フォト
2023年4月
            1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30            
無料ブログはココログ

« 待ってまっした!「らくご・古金亭ふたたび」(2016/3/14) | トップページ | まるで「チーママ」みたいな女流作家たち »

2016/03/17

素晴らしい!「焼肉ドラゴン」(2016/3/15)

鄭義信三部作vol.1「焼肉ドラゴン」
日時:2016年3月15日(火)13時
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT

脚本、演出/鄭義信
<   キャスト   >
ハ・ソングァン/焼肉ドラゴン店主:金龍吉
ナム・ミジョン/妻:高英順
馬渕英俚可/長女:金静花
中村ゆり/次女:金梨花
チョン・ヘソン/三女:金美花
大窪人衛/長男:金時生
高橋努/梨花の夫:李哲男
キム・ウヌ/静花の婚約者:尹大樹
大沢健/美花の恋人、クラブ支配人:長谷川豊
あめくみちこ/長谷川豊の妻:美根子&その妹:寿美子
櫻井章喜/ドラゴンの常連:呉信吉
ユウ・ヨンウク/信吉の親戚:呉日白
朴勝哲/アコーディオン演奏
山田貴之/太鼓演奏

新国立劇場では今年の3-6月にかけて、鄭義信が日本の影の戦後史を描いた三部作の一挙上演を企画している。朝鮮戦争が始まった1950年代を描いた『たとえば野に咲く花のように』、60年代半ばの九州のとある炭鉱町での在日コリアンの家族を描いた『パーマ屋スミレ』、そして大阪での在日コリアンの家族を描いた『焼肉ドラゴン』の3作品だ。全て鄭義信が新国立劇場のために書き下ろした作品群。
この内、現在上演中の「焼肉ドラゴン」を観劇。

舞台は高度成長期1970年前後の大阪。その片隅に在日朝鮮・韓国人たちが暮らすバラック建ての家が並び、「焼肉ドラゴン」の赤提灯の下、今夜も常連客が飲めや歌えや。この店主は戦争で片腕を失っているが淡々として生きてきた。先妻との間にできた長女と次女、後妻の連れ子である三女と二人の間に生まれた長男と家族6人が片寄せあって暮らしている。次女には夫がいるが仕事もせずに居候の身の上で、おまけに足の悪い長女への思いが断ち切れないからヤヤコシイ。三女は歌手志望でクラブ支配人の男の好意で店で歌わせて貰っており、二人は男女関係だ。長男は両親の思いから私立中学に通わせて貰っているが、虐めにあっているらしく学校は休みがちだ。両親はただただ子供たちの幸せだけを願って店を切り盛りしている。
しかしこの店やここに通う常連たちの生活にも高度成長の波が押し寄せる。彼らの多くは日本の炭鉱で働いていたが政府のエネルギー政策の転換により炭鉱は閉山。やむなく大阪の空港拡張工事の仕事を求めてこの地にやってきたが、それも今は終ってしまった。在日に対する差別があってなかなかまともな仕事に就けず、養豚の手伝いやら砂利の運搬やらの日雇い生活だ。
更に大きな問題は、彼らの住んでいる土地が国有地で撤去が迫られる。焼肉ドラゴンの店主は佐藤という人からこの土地を買ったと主張するが役所はとりあってくれない。ここを退去させられたら暮らして行けないと抵抗するが、やがて強制撤去が行われてしまう。
三人の娘たち(長男は自殺してしまう)はそれぞれパートナーを見つけ、長女は折からの帰国運動に乗って北朝鮮へ、次女は相手の故郷の韓国へ、三女は日本人と結婚し、それぞれの道を歩むことになる。そして幸せを願う両親との辛い別れで終幕。
一つだけ気になったのはストーリーの展開に既視感があって、帰宅してから思い出したのだが「屋根の上のバイオリン弾き」に骨格が似ている気がした。作品に影響があったのかどうかは作者に訊いてみないと分からないが。

戦後の経済成長の中で日本人は豊かになった。しかしその影には取り残された人たちもいた。社会的差別を受けてきた在日朝鮮・韓国人の人たちや被差別部落の人たちだ。
東京でもかつては中央線から見える場所にスラムがあった。小説や映画にも描かれた見慣れた風景だったが、東京オリンピックを機会にキレイに撤去されてしまった。いま考えたらあの人たちはどこへ行ったんだろう。
この芝居はそうした経済発展の影の部分を描いている。
と同時に、登場人物たちの溢れるエネルギーが舞台を駆け回る。開演前から舞台の焼肉店では歌や踊りが披露され、喧嘩となれば男女を問わず派手な乱闘シーンが繰り広げられる。
どんな悲惨な場面でも常に笑いがあり、大笑いの後に泣けるシーンが出てくる(会場からすすり泣きの声が聞こえてくる)。舞台のテンションがそのまま客席に伝わってくるのだ。これだけは実際に劇を観ないと分からない。
とにかく、素晴らしい作品だ。

この芝居の背景には大きな政治問題も横たわっている。例えば焼肉店主の故郷が済州島だが、ここでは戦後「四・三事件」という大虐殺事件が起きている。なんの罪もない村人たちが公称で3万人(実際はもっと多数と見られる)もの人が殺害された事件だ。店主が親類縁者が皆殺されてしまい故郷に帰れないと言ったのはこの事だ。
日本政府が奨励した北朝鮮帰国運動がどういう結末になったのかは、世間が知るところだ。
1965年の日韓会談に基き「在日韓国人の地位協定」が締結され、在日韓国人に対する一定の優遇措置が取られたが、これが在日朝鮮人の間に溝が作られてしまった。これも劇中に出て来る。

出演者では焼肉店の夫婦を演じた韓国人俳優ナム・ミジョンとハ・ソングァンの演技が素晴らしい。彼らのセリフの多くはハングル語だが、聴いていて胸にジーンと来る(日本語字幕が出るのを知らなかった)。3人の娘たちを演じた馬渕英俚可、中村ゆり、チョン・ヘソンの演技も良く、悲しみが伝わってくる。他では常連客の一人を演じた櫻井章喜の演技が光る

在特会とやらを中心に在日の人々に対する差別を煽るような傾向が続いている今、多くの方々に観て欲しい芝居である。
公演は3月17日まで。

« 待ってまっした!「らくご・古金亭ふたたび」(2016/3/14) | トップページ | まるで「チーママ」みたいな女流作家たち »

演劇」カテゴリの記事

コメント

気になっていました。
いま電話したら満席とのこと、行動が遅いのです。

佐平次様
初演の時は当初あまり入りが良くなかったそうですが、日を追って観客が増え次第に満席になっていったとのこと。再演も今回の再々演もチケットは完売したようです。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 待ってまっした!「らくご・古金亭ふたたび」(2016/3/14) | トップページ | まるで「チーママ」みたいな女流作家たち »