「記念碑」(2016/3/26)
現代カナダ演劇・最新作連続公演『記念碑 [The Monument] 』
日時:2016年3月26日(土)14時
会場:劇「小劇場」
作:コリーン・ワグナー
翻訳:吉原豊司
演出:小笠原響
< キャスト >
寺十吾:ステッコ
森尾舞:メイラ
下北沢駅周辺にはいくつもの小劇場があり、今回はそのうちの『劇「小劇場」』で行われた「記念碑」を観劇。1995年にカナダで初演以来、欧州各国、米国、オーストラリア、ルワンダで演されている。なかでも注目されるのは中国でも上演されたことだ。民族浄化を題材にした本作品がよくぞ検閲に通ったものだ。
【ストーリー】
舞台は時代も地域も特定されていないが、恐らくは1990年代のボスニア紛争での民族浄化をモデルにしたものと思われる。
戦地で23人の女性を強姦殺人し電気椅子に座らされた男ステッコの前に、女性尋問官のメイラが現れる。
メイラはステッコに対し、一生いうことを聞くか、 そのまま死ぬか選択をせまる。ステッコはメイラの言うことを聞くを選び、首に鎖をつながれた犬か奴隷にような扱いを受ける。メイラはステッコが犯した犯罪について少しずつ自白させ、やがて彼が遺体を埋めた森に連れ出す。何体かの遺体を掘り起こすうちに、その内の1体がメイラの娘であることを確認する。メイラに真実を語るよう迫られたステッコは具体的な殺害状況を語り出す。あまりの凄惨な内容に激怒したメイラはステッコを殺そうとするが果たせず、二人で手を取り合って故郷へ帰るところで終幕。
電気椅子にしばられたステッコが叫ぶ冒頭のシーン、「人を殺すのが犯罪なら、どうしていつまでも戦争を続けているのだ!」。これが本作品のテーマだ。
ステッコは英雄だった。23人もの女性を強姦して殺したのも上官の命令だった。下級兵士に勇敢に突撃させるための度胸試しにやらされた。彼はそれに応えただけだと言う。戦場では誰もがやっていた事だと言う。そこには同情も憐れみもなかったのだと言う。
メイラはステッコの命を救う代わりに、彼の犯した罪を思い起こさせる。彼は被害者のことを少しずつ思い出すが、それは人としてではなく記号だった。メイラは怒りに燃えてステッコを殺そうとすると、ステッコはこう叫ぶ、「あんただって一緒じゃないか」。
メイラからステッコの恋人もまた強姦され殺されたことを告げられ、ステッコは苦しむ。その姿を見てメイラは彼を赦す気持ちになってゆく。
戦争は全ての倫理観を吹っ飛ばす。日常的には悪事とされることが、例えば殺人や略奪など、正当化され英雄視される。その戦争が今も世界各地で行われている。その不条理さを訴えた芝居だからこそ、世界各地で上演されてきたのだろう。
日本は幸いなことにこの70年あまり、直接参戦することなく、とにかく平和が保たれてきた。それと同時に戦争に対する実感も薄れてきているのも事実だ。昨年、戦争法案ともよぶべき法律が成立し、着々とその施行が準備されつつある。安倍政権は憲法改正を声高に主張し始め、産経などのメディアやネットの一部では好戦的な主張も行われている。
こうした時期に「記念碑」のような作品が上演されたことは意義のあることだと思う。
二人の出演者、寺十吾(ジツナシ サトル)と森尾舞(モリオ マイ)は、文字通り泥まみれの奮闘で、観ていて背筋が寒くなった。
公演は、本日27日まで。
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