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2016/05/30

「京都御所」の見学

先週、京都に行く用事があり、その折り京都御所を見学してきました。
春秋の一般開放以外の時期では宮内庁のHPから申し込みができます。
比較的少人数なので、ゆっくり見学できるのが利点です。
ガイド付きで、しかも無料です。
ここ数年、京都は世界の人気都市の連続1位になるなどで、海外から多くの観光客が訪れていますが、
特に外国人にとって御所は隠れた人気スポットとなっています。

8世紀末に平安京に遷都されて以来、明治維新までこの場所が皇居でした。
ただ幾度か火災にあい、現在の建物は1855年に再建されたものです。
全体の広さは東京ディズニーランドとほぼ同じですが、御所以外は御苑として一般に開放されています。
見学者用の門を入って直ぐに見えるのが「宣秋門(せんしゅうもん)」で、皇居に参内する人たちはここから入門しました。
Photo_13

そこから「御車寄(おくるまよせ)」に向かい、ここが玄関になります。当時の公家たちは牛車の乗って来たので、ここで下車していました。
Photo_14

「諸太夫の間(しょだいぶのま)」は参内した人の控室。奥には襖絵が飾られているそうですが、保存のために前面にアクリル板が張られていて内部は見えません。
Photo_15

御所の中心は「紫宸殿(ししんでん)」で、代々の天皇の即位式など重要な行事が行われた正殿です。
御所の中には白い石が敷き詰められていますが、これは建物の内部に照明設備がなく、太陽光を白石の反射によってとり込むためです。
落語の『祇園祭』で京男が江戸の男に向かって
「こっちゃ京の御所の御砂を掴んでみなはれ。瘧(おこり)が落ちるわな。」
と啖呵を切りますが、その御砂がこれです。
向かって左に見えるのが右近の桜、右に見えるのが左近の橘。
昭和天皇の即位式まではこの場所で行われました。
Photo_16

紫宸殿の正面にある門が「建礼門(けんれいもん)」です。
Photo_17

紫宸殿の周囲は「朱塗りの回廊」がめぐらされています。
Photo_18

「清涼殿(せいりょうでん)」は天皇が日常生活を送った場所で、内部は風通しがよく設計されていて、夏場は快適だそうです。
反面、冬の寒さは厳しく、十二単(じゅうにひとえ)の綿入れが発達したのはそのためです。
Photo_19
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写真の左側の建物が「小御所(こごしょ)」で、天皇が将軍や諸侯と対面するときに使われた場所です。
王政復古の後に行われた「小御所」会議はここで開かれました。
Photo_21

「御学問所(おがくもんじょ)」は学問だけでなく、天皇が臣下と対面するときの場所としても使われました。
Photo_22

「御池庭」は御所の庭園で、大きな池を中心とした回遊式庭園です。中央に見えるのは欅(けやき)橋。
Photo_23

「御常御殿(おつねごてん)」は天皇が日常生活を営む場所として、豊臣秀吉が造営したものです。以前は清涼殿がその役割を負っていましたが、生活様式の変化に対応できず、こちらに移されたものです。
Photo_24

ここから奥はいわゆる「奥向き」となり、立ち入りは出来ません。
御所にはこの他にも多くの建物があり、いずれも平安時代の建築様式が再現されたものです。
ただ、現在はほとんど使われていない様子で、モッタイナイ感がありますが、今の皇室の方々は、ここでは住めないでしょうね。

2016/05/22

お知らせ

10日間ほどブログを休止します。
再開は6月上旬を予定しています。

2016/05/21

柳家喜多八の死去

柳家喜多八が5月17日、癌のため死去した。
66歳だった。
覚悟はしていたが、
悲しい。
口惜しい。

思い出が多すぎて、
今はただ、ご冥福をお祈りする。

2016/05/19

【思い出の落語家21】古今亭志ん朝(4)志ん朝の気になる「マクラ」

ここで紹介する古今亭志ん朝の「マクラ」は「にっかん飛切落語会 第261夜」での高座で、この時のネタは『試し酒』だ。
「マクラ」の中で、志ん朝の体調が思わしくない様子が窺われる。
時系列で並べてみると、よりこの事が明確になると思う。

1999年1月25日 本「マクラ」の口演。
1999年9月 11代目馬生の襲名披露興行の際の高座で、鈴本演芸場の最前列で見ていた私が、志ん朝の体調の異変(痩せて体が一回り小さく見え、顔色がどす黒くなっていた)に気付いた。
2001年10月1日 志ん朝の死去。

この高座で、ご本人は健康問題は飲酒が原因と思っていたようだが、実際には肝臓癌が体を蝕んでいたのだろう。

***********************
えー、ただいま昇太君という、ねぇ、売れっ子でございまして、ああいう方を袖で聞いてますと自分の年を感じますな。ああいう時代も、あたしもあったんです。段々勢いが無くなってきて、今このまんま寝たいくらいで。
うー、正月は寄席の方をつとめます。元旦から、えー、これ10日まで、初席ですな。あたくしの場合は、えー、浅草と上野。11日から20日まで、これを二之席といいますが、お正月は。えー、池袋から新宿にまいります。でー、元旦から10日の間は忙しいんで、ガチャガチャしてますから。もう昼夜の2興業じゃないんです。浅草なんか4興業ぐらいになっちゃう。だから、そこへ大勢入れますから。そうですね、ひと高座5分ぐらい、ご挨拶。でまあ、掛け持ちったって近いし、昼間だけですから。ちょっと家に帰ってゆっくりできるんです。ところが、こんだ二之席では、池袋で夜仲入りをつとめまして、そして、えー、新宿へ行って夜のトリをつとめさして頂く。大変ありがたいが、これが急にねぇ、長くなるんで疲れるんです。そこへもってきて、あたくしが夜トリを取ってる。
前に色物さんがあがります、その前にこん平*1)がいる。医者に言われてるんです、「こん平は気をつけなさい」。もう、とにかく、もう、いつまでも飲んでんですから。だからもう、なんですよ、この前、たい平*2)に会った時に「今度の”にっかん”*3)、宜しくお願いします」っていうから「そう、一緒かい」。そしたら「ええ、一緒です。ウチの師匠も一緒です」って、「え、えー!」。やだなぁ、さっきまで随分気が重かったんですけど、したら「これから、あたしね、卓球なんですよ」って言うから、「そりゃいい、行った方がいい、そっち行った方がいい」。
うー、とにかくもう、ああいう乱暴者というか、もっとも酒ですけどね。もー、とにかく、もー、ほうぼうの店で断られるんですよ。賑やかですからね。他のお客さまの迷惑になるってんで。だからもう、ちょっと早めに帰って貰いたいなんて。えー、そういうお店はちょっと遅くなると、「すいません、閉店なんで」って追い出そうとする。「そぉ、ラストオーダー? うーん、じゃねぇ、焼酎のウーロン割り18杯!」とかなんとか言うんで。店がかわいそうですよ。付き合っている連中もかわいそうです。「お送りいたしますよ、兄さん、ねぇ、ウチまで送りましょう」。送り狼ってぇのは聞いたことがありますが、送りこん平。
ねぇ、そいでもう、あいつの顔を見ると、それだけで酔うんです。で、実際、噺家を二人殺してましてね。梅橋*4)という、ねー、なかなか新作ではいい噺家ですよ。えー、機転のきく、謎かけなんぞやらしたら大変に上手い。いまだに名作として残ってるなんていくつもある。ね、うー、やられちゃった。その後にやられたのは小圓遊*5)。ね、あれ見栄っ張りだから、おだてに乗るんですよ。「いいねぇ、兄さんの飲みっぷりいいなぁ、きゅーってやった時なんか、ぶるぶるって来るね」、「そうかい」なんて言いながら「きゅうー!」。「もっと見たいなぁ」「見たい?」なんて、とうとう死んじゃったんです。いま、あたしが狙われてるらしいんです。もう、だから、もう、正月の疲れが今残ってねぇ。もう少し反り身になって一番後ろの方にもお顔を見せたいですけど、身体がなかなかもちゃがんないんです。どうぞ、しばらくの間、お付き合いを頂きます。
ヤケになって、酒の話でもしたいと思いますが。まあ、あの、お酒もねぇ、そうですねぇ、「たまに休肝日を作った方がいいよ」って言われるんです、お医者さんに。「ええ、じゃそうしましょう」なんて休肝日を作るんですが、上手くいかないんですよ、ねー。で、こやって、こういう所で一席やらせて頂く。あるいは寄席をつとめて終わる。ウチへ帰る。ね、湯に入って飯を食い、さあ、どうしよう。なんにもすることぁないんですよ。はなっから飲まない人なんか、なんてことないんですよ、えー。その時間がとっても楽しいんです、なんてぇのもいる。ねー、小朝*6)なんかそうですよ。あれ、はなっから飲まないから。「君、どうすんの? 飯食ったら」、「そうですね、デザートを頂きながら、紅茶を飲んで、好きな音楽を聴きます」。引っ叩いてやろうかと。あたしら飲む人間は、そうはいかないんですよ。終わっちゃって、じゃ、飯食っちゃって、歯も磨いちゃって。で、ね、もうしょうがないから寝るかと、とりあえず寝床に入るんです。で、普段酔っぱらって寝るんですから、シラフじゃとても寝られません。ね、しょうがないから又起きて、寝床から出て、本かなんか読んでる。なんか知らないけど、なんか忘れ物したようで、読んでても気乗りがしないですな。おんなじ行を何度も読んじゃたりなんかして。で、ちょっと飲もうかななんて考えながら読んでるんです。それじゃ音楽でも聞こうかなと。シラフの時に音楽を聴いても、気乗りがしない。よくこの人たちぁこんなこと出来るなぁ、なんて冷静になったりして。そうなると、よけい寝られない。とどのつまり明け方になって、ほら、あした仕事があるんだから、少し寝とかなきゃいけない。いきなり冷蔵庫を開けてガーっと飲んじゃって。これが残っちゃって、何にもならない。まあ、そうですね、何日かやめられるんならといいと思うんですが。体にいいからと、あたしもやめたことがあるんですが、これがなかなか難しいんですよ。
***********************
【註記】
*1)林家こん平、元「笑点」メンバー
*2)林家たい平、現「笑点」メンバー
*3)にっかん飛切落語会 
*4)2代目春風亭梅橋、前名は初代柳亭小痴楽、「笑点」初代メンバー
*5)4代目三遊亭小圓遊、「笑点」初代メンバー
*6)春風亭小朝

2016/05/18

前進座「東海道四谷怪談」(2016/5/17)

『東海道四谷怪談』
日時:2016年5月17日(水)11時
会場:国立劇場

作:鶴屋南北
台本:小野文隆
演出進行:中橋耕史
<  主な配役  >
河原崎國太郎:お岩/小仏小平/茶屋女おもん/小平女房お花
嵐芳三郎:民谷伊右衛門
藤川矢之輔:直助権兵衛
忠村臣弥:お袖
瀬川菊之丞:佐藤与茂七
武井茂:お岩の父四谷左門
松涛喜八郎:伊藤喜兵衛
山崎辰三郎:後家お弓
本村祐樹:孫娘お梅
益城宏:秋山長兵衛
姉川新之輔:伊右衛門母お熊
柳生啓介:按摩宅悦

前進座創立80周年記念公演は鶴屋南北の最高傑作『東海道四谷怪談』で、1982年以来実に34年ぶりの上演となる。
前進座はかなり以前から國太郎が中心になっていて、女形が主人公になる狂言が多い。この芝居もいつ上演するか楽しみにしていた。
ストーリーはお馴染みだが、以下にwikiの記事を引用しておく。

【元塩冶藩士、四谷左門の娘・岩は夫である伊右衛門の不行状を理由に実家に連れ戻されていた。伊右衛門は左門に岩との復縁を迫るが、過去の悪事(公金横領)を指摘され、辻斬りの仕業に見せかけ左門を殺害。同じ場所で、岩の妹・袖に横恋慕していた薬売り・直助は、袖の夫・佐藤与茂七(実は入れ替った別人)を殺害していた。ちょうどそこへ岩と袖がやってきて、左門と与茂七の死体を見つける。嘆く2人に伊右衛門と直助は仇を討ってやると言いくるめる。そして、伊右衛門と岩は復縁し、直助と袖は同居することになる。
田宮家に戻った岩は産後の肥立ちが悪く、病がちになったため、伊右衛門は岩を厭うようになる。高師直の家臣伊藤喜兵衛の孫・梅は伊右衛門に恋をし、喜兵衛も伊右衛門を婿に望む。高家への仕官を条件に承諾した伊右衛門は、按摩の宅悦を脅して岩と不義密通をはたらかせ、それを口実に離縁しようと画策する。喜兵衛から贈られた薬のために容貌が崩れた岩を見て脅えた宅悦は伊右衛門の計画を暴露する。岩は悶え苦しみ、置いてあった刀が首に刺さって死ぬ。伊右衛門は家宝の薬を盗んだとがで捕らえていた小仏小平を惨殺。伊右衛門の手下は岩と小平の死体を戸板にくくりつけ、川に流す。
伊右衛門は伊藤家の婿に入るが、婚礼の晩に幽霊を見て錯乱し、梅と喜兵衛を殺害、逃亡する。
袖は宅悦に姉の死を知らされ、仇討ちを条件に直助に身を許すが、そこへ死んだはずの与茂七が帰ってくる。結果として不貞を働いた袖はあえて与茂七、直助二人の手にかかり死ぬ。袖の最後の言葉から、直助は袖が実の妹だったことを知り、自害する。
蛇山の庵室で伊右衛門は岩の幽霊と鼠に苦しめられて狂乱する。そこへ真相を知った与茂七が来て、舅と義姉の敵である伊右衛門を討つ。】

よく知られるように『東海道四谷怪談』は『仮名手本忠臣蔵』と密接な関係があり、初演の際は両方の芝居が交互に上演された。いうなれば裏忠臣蔵だ。
武士は浪人になれば無職だ。これと言った特別の技能を持たない浪人たちの生活はさぞかし大変だったろう。まして家族がいれば余計だ。赤穂の浪士たちも討ち入りまでの期間、生活を維持するのは大変だったに違いない。忠臣蔵にはそうした苦労は一切描かれていないが、暮らしに困窮して悪事に手を出した者や、場合によっては妻や娘が遊郭に身を沈めたケースもあったかも知れない。そうした忠臣蔵の影の部分に光をあてた戯曲だろう。
この芝居に登場する人物は浪人、庶民の区別なく生きるために懸命になっている。
登場してくる女性たちは例外なく男どものために不幸になる。その最たる者がお岩だが、彼女は生前こそ慎ましい女性であったが、死んで幽霊になった後はこれでもかこれでもかとばかり伊右衛門らに復讐して苦しめる。もしかしたら南北は、当時の女性の表面的な慎まさと内面的な激しさをお岩の形を借りて表現したのかも。
この芝居は、そうした人々のエネルギーが全編にわたって横溢している。

出演者では主役の國太郎の存在感が圧倒的だ。お岩の儚さと幽霊になってからの激しさを見事に表現している。「髪梳き」「戸板返し」「提灯抜け」「仏壇返し」などの見せ場ではケレンの所作で観客を魅了していた。
この芝居は國太郎の奮闘公演である。
伊右衛門を演じた嵐芳三郎は、初役の「色悪」を見事に演じた。前進座の立役はこの人が担うことになろう。
矢之輔が気持ち良さそうに悪役を演じ、お袖役の忠村臣弥が幸せ薄い女性の姿を描いていた。

公演は22日まで。

2016/05/16

#49上方落語会@横浜にぎわい座(2016/5/15)

第四十九回「上方落語会~天満天神繁昌亭大賞受賞者の会~』
日時:2016年5月15日(日)14時
会場:横浜にぎわい座 芸能ホール
<  番組  >
開口一番・笑福亭笑利『平林』
笑福亭たま『おとぎ話殺人事件』
桂かい枝『明石飛脚』
林家染二『子は鎹』
~仲入り~
笑福亭鶴笑『パペット落語”立体西遊記”』
桂あやめ『営業一課の高田君』

にぎわい座での49回上方落語会は「繁昌亭大賞受賞者の会』と銘打って5名の噺家が出演。
各出場者の受賞歴は次の通り。
桂あやめ(第一回奨励賞)、林家染二(第二回大賞)、笑福亭鶴笑(第二回爆笑賞)、桂かい枝(第一回爆笑賞、第五回創作賞)、笑福亭たま(第二回輝き賞、第四回創作賞、第七回爆笑賞)
現在、多くの上方の噺家が東京で公演を行っているがいずれも個別で、この会は上方落語協会との提携で開かれている所に特長がある。

たま『おとぎ話殺人事件』、洋の東西に登場するお伽話(実際には幅広い人物が出てくるが)の登場人物が殺人事件に巻き込まれるというストーリーだが、筋そのものより「地口」の面白さで聴かせる。ショート落語を積み重ねた様なネタ。アタシはこの人の古典を評価しているのだが、最近は滅多に当らない。

かい枝『明石飛脚』、珍しい噺との事だが、手元にある米朝のDVDの「珍品落語集」に入っているので個人的にはお馴染みのネタだ。大阪から明石まで手紙を届けるのを頼まれた男が駆け足で明石に向かう。大阪ー明石間は15里と聞いていたので夕方までに着くと思って出発したが、この男道々で「大阪から明石まではどれくらいあります?」と訊くものだから答えはいつも「15里ぐらい」で、さっぱり目的地に近づかないと思い込む、やがて明石に着いて疲れて茶屋の床几に寝てしまい、起こされて男が、
「あっ。ここはどこです?」
「どこて、ここは明石やがな」
「明石~!あぁ~走るより寝てたほうが早い」
でサゲ。ここまでが本来の『明石飛脚』で、次に『雪隠飛脚』が続く。
明石から大阪への帰り、握り飯を懐にしたこの男、途中で便意を催し雪隠に入ると、途端に握り飯を下に落としてしまい、
「あ~近道をしよった!」
でサゲ。
次いで、『うわばみ飛脚』ではこの男が山道でうわばみに飲まれてしまう。だが、そのままうわばみの尻の穴から抜け出し逃げて行く。見送ったうわばみが、
「しもたぁ、褌しとけばよかったぁー」
でサゲ。
かい枝はハメモノをバックに走り続けて奮闘。奮闘にお疲れさまでした。

染二『子は鎹』、ご存知『子別れ・下』で、以前この手の噺は大阪では受けないとか、大工の熊からではなく女房の側から描いた『女の子別れ』として上演されていると聞いていたが、現在は上方落語もこの形で口演されているのだろうか。ストーリーは東京と同じで、よりお涙頂戴の人情噺風の色が濃くなっている。本編に入る前に『中』に相当する熊が女房と息子と別れ、馴染みの女郎を後妻に迎えるがこれが大失敗。ここでようやく目が覚め立ち直る所までが手際よく紹介されていたには親切だ。ここを省いていきなり『下』に行くと、熊がただの良い人になってしまう。
染二の高座は熊夫婦が再会する場面も情感たっぷりに演じたが、人によってはクサく感じたかも。

鶴笑『パペット落語”立体西遊記”』、マクラで前座修行の厳しさを語ったが、どうやら師匠というのはやたら弟子に無理難題を吹っ掛けるものらしい。そうした理不尽さに耐えた人間だけがこの世界に生き残れるものらしい。まあ師匠の性格にもよるだろうけど。そう言えば立川談春の所では、7人いた弟子が今は一人だけ(こはる、陰では猛獣使いとも呼ばれている)になっていると報じられている。どうやら「談春」という字は「無理偏に激怒」と書くようだ。鶴笑の高座は落語というよりは色物に近く、全身を使ったパペット落語で、これだけは実際に見て貰うしかない。海外に拠点を構えて公演していた時期もあったそうだが、この手法なら海外でも受けるのだろう。

あやめ『営業一課の高田君』、高座を見るのは20年ぶり位になるか、もうすっかりベテランになった。「かい枝君」なんて呼んでるもんね。20代というから30年ほど前に作った新作だそうだ。24歳までの絶対に結婚すると決めていた女性が見合いを予定していたのに好きな同僚の男性にあの手この手で告白するが失敗。処が見合いに現れた相手はくだんの男性でメデタシメデタシというストーリー。新作の泣き所は、時代と共に作品の背景がどんどん古くなり、観客とのズレが生じること。この作品も正にそうで、告白する手段が今や古色蒼然としている。元々の作品が出来が良いとは思えず、なぜ今になっても高座に掛けているのか理解に苦しむ。せっかくだから、古典を聴きたかった。

2016/05/15

小三治と喬・文・朝(2016/5/14)

「柳家小三治と喬・文・朝」
日時:2016年5月14日(土)13時30分
会場:東京芸術劇場 プレイハウス
<  番組  >
前座・柳家小はぜ『道灌』
春風亭朝也『唖の釣り』
柳家喬太郎『稲葉さんの大冒険』
~仲入り~
古今亭文菊『厩火事』
柳家小三治『青菜』

小三治が言っていたが珍しい落語会だ。出演者の取り合せが妙でこういうタイトルになったんだろう。コンサート会場の作りの場内は一杯の入り。女性ファンが目立つ。

朝也『唖の釣り』、来春の真打昇進が決まった朝也、実力的にはもう少し早くても良かっただろうが、年功序列制なので致し方ない。兄弟子の一之輔とは対照的な真っ直ぐな芸で、実力者が揃う協会の中でこれから伸して行くのは、もう一つプラスαが欲しい所だ。

喬太郎『稲葉さんの大冒険』、円丈が喬太郎の師匠・さん喬のためにこさえた新作。タイトルの「稲葉」や名前の「稔」は、さん喬の本名。毎日正確な時間通りの生活を続けているサラリーマンの稲葉さんが、街で風俗店の宣伝ティッシュを受け取ったばかりに、その始末に困り公園で穴を掘って埋めようとしていた(無理のある筋)。そこへ犬の散歩に通りかかった老人が、穴を掘っているのは釣りが好きで土中のミミズを取っていると勘違いして持参のシャベルでさらに深く掘り多量のミミズを集めビニール袋に詰める。稲葉さんが当惑していると、ガーデニングに凝っていると思い込んで土を集めビニール袋に詰める。稲葉さんがその処置に困っていると、今度は松の木を切って稲葉さんの身体にくくりつける。松の木を抱いて腰のベルトにミミズと土の袋を括りつけた稲葉さんが自宅に戻ると妻が驚くと、誕生祝いだと(この日が稲葉さんの誕生日)だと言って言い訳をする。
不条理劇を見ているみたいな気分だが、実直だがどこか変人な稲葉さんはさん喬で、お節介で妄想癖のある老人が円丈なのかな。それとも喬太郎がモデルか。
この日の客層を見てこのネタを選択したものと思われるが、老人が稲葉さんに松の木を括りつける場面で、桂枝雀の『宿替え』での荷造りと同じ手さばきを披露するなど、観客を喜ばせていた。
大した面白いネタとも思えぬが、喬太郎は客層を見てその日の観客の気分を掬い取るのが上手い。それで今日の地位を築いたか。

文菊『厩火事』、伸び盛りの若手の高座というのは、見る度に進歩が感じられる。文菊が描くお崎は亭主が可愛くてしょうがない。亭主が道楽の茶碗を眺めている横顔が純粋な少年の様だと、ウットリとしてしまう。いくら邪険にされても、たまに優しい言葉でも掛けられようものなら、それだけでご満悦。このお崎の年増女のこぼれんばかりの色気が高座に滲み出ていた。強弱を付けた語りも巧みで結構でした。

小三治『青菜』、この噺のキモは前半のお屋敷の様子と、後半の植木屋の長屋の様子との対比にあると思う。前半はゆったりと時間が流れ、後半はたたみ込む様に時間の流れが早くなる。小三治の高座はさすがにこの対比が巧みで、後半の植木屋と大工との珍妙な会話を軸に会場を沸かせていた。
細部では、屋敷の主人が植木屋に酒を勧める場面で、主人が猪口で二口飲んだ飲み残しの柳影の徳利を植木屋が受け取って手酌でグラスに注いでいたが、二人の位置関係をリアルに示していると思った。

2016/05/14

【舛添会見】「金を返せば全てチャラ」って、ヘンじゃないか

昨日の舛添都知事の記者会見で、愚にもつかない言い逃れをして、どうやっても説明がつかない費用だけは
「収支報告書の訂正削除をした上で、返金することといたしました」
で終り。舛添に限らず政治家の不正疑惑では、このフレーズが多用され、これにて一件落着となるケースがほとんどだ。
通常、窃盗や詐欺罪の場合は返金しても罪に問われるのに、政治資金規正法だけはなぜ金を返せばチャラになるのか、その理由が分からない。
今回の舛添のケースでは、管理団体から政治資金と偽って出金させ、それを私的に流用していたのだから詐取であろう。

今の政治資金規正法はザル法と呼ばれるように、抜け道だらけなのだ。だからこの法律を守ることは政治家として最低限の義務だ。その法律に違反したという事は、よほど悪質だということだ。
ネットで、それでは政治家には清廉潔白だけを求めるのかという意見もあったが、見当違いも甚だしい。政治家なんだから先ずは法律を守る事が最低要件だと主張しているのだ。
なかには、不正を追及されると「法律に問題がある」と居直るケースも報じられている。
まさに「居直り強盗」である。

2016/05/13

やっぱり! 東京オリンピック招致に買収疑惑

やっぱりと言おうか、ようやくと言おうか、東京オリンピック招致に絡む買収疑惑が報じられている。

英紙「ガーディアン」が5月11日、2020年の東京オリンピック招致を巡り、招致委員会側が当時の国際オリンピック委員会(IOC)の委員で、国際陸上競技連盟(IAAF)の会長を務めていたラミン・ディアク氏の息子が関与する口座に130万ユーロ(約1億6000万円)を支払った疑惑があると報じた。ガーディアンによると、すでにフランス当局が捜査を開始しているという。
この口座はシンガポールの金融機関のもので、ラミン・ディアク氏の息子で、国際陸連の「コンサルタント」を務めていたパパマッサタ・ディアク氏につながっているものであるとしている。
ラミン・ディアク氏は国際陸連会長時代にロシア選手のドーピングをもみ消す見返りに少なくとも約100万ユーロの賄賂を受け取った疑惑があり、既にフランス当局の捜査を受けている。シンガポールの口座はこのドーピング隠しに絡む金銭授受にも使われているという。

一方、フランス検察当局は5月12日、東京オリンピックの招致活動で、東京側が2013年にパパマッサタ氏の関連会社宛てに約2億2000万円を支払っていたと捜査状況を明らかにした。当局は声明の中で「(支払いは)日本の銀行口座からで、名義は2020年東京五輪招致委員会だった」と述べたという。

なるほど、ドーピングもみ消しなど数々の不正工作を行ってきた国際陸連会長への捜査の過程で、たまたま東京五輪招致委員会からの送金が明らかになってしまったわけだ。
まさに「天網恢恢疎にして漏らさず」である。
この疑惑については既に今年1月にニュースが流れていたが、マスメディアは黙殺していた。今回はフランスの検察当局が動いているということで無視できなかったのだろう。
ただ、「ガーディアン」の報道では「電通」の名が上がっているが、マスメディアはスルーしている様だ。
そりゃそうだろうよ。
電通に逆らえるマスメディアは存在しえないだろうから。

これらの報道に関する日本側の反応だが、東京オリンピック組織委員会はガーディアンの取材に対し「招致期間中に起きたことは知る術がない」と答えている。
また、JOC(日本オリンピック委員会)の広報担当者に支払いの有無について質問したところ、「すでに招致委員会は解散しており、ガーディアンの報道に答える立場にない。我々の理解とは異なるとしか言えない」と語ったという。
その五輪招致委員会だが、それこそ湯水のごとくに金を使っていた。公表されている招致のために使われた費用は次の通り。
2016年大会招致 149億円
2010年大会招致  89億円
合計        238億円
この中から買収などの不正な支出がどれほどあったのかは不明だが、いずれ明らかにされる事を期待したい。

2016/05/12

通ごのみ「扇辰・白酒二人会」(2016/5/11)

通ごのみ「扇辰・白酒二人会」
日時:2016年5月11日(水)18:30
会場:日本橋劇場
<  番組  >
前座・橘家かな文『千早ふる』
入船亭扇辰『魂の入れ替え』
桃月庵白酒『お茶汲み』
~仲入り~
桃月庵白酒『代脈』
入船亭扇辰『藪入り』

扇辰と白酒という体形も芸風も対照的な二人の会、毎回扇辰が白酒の汗かき、暑がりをイジッて、それに白酒がチクリと応えるというマクラがお約束。

扇辰『魂の入れ替え』、珍しいネタで白酒が後から解説していたが、扇橋が十八番にしていたそうだ。古典だが面白味に欠けるせいか「誰も教わりに来ない」と嘆いていたとか。今では弟子の扇辰や当代小さんら何人かの人がこのネタを受け継いでいる。
ストーリーは、人が眠ると魂が抜け出し、あまり急激に起こすと魂が元の身体に戻らなくなるという言い伝えがベースになっている。鳶の頭と先生が並んで寝ているとそれぞれの魂が抜け出し、そこへ火事だという騒ぎ。慌てた魂が入れ替わって身体に入ったから大騒ぎ。元へ戻そうと医者が睡眠薬を調合し二人に飲ませて、また二つの魂が抜け出す。二人が爆睡してるので退屈した魂が草むらで寝ていると、見世物小屋の若い衆が金儲けを企んで持ち去ってしまう。一方、先生の家では魂を呼び戻すための祈祷が行われ、日蓮宗の信者二十人がお題目を唱和している。先の若い衆もその音に引っ張られ先生宅に来て二つの魂を放り出す。魂が丸窓から家に入ろうとして、誤って窓の下の井戸に落ちてしまう。「ドンプク、ドンドンプクプク」でサゲ。
日蓮宗のお題目で団扇太鼓を「ドンツク、ドンドンツクツク」と叩くのを掛けたものだ。
古典落語としては随分とシュールな噺であまり面白いとは言えないが、それでも聴かせていたのは扇辰の技量に拠るところ大だ。

白酒『お茶汲み』、これも珍しいネタに入るだろう。志ん生が得意としていたが、その後は志ん朝、現役では歌丸が演じている。
男が吉原の引け時に安い店に80銭の約束で上り、部屋で待っていると入ってきた花魁が一目男を見るなりキャーっと言って驚く、分けを聞くと、静岡から駆け落ちしてきて、自分は苦界に身を沈め、その金で男は商売を始めようと約束していたが、男が病で死んでしまった。その相手の男とお前さんがソックリなので驚いたのだと言う。来年に年季が明けたら私を女房にしてくれと涙ながらに頼む。男もその気になりかけるが、良く見ると目元に茶殻が付いている。お茶を涙に見せかけた芝居だと呆れて帰ってきた。
それを聞いた知り合いの男が、その店に上がり同じ花魁を指名する。入ってきた花魁を一目見てアッと驚き、その分けを花魁と同じストーリーで聴かせる、最初は真剣に聞いていた花魁が途中から白けてきて、男が涙声になると、
「待っといで。今、お茶をくんでくるから」
でサゲ。
色街は客と女の化かし合い、双方ともそれを承知で楽しんでいたのだろう。もっともこの関係は現在のクラブやスナックでも一緒で、アタシなんか何度騙されてきたか。やっぱり向こうはプロだから上手いんだ、これが。
廓噺を演らせたら、若手では白酒が第一人者と言って良い。玄人の女性を描くのが白酒は巧みだ。

白酒『代脈』、白酒の高座は、医者の弟子の銀南と駕籠かきとのヤリトリをカットし、よりスッキリした形で演じた。この銀南、子供の頃は優秀だったのが、どこでこんなに愚かになってしまったのか。いつも気になるが、誰も理由を説明してくれない。

扇辰『藪入り』、寄席でもしばしば高座に掛かるが、このネタの「君には忠、親には孝」(サゲにも使われている)という儒教臭が強すぎて、どうも好きになれない。先代の金馬が古典を改作したもので物語として良く練られているが、修身の教科書に出て来るような臭いが鼻につく。
こればっかりは好みの問題なので仕方ない。

2016/05/10

書評「戦争は女の顔をしていない」

スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチ (著) 三浦 みどり (翻訳) 『戦争は女の顔をしていない』 (岩波現代文庫 2016/2/17刊)
Photo本作品は2015年にノーベル文学賞を受賞したベラルーシ出身の作家スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの処女作である。そのベラルーシでは出版が許されていないが、ロシアを始め世界各国で出版され大きな反響を呼んだ。
ソ連では第二次世界大戦中に100万人をこえる女性が従軍した。それも他国のように看護婦や軍医というだけでなく、実際に武器を持って戦闘に参加した。なかにはいくつもの勲章を受章した英雄もいた。
処が、戦争が終わってみると、彼女たちは従軍したことを秘密にしたり、戦争体験をひた隠しにした。彼女たちを待ち受けていたのは周囲の女性たちの「戦地に行って男の中で何をしてきのやら」という蔑みの声であり、軍隊では同僚だった男たちも彼女らを守らなかった。そうした女性たちを訪問し、何度も説得して重い口を開かせて聞き書きしたのがこのドキュメンタリーだ。
スタートは1978年でソ連時代だったので証言も制約があった。ペレストロイカの時代になってようやく明らかにされた事実も多く、そうした証言も本書に加えられている。

先ず驚いたのは、彼女たちは自ら志願して軍隊に加わっていたことだ。なかには周囲の反対を押し切り、また軍隊から拒否されてもなお懇願して兵士となった女性も多い。
読後の感想は、ただただ慄然とするだけだった。正直、全てを読み切るのに躊躇した位だ。一夜にして髪が真っ白になった女性、重傷を負って自宅に戻ったら母親が娘だと気付いてくれなかったという女性、赤ちゃんに障害があると知った夫が「お前が戦争で人を殺した報いだ」と非難された女性など、悲しい事実をあげたら切りがない。ソ連崩壊後に明らかにされたソ連軍の蛮行(特に相手国の女性への性暴力)や、捕虜となって帰還した兵士をスパイの疑いで収容所送りをした事実なども、彼女らの証言で明らかになっている。
以下は、従軍したソ連の女性たちの証言からいくつかを抜粋した。

【村を奪還した。どこかで水を汲みたくて探し回った。ある家の庭に入ると、そこにつるべ井戸があった。彫り物で飾った伝統的なつるべ。庭に射殺されたその家の主が倒れていた。そばに飼い犬が座っている。私たちを見つけ歯をむきだした。私たちに襲いかかるのではなく、私たちを呼んでいる風だった。犬について小屋の中に入ると、戸口に奥さんと三人の子供たちが倒れていた。
犬はそのそばに座って泣いているの。本当に泣いているの。人間が泣いているみたいに。】

【戦闘は激しいものでした。白兵戦です・・・これは本当に恐ろしい・・・人間がやることじゃありません。なぐりつけ、銃剣を腹や目に突き刺し、のど元をつかみあって首を絞める。骨を折ったり、呻き声、悲鳴が渦巻いています。頭蓋骨にひびが入るのが聞こえる、割れるのが・・・、戦争の中でも悪夢の最たるもの、人間らしいことなんか何もない。戦争が恐ろしくないなんて言う人がいたら絶対に信じないわ。】

【駅が爆撃されていた。そこに子供たちを満載した列車が止まっていて、子供たちを窓から放り出し始めた。三歳から四歳までの小さな子供たち。そう遠くない所に森があって、そこにみんな走っていく。直ぐ後をドイツの戦車が続く。戦車の列が子供たちを押し潰してゆく。子供たちは跡かたもなく潰された・・・その光景を思い出すと今でも気が狂いそうになるの。】

【モスクワに住んでいる間じゅうずっと、五年ぐらいだったか、市場に行けませんでした。私が戦場で救ったために不具者として生き残った人たちが、私に気付いて、「どうしてあのとき助け出したのだ?」と言うんじゃないかと怖かったんです。若い中尉のことを憶えていたんです。その人の両足はほとんどちぎれていたんですが、爆撃の下で手当てしようとすると、その人は怒鳴ったんです。「長引かせないでくれ! とどめの一発を・・・命令だ!」分かります? その中尉と会ってしまうかもしれない・・・。】

【十年たっても眼を閉じれば浮かんでくるんです。春、戦闘が終わったばかりの畑で負傷兵を探している。畑の麦が踏み荒らされていて、ふと味方の若い兵士とドイツ兵の死体に行き当たります。青々とした麦畑で空を見てるんです。死の影さえ見えません。空を見ている・・・あの目は忘れられません。】

【「来てくれたんだね。来てくれたんだ」そして何かをささやいているんです。何を言ってのか分かりません。もう話せないわ。あの時のことを思い出すといつも涙が溢れてくる。「戦争に行くとき君にキスする間がなかった、キスしてくれ」身体をかがめてキスしてあげる。片方の目から涙がポロッとこぼれて、包帯の中にゆっくり流れて消えた。それで終わり。その人は死んだの。】

2016/05/09

#27大演芸まつり「落語協会五月まつり其の二」(2016/5/8)

第27回演芸まつり「落語協会 五月まつり 其の二」
日時:2016年5月8日(日)13時
会場:国立演芸場
<  番組  >
前座・柳家小はぜ『転失気』
春風亭一之輔『鰒のし』
桃月庵白酒『花色木綿』
林家たい平『七段目』
柳家権太楼『代書屋』
~仲入り~
口上(下手より一之輔、白酒、たい平、権太楼、さん喬、三遊亭金馬日本演芸家連合会長)
ロケット団『漫才』
柳家さん喬『笠碁』

日本演芸家連合主催の「大演芸まつり」は毎年5月1日より10日間、加盟団体が1日交代で演芸を披露しているが、落語協会だけは2日間の興行だ。理由はそうしないと10日間埋まらないからとのこと。出演者はオールスターキャストを揃えているのは、やはり会長出身団体だからか。金馬は口上で言っていたが、落語以外の大衆演芸は低調で頭を悩ましてるようだ。TVに出ては消えてゆく芸人をティッシュペーパーに例えていたが、ここは細く長くトイレットペーパーの様な芸人を目指して欲しい。
落協主催の会の2日目に出向く、前日とともに満席とのこと。この日は各演者に「待ってました!」「大統領!」などの掛け声がかかり、熱気に溢れていた。

一之輔『鰒のし』、甚兵衛さんが鰒のしの由来で地主に啖呵を切る前で切った短縮版だったが、会場を沸かせた。一之輔の高座の魅力は会話のリズムにあると思う。この日で言えば甚兵衛と他の登場人物とのセリフの応酬がまるでラップミュージックの様な軽快なリズムを構成している。「こんちは」「帰れ」/「金を・・」「無いよ」といった具合だ。それでいて全体としては大師匠の先代柳朝や師匠の一朝から受け継いだ「粋」が存在している。それも計算された芸ではなく、自然に醸し出す芸であり、そこが一之輔の凄い所だ思う。しばらくはこの快進撃は続くだろうが、その行く末は誰も分からない。

白酒『花色木綿』、一之輔の後に出るとこの人までが大人しく見えてしまう。前半をカットし、後半の泥棒が貧乏長屋に入る所からサゲまでを演じた。泥棒に入られた男が盗られてもいない品物を次々と並べ立て、いちいち「裏が花色木綿を」を繰り返すのを、これまた白酒独特のリズムで語っていた。

たい平『七段目』、「笑点」出演者でも日常の高座では番組について殆んど触れない人もいれば、必ずマクラやクスグリで番組の話題を入れる人もいる。たい平は典型的な後者で、この日も過去に何度か聴いた「笑点」のメンバーの健康診断をマクラに振っていた。ネタは十八番で、これまた何度も聴いているが、観客を喜ばせるツボは心得ていて大きな笑いと取っていた。

権太楼『代書屋』、今日は『鰒のし』を予定していたが既に出ているのでと断ってネタへ。この日は各演者ともに手堅く十八番を掛けたようだ。

ロケット団『漫才』
三浦昌朗(向かって左側のメガネの人)が骨折で手術、ようやく5月1日から寄席に復帰したばかりで、ギプスを巻いたままの痛々しい姿で登場。しばらくは入院中のエピソードを語った後はいつも時事ネタで。ロケット弾(団)の入院先が自衛隊中央病院というのも皮肉。

さん喬『笠碁』、いくつか疑問点があった。待ったをした方の主が両手を合わせて目でお願いするのは、大店の主人としての動作とも思えぬ。通常のサゲの後に再び碁を囲み、また待ったをする場面で終わらせたが蛇足に映った。ここは碁盤が濡れたのは相手があまりに嬉しくて笠をかぶったまま碁を打っていたという通常のサゲの方が良かった。
こういうネタは変に作り過ぎない方が良いと思う。

2016/05/06

小さん孫弟子七人会(2016/5/5)

「小さん孫弟子七人会~小さん芸語録~」
日時:2016年5月5日(木、祝日)11時30分
会場:銀座ブロッサム
<  番組  >
前座・柳家小多け『道灌』
柳亭市童『狸札』
柳家小せん『湯屋番』
柳家甚語楼『松曳き』
柳家小里ん『試し酒』
~休憩~
柳亭左龍『おしくら』
立川生志『かぼちゃ屋』
柳亭市馬『笠碁』
~仲入り~
入船亭扇辰『麻のれん』
(太田その『寄席の唄』)
柳家喬太郎『ちりとてちん』

昨年に引き続き2回目となる「小さん孫弟子七人会」、直弟子の2人を加えた9人が出演した。
処で、5代目小さんの弟子はどの位いるか調べたら、以下の様になった。

5代目柳家小さんの弟子一覧」(wikiより)
<直弟子>
4代目柳家小せん(総領弟子)
2代目柳家さん助
5代目柳家つばめ
5代目立川談志
10代目柳家小三治(香盤順では一門の最上位)
5代目鈴々舎馬風
9代目入船亭扇橋(元は3代目桂三木助門下)
6代目柳亭燕路
柳家小のぶ
柳家さん吉
6代目柳家つば女
東家夢助(協会を離脱)
2代目柳家小はん(元は3代目三木助門下)
3代目柳家小満ん(元は8代目桂文楽門下)
6代目柳家小さん
柳亭金車
2代目柳家菊語楼
柳亭風枝(元は三遊亭百生門下を経て5代目柳家つばめ門下)
6代目柳家小團治
6代目柳亭小燕枝
柳家さん喬
2代目柳家さん八
柳家小袁治
柳家さん枝(元は8代目文楽門下)
3代目柳家権太楼(元は5代目柳家つばめ門下)
柳家小里ん
4代目桂三木助
柳家三寿
柳家小ゑん
夢月亭清麿(元は5代目柳家つばめ門下)
4代目柳亭市馬
柳家花緑
柳家小三太
柳家さん福
<預かり、その他>
川柳川柳(元は6代目三遊亭圓生門下、落協に残留)
2代目桂文朝(元は3代目三遊亭金馬及びその弟子2代目桂小南の門下、芸協から移籍)
桂南喬(元は3代目三遊亭金馬及びその弟子2代目桂小南の門下、芸協から移籍)
3代目桂文生(元は2代目桂枝太郎門下、芸協から移籍)
柳家紫朝(粋曲・新内語り、色物として一門身内)

小さんは人望もあり、比較的長命だったので他で師匠を亡くした人たちが門下に移籍したこともあって、相当な数にのぼる。孫弟子だけでも数十人になるだろう。
アタシの大好きな柳家小菊姐さんも紫朝の弟子だから、小さんの孫弟子にあたるわけだ。
落語協会会長の座は、5代目小さん以後は圓歌を除けば全て小さん一門から出てるし、小さん一門にあらざれば噺家にあらずの勢いである。
数ある孫弟子の中から人気も実力も備わっている7人を選んでの会、例によって寸評を。

市童『狸札』、もう二ツ目を10年以上やっているような顔つきで、語りも確か。先日、芸協の二ツ目の会に出向いたが、彼らと落協の市童や正太郎、小辰といった顔ぶれと比べると、明らかに芸風が違う。やはり協会の色というのがある。

小せん『湯屋番』、上手い。前半の居候時の若旦那の「そぎ飯、こき飯、叩き飯」、湯屋の番台での妄想からサゲまで間然とした所がなく、短い時間に密度を高めて演じた。人物の演じ分けもしっかり出来ていて、近ごろでは出色の『湯屋番』となっていた。先代を超える日も近い。

甚語楼『松曳き』、小せんと同様に観るたびに上手くなっているという印象だ。このネタ、最近では白酒が十八番としているが、甚語楼の高座は小さんの演出に近い。粗忽者の殿様と家来の会話だけで可笑しさを醸し出す。家来の三太夫の造形が良く出来ていた。

小里ん『試し酒』、5代目小さんを知らない人は、小里んの高座姿を見てこういう人だったんだなと想像して貰えばいい。ただこのネタの久蔵、小さんはもっと豪放磊落に演じていたけど。

左龍『おしくら』、マクラで「寝ている人を起こさぬよう静かに・・・」なんて言いながらネタに入るが、どうしてどうして面白くて寝ちゃいられない。『三人旅』の中では艶笑譚としての色濃い演目だが、左龍の描く89歳の酌婦がなんとも可愛く、江戸っ子が優しい。

生志『かぼちゃ屋』、マクラで談志は弟子にネタを教える時に小さんのテープを聴かせていたというエピソードが紹介されていた。このネタも小さんのテープで覚えた由。談志からあまり優遇されなかったせいか、立川流の主流とは距離を置いている感じがする。話芸では立川流の中でもかなり高位だと思う。

市馬『笠碁』、こういうネタを演じるとこの人は上手い。

扇辰『麻のれん』、今日気が付いたのだが、この人の風貌、笠智衆に似てますね。この日は立夏、やはり夏に相応しい十八番を高座にかけた。

太田そのさんの高座を楽しみにしていたのだが、残念ながら幕内での披露だった。いつ聴いても良い喉をしてますね。

喬太郎『ちりとてちん』、来るなと思っていたら、やっぱり『ちん』。小さんの持ちネタだし喬太郎の十八番と言っていい演目だけど、この長大な落語会のシメとしてはどうなんだろう。40分の持ち時間をフルに活かせるネタで勝負して欲しかったなぁ。

2016/05/05

#27大演芸まつり「芸協二ツ目特選」(2016/5/4)

第27回大演芸まつり「芸協二ツ目特選~成り上がる二ツ目達~」
日時:2016年5月4日(祝・土)13時
会場:国立演芸場
<  番組  > 
前座・桂伸力『新聞記事』
柳亭小痴楽『一目上がり』
春風亭昇也『寄合酒』
神田松之丞『宮本武蔵~山田真龍剣』
桂宮治『お菊の皿』
ゲスト・三遊亭小遊三『弥次郎(序)』
~仲入り~
口上(三遊亭金馬日本演芸家連合会長、他)
春風亭昇々『最終試験』
瀧川鯉八『おちよさん』
ボンボンブラザース『曲芸』
桂伸三『宿屋の仇討ち』
(旧名・春雨や雷太。2016年3月に桂伸治門下に移籍し、桂伸三と改名)

毎年5月1日から10日まで国立演芸場では「大演芸まつり」が開かれている。4日は落語芸術協会が主催する会が行われた。今年の特色はゲストを除く全員が二ツ目で若手中心のメンバーにしたことだ。
彼らは普段から「成金」というユニットを結成し、積極的な活動を展開している。そうした努力の反映からか会場は満席、12時半の開場というのに10時には客が並び始めたそうだ(自由席)。アイドル並みに追っかけの女性ファンも出ているようで、通常の会場とは明らかに雰囲気が違う。
こうした人気が一過性に終わるのか、それとも新しい流れとなるのか、注目される。
ゲストを除き、短い感想を一言ずつ。

小痴楽『一目上がり』、先ずセンスが良い。こうした古典落語を演じても新しい感覚に東京落語の「粋」が備わっている。芸協らしい明るさ軽さを体現しており、やがて協会の看板を背負う存在になるだろう。

昇也『寄合酒』、見た目は「老けた落研」みたいだが、語りはしっかりしている。このネタはテンポがキモだが、短い時間に要領よくまとめていた。

松之丞『宮本武蔵~山田真龍剣』、若い人に受け容れられる講釈師を目指しているんだろう。寄席における色物としての講談の生き方として注目される。あまりハイテンション過ぎて聴いている方は疲れるけど。

宮治『お菊の皿』、話芸では真打クラスと言っても可笑しくないが、あのアクの強さには閉口する。東京落語の持つ「粋」とは程遠い。

昇々『最終試験』、このネタのどこが面白いのか教えて欲しい。面接でやたら固くなった男の表情や奇声だけが売りのようで、サゲもパッとしない。

鯉八『おちよさん』、ただ退屈した。ネットでは天才だのシュールだのと書かれていて、代表的なネタは動画サイトで公開されているが、ツマラナイだけでなく不快にさえ感じる。好き嫌いがハッキリ別れるだろう。

伸三『宿屋の仇討ち』、通常より短い時間の口演だったが、この噺のキモはきちんと押えていた。ややお祭り騒ぎ的な雰囲気の会場を最後に締めた実力を評価したい。

2016/05/03

2016年4月人気記事ランキング

4月の記事別アクセス数のTOP10は以下の通り。

1 一之輔に言いたい事
2 鈴本演芸場4月中席・昼(2016/4/15)
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10 「たとえば野に咲く花のように」(2016/4/8)

内訳は落語・寄席関連が7本、旅行関連が2本(いずれも常連)、そして劇評が1本となった。
落語・寄席関連の7本の内5本に一之輔の名が見える。とりわけ1位となった「一之輔に言いたい事」に多くのアクセスが集まった。この記事は一之輔が何度か客席でメモを取ることを非難する様な言い方をするので、それを咎めたものだ。コメントでは共感するという意見と、周囲も気になる場合があるとの指摘もあった。余計な音を立てないなどの配慮は必要だろう。
3位は落語会の中身より喜多八の健康状態への関心が集まったものと思われる。ランク外になったが、喜多八が出演した過去の落語会へのアクセスも多かったからだ。
10位に劇評が入ったのは嬉しい。

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