雲助蔵出し(2016/2/27)
「雲助蔵出しぞろぞろ」
日時:2016年2月27日(土)13時
会場:浅草見番
< 番組 >
前座・柳家小多け『子ほめ』
古今亭志ん松『長短』
五街道雲助『五人廻し』
~仲入り~
五街道雲助『寝床』
「三田落語会」と並んでこの「雲助蔵出し」、ここ数年は皆勤賞とまではいかないが欠かさず出かけるようにしている会だ。共通しているのは客層が良い事。知り合いはいないのだが、いつもの人と一緒にいるような気分に浸れる、そこが魅力だ。
もちろん、最大の魅力は雲助が毎回気分良さそうに語る高座にあることは言うまでもない。
志ん松『長短』、このネタには二つの型がある。一つは3代目三木助や5代目小さんに代表されるお馴染みの型。
もう一つは8代目雷門助六が演じていた、気長な男は上方、短気な男は東京という設定でストーリ自身はほぼ同じ。違うのは気長な男が静岡の知人から土産にもらった烏賊の塩辛を短気の男の家に持参してくること。もう一つは気長な男が短気な男に着物の余り切れがあるかどうかたずね、あると知ってから袂の火を注意する所だ。現役ではたい平がこの型で演じているのを聴いたことがあるが、志ん松もこの型だった。
ポイントは、気長の男が京都出身なので柔らかな京都弁で語る必要がある。ここが出来てない。
雲助『五人廻し』、このネタも大別して二つの型に別れる。登場人物のうち職人らしき江戸っ子、半可通、官吏、地方訛りのある自称江戸っ子の4人は、人物の入れ替えや登場する順序は異なる事があるが、ほぼ共通。
一つの型は最後に喜瀬川おいらんが田舎大尽の杢兵衛だんなの部屋に居続けていて、「中どん」の喜助が窮状を訴えると杢兵衛が文句を言ってる客の玉代4人分を喜助に渡す。喜瀬川もねだって玉代を受け取りそれを杢兵衛に返し「これ持って、おまはんも帰っとくれ」でサゲ。
もう一つは、5人目に相撲取りが登場し、部屋で四股を踏んで喜瀬川が来ないと怒る。そこで喜助が「廻しを取って振る花魁には敵いません」でサゲ。花魁の「廻し」と相撲の「まわし」、花魁が客を袖にするの「振る」と相撲で相手を「振る」を掛けている。雲助は後者で演じた。
この噺は明治期だろうと思われる。その時代の「色」を出すのが最大のポイントだ。
雲助の高座は、胸のすくような啖呵を切る江戸っ子、気色の悪い半可通、やたら漢語を連発し威張りくさる官吏(薩長出身か)、情人を気取る田舎大尽といった当時の廓の風俗や時代を見事に描き出していた。
この点が先日聴いた一之輔の高座との決定的な違いであり、芸の年輪、深さの違いである。
雲助『寝床』、意外だが雲助はこのネタをしばらく高座に掛けていなかったそうだ。理由は8代目文楽、志ん生、圓生、3代目金馬、それに3代目小さんの速記など、それぞれ皆型が異なり、どの型で演じようかと迷うとのこと。この日はそうした型を全て織りこみ、『綜合寝床』『寝床チャンチャカチャン』で演じていた。
確かに聴いていて、ここは黒門町、ここは志ん生、そっちは圓生かな、金馬はどこだ、なんて想像しながら聴く楽しみがあった。
通常の演出と大きく異なっていたのは、義太夫を始めるにあたり店子が大家にこの日の演目を問うと、大家が代表的な義太夫の演目を紹介しながらサワリの部分を一節語る場面が加わっていたこと。これを長時間聴かされたら、そりゃ病気になる人も出るだろうとリアルに納得した。
雲助のサービス精神溢れる、そして恐らくこの会でなければ聴けない貴重な1席だった。
今回も満足した。
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