に掛けているように見受ける。対する一之輔は鋭い感性で古典を改変し高座にかけているように映る。同じネタを二日続けて聴いたら翌日は少し変えていたという事もあった。
ファンにとってはそれぞれが魅力なのだ。

小かじ『道具屋』、口跡が良い。期待できる。

新治『猿後家』、上方のこのネタを聴くのは始めてだった。猿の様な顔の後家さん、容貌コンプレックスが強くて綺麗と言われれと上機嫌になるが、ひとたび「さる」という言葉を口にした途端怒り心頭、出入り差し止めになる。そんな後家さんの元にオベンチャラを言って小遣いを貰おうという男が現れ、後家さんを褒め称えて良い気分にさせ大成功と思わせるが、最後についうっかり「さる」と口を滑らせてしくじるというストーリー。他愛ない話だ。上方版は手が込んでいて、太兵衛という男がお伊勢参りの土産話の序に奈良の名所案内を語る。途中までは良かったが最後に「猿沢の池」と言ってしまい怒りを買う。名誉挽回とばかり店の番頭の助言で古今東西の美女の名を並べ後家さんにそっくりと煽てる。せっかくご機嫌が治った所で
「唐では玄宗皇帝の想い者で・・・」
「一体誰に似てると言うのや?」
「へイ、楊妃妃(ようけヒヒ)に似てます」
でサゲ。
圧巻は新治の奈良名所案内で、立て板に水の如く、しかもリズムがとても宜しい。こういう所が磨き抜かれた芸の力だ。

一之輔『子別れ・中下』
弔いの帰りに酔った勢いで吉原に行ったところ、昔の馴染の花魁にばったり出会い調子にのって3日も居続けて帰宅した大工の熊五郎。最初はしおらしく女房に謝るが次第に図にのって花魁のノロケ話を始める。愛想が尽きた女房が倅の亀吉を連れて家を出る。熊はこれ幸いと年季が明けた馴染みを女房にするが、これが家事は一切せず酒を飲んでは一日中ゴロゴロしている。嫌気がさして所で女の方が自分から出て行き、熊は独り身になる。
そこで初めて目が覚め、女房の有難味と息子への思いを募らせる。
ここまでが子別れ「中」で、この先は毎度お馴染みの「下」である「子は鎹」となる。
普段の高座では「中」は要約のみで「下」に入る事が多く、アタシもナマで「中」を聴くのは久々だ。熱演であったが正直ダレた。中下連続口演なら、「下」の番頭と熊の会話はもっとあっさりでも良かったのと、亀吉と出会った際に亀の口から夫婦の馴れ初めを語らせる場面は余計だったと思う。ここが間延びした分、亀吉が熊と逢ったと母親に白状する以後にタメがなく端折り気味だったのが残念。
一之輔はこうした人情噺を聴かせる力量を十分に示していただけに、キズが惜しまれる。

一之輔『堀の内』、後席は一転して弾けた高座。他の演者に比べ主人公は粗忽に能天気がプラスされている。最後は風呂屋の鏡を取り外して持ち去るサゲ。どこまで行くんだ、一之輔。

新治『中村仲蔵』、今回で3度目となるが、何度聴いても実に素晴らしい。評価は冒頭に引用した石井徹也氏の文章通りだ。このネタは本来は東京のものだが、今や東西を通じて新治がベストだろう。

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コメント

私もこの会に行っておりました。新治の「猿後家」は、約5年前の新宿でのさん喬・新治二人会で聴いて以来でしたが、噺を聴いていると猿顔の後家さんが頭に浮かび、笑いが止まりませんでした。また、「中村仲蔵」は新治では初聴きで、ズシッときました。一之輔の「子別れ」は、最初の10分位は何の演題かわかりませんでした。弔いで貰った強飯を食べたとのくだりで、強飯が3日経っても傷まなかったのかと、そちらの方が気になってしまいました。

投稿: ぱたぱた | 2016/02/21 20:23

ぱたぱた様
新治の『中村仲蔵』を聴いていると、この演目は上方のものではないかとさえ思えます。夫婦の細やかな愛情表現にはいつも感心します。
一之輔の「強飯」はちょっと無理がある気がしましたが、子別れ「上」の『強飯の女郎買い』を意識したものと思われます。

投稿: ほめ・く | 2016/02/21 21:32

大満足の一日でした。
一之輔の子別れはちょっと長すぎましたね。

投稿: 佐平次 | 2016/02/22 11:38

佐平次様
『子別れ』は中盤でダレました。その反動からか終盤の見せ場が時間に追われて盛り上がりに欠けていました。
新治の2席は相変わらず素晴らしい出来でした。

投稿: ほめ・く | 2016/02/22 14:07

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