【書評】『戦争するってどんなこと? 』その1(交戦権、自衛隊)
C.ダグラス ラミス『戦争するってどんなこと? (中学生の質問箱)』(平凡社、2014/7/9初版)
この本は、タイトルにある通り中学生たちからの質問に答えるという形式で書かれている。「戦争ってなに?」「軍隊って何をするところなの?」といった極めて初歩的な質問に、著者がやさしく回答をしている。しかし、基本的なことだけに改めて説明を読むと、「ああ、そういう事だったのか」と納得させられる。著者が元米軍海兵隊の将校だったということもあり、具体的な内容にもなっている。
やさしいが深い中身になっているので、何度かに分けて内容の紹介と、私自身の見解を付け加えてみたいと思う。
まず著者の経歴だが、1936年アメリカ・カリフォルニア生まれで、カリフォルニア大学バークレー校卒業後、志願して海兵隊に入隊。3年間将校として勤務するが、最後の1年は沖縄基地での勤務となった。まだ返還前の米軍占領下の沖縄の現状を見て除隊し、大阪外国語大学で2年間日本語を学ぶ。その後アメリカに帰国し、カリフォルニア大学の大学院で学ぶが、ここで公民権運動やベトナム反戦運動を経験し、意識が変わっていく。再び来日し1980年から津田塾大学教授として勤務、2000年の同大を退職後は沖縄に住み、沖縄国際大学で教鞭をとりながら講演や執筆活動を行っている。
最初に著者は、戦後の日本人の憲法9条に対する意識の変化について述べている。
初めて著者が大阪外大に入った頃は周囲に戦争を経験した人が多く、「戦争を知っている、だから二度と戦争には行かないし子供たちにも行かせません、だから憲法9条にそう書いてあります」という意見を持っている人が大半だった。
ところが、10数年後に日本の大学で教えるころになると、「憲法9条に戦争をしないと書いてある、だから私たちは戦争することができない」という意見に変わってきた。
戦争しないという意志が先にあって後から憲法がきているのと、憲法が先に来てだから戦争ができないというのでは、大きな違いがある。前者では自分が主語だったが、後者では自分は目的語になっている。
著者は、日本人の憲法9条に対する思いが弱くなっていると感じている。
「交戦権」とは「戦場で人を殺す権利」
近代国家が暴力を持つ権利は3つある。
①警察権:警察官はピストルで相手を撃っても任務であれば処罰されない。国家が警察権という人に対して暴力をふるう権利を持っている。
②刑罰権;裁判で有罪判決がでれば、国家は刑務所に監禁したり、死刑であれば殺しても罪にならない。
③交戦権:国が戦場で人を殺したり、財産を破壊したりする権利。
欧米などでテロリストが殺人を犯せば厳しく罰せられるし(刑罰権)、容疑者を射殺することができる(警察権)。
しかしアメリカなどがアフガニスタンやシリアで空爆を行い、日々沢山の民間人が殺されても兵士は処罰されない。なぜなら戦場で人を殺してもよいという「交戦権」があるからだ。厳密にいえば「宣戦布告」抜きの戦闘なので、これが戦争と言えるかどうかという法的問題はあるのだが。
反面、交戦権があるということは相手国がアメリカに攻撃しても、それは違法ではない。第三国にあるアメリカの基地が戦闘に使われていれば、相手国はその基地を攻撃することも出来る。
日本国憲法第9条では
【第九条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
二 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。】
と定めていて「交戦権」を持っていないので、日本は合法的に戦争はできない。
第二次大戦後に日本が、一度も戦争で人を殺したり殺されたりしたことがなかったのは、そのためだ。
世界で軍隊を持っていない国はあるが、法律で「交戦権を保持しない」ことを定めている国は日本だけと筆者は語っている。
自衛隊がPKOで海外に派遣されているが、交戦権がないので武器の使用は刑法36条、37条に該当する場合に限定されていて、それ以外で人に危害を加えることは許されていない。
刑法36条は、正当防衛の行為の場合は罰せられないという法律で、37条は緊急避難条項で、危機を避けるためにやむを得ずした行為は罰せられないという法律だ。
「自衛隊」の当初の任務は「国内治安維持」
1950年に朝鮮戦争が始まると、アメリカ占領軍の多くは朝鮮半島に出撃してゆく。そうなると米軍最大の任務だった日本国内の秩序を維持することを肩代わりさせる組織が必要になった。そこで日本政府に命じて「警察予備隊」を作らせた。当時は国内でデモやストライキが頻発しており、それを抑える意味合いもあった。やがて警察予備隊は自衛隊となってゆく。
現在の自衛隊の任務にも「公共の秩序の維持」が定められている。
【第三条 自衛隊は、我が国の平和と独立を守り、国の安全を保つため、我が国を防衛することを主たる任務とし、必要に応じ、公共の秩序の維持に当たるものとする。】
軍隊というと外国との戦争と結び付けがちになるが、実際には国内の秩序維持も重要な任務だ。過去の歴史を振り返るまでもなく、この言葉は国民への弾圧と同意義である。20世紀に戦争や紛争で亡くなった人の数は、外国の軍隊からより、自国の軍隊によって殺された人の数がはるかに多いというという推計がある。
軍隊にはそうした二面性があることに十分注意した方が良い。
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