通ごのみ「扇辰・白酒二人会」(2016/5/11)
通ごのみ「扇辰・白酒二人会」
日時:2016年5月11日(水)18:30
会場:日本橋劇場
< 番組 >
前座・橘家かな文『千早ふる』
入船亭扇辰『魂の入れ替え』
桃月庵白酒『お茶汲み』
~仲入り~
桃月庵白酒『代脈』
入船亭扇辰『藪入り』
扇辰と白酒という体形も芸風も対照的な二人の会、毎回扇辰が白酒の汗かき、暑がりをイジッて、それに白酒がチクリと応えるというマクラがお約束。
扇辰『魂の入れ替え』、珍しいネタで白酒が後から解説していたが、扇橋が十八番にしていたそうだ。古典だが面白味に欠けるせいか「誰も教わりに来ない」と嘆いていたとか。今では弟子の扇辰や当代小さんら何人かの人がこのネタを受け継いでいる。
ストーリーは、人が眠ると魂が抜け出し、あまり急激に起こすと魂が元の身体に戻らなくなるという言い伝えがベースになっている。鳶の頭と先生が並んで寝ているとそれぞれの魂が抜け出し、そこへ火事だという騒ぎ。慌てた魂が入れ替わって身体に入ったから大騒ぎ。元へ戻そうと医者が睡眠薬を調合し二人に飲ませて、また二つの魂が抜け出す。二人が爆睡してるので退屈した魂が草むらで寝ていると、見世物小屋の若い衆が金儲けを企んで持ち去ってしまう。一方、先生の家では魂を呼び戻すための祈祷が行われ、日蓮宗の信者二十人がお題目を唱和している。先の若い衆もその音に引っ張られ先生宅に来て二つの魂を放り出す。魂が丸窓から家に入ろうとして、誤って窓の下の井戸に落ちてしまう。「ドンプク、ドンドンプクプク」でサゲ。
日蓮宗のお題目で団扇太鼓を「ドンツク、ドンドンツクツク」と叩くのを掛けたものだ。
古典落語としては随分とシュールな噺であまり面白いとは言えないが、それでも聴かせていたのは扇辰の技量に拠るところ大だ。
白酒『お茶汲み』、これも珍しいネタに入るだろう。志ん生が得意としていたが、その後は志ん朝、現役では歌丸が演じている。
男が吉原の引け時に安い店に80銭の約束で上り、部屋で待っていると入ってきた花魁が一目男を見るなりキャーっと言って驚く、分けを聞くと、静岡から駆け落ちしてきて、自分は苦界に身を沈め、その金で男は商売を始めようと約束していたが、男が病で死んでしまった。その相手の男とお前さんがソックリなので驚いたのだと言う。来年に年季が明けたら私を女房にしてくれと涙ながらに頼む。男もその気になりかけるが、良く見ると目元に茶殻が付いている。お茶を涙に見せかけた芝居だと呆れて帰ってきた。
それを聞いた知り合いの男が、その店に上がり同じ花魁を指名する。入ってきた花魁を一目見てアッと驚き、その分けを花魁と同じストーリーで聴かせる、最初は真剣に聞いていた花魁が途中から白けてきて、男が涙声になると、
「待っといで。今、お茶をくんでくるから」
でサゲ。
色街は客と女の化かし合い、双方ともそれを承知で楽しんでいたのだろう。もっともこの関係は現在のクラブやスナックでも一緒で、アタシなんか何度騙されてきたか。やっぱり向こうはプロだから上手いんだ、これが。
廓噺を演らせたら、若手では白酒が第一人者と言って良い。玄人の女性を描くのが白酒は巧みだ。
白酒『代脈』、白酒の高座は、医者の弟子の銀南と駕籠かきとのヤリトリをカットし、よりスッキリした形で演じた。この銀南、子供の頃は優秀だったのが、どこでこんなに愚かになってしまったのか。いつも気になるが、誰も理由を説明してくれない。
扇辰『藪入り』、寄席でもしばしば高座に掛かるが、このネタの「君には忠、親には孝」(サゲにも使われている)という儒教臭が強すぎて、どうも好きになれない。先代の金馬が古典を改作したもので物語として良く練られているが、修身の教科書に出て来るような臭いが鼻につく。
こればっかりは好みの問題なので仕方ない。
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