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2016/06/02

「パーマ屋スミレ」(2016/5/31)

『パーマ屋スミレ』
日時:2016年5月31日(火)13時
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT
脚本:鄭義信
演出:鄭義信
<  キャスト  >
青山達三:高山(高)洪吉
根岸季衣:洪吉の長女・初美
南果歩:洪吉の次女・須美
星野園美:洪吉の三女・春美
久保酎吉:初美の内縁の夫・大村茂之
森田甘路:初美の息子・大吉
酒向芳:老年後の大吉
千葉哲也:須美の夫・張本(張)成勲
村上淳:成勲の弟・英勲
森下能幸:春美の夫・大杉昌平
朴勝哲:木下(李)茂一
長本批呂士:若松沢清

新国立劇場で連続上演されてきた鄭義信三部作の掉尾を飾るのは、1960年代半ばの九州のとある炭鉱町で炭鉱事故に巻き込まれた在日コリアンの家族を描いた『パーマ屋スミレ』。時代としては『たとえば野に咲く花のように』と『焼肉ドラゴン』の中間にあたる。醜悪な人種差別団体によるヘイトスピーチなどにより在日への攻撃が増すなか、戦後の在日コリアンたちの生活を活写した作品をとりあげてきた新国立劇場の企画に敬意を表したい。

【あらすじ】
舞台は1960年代半ばの北九州の炭鉱町に店を構える「高山厚生理容所」の店先。この辺り一帯は「アリラン峠」と呼ばれる、主に炭鉱で働く在日コリアンの集落だ。小さな理容店をやっている高山須美は老いた父親の面倒をみながら、いつか「パーマ屋すみれ」を開店させたいという夢を抱いている。
飲み屋を経営している長女・初美や新婚の三女・春美も近くに住んでいて、いつも須美の店先に来ている。3姉妹の夫(長女だけは内縁)は揃って炭鉱で働いている。初美の息子は早くここから離れて、将来はデザイナーになる事を夢見ている。
この家族は、韓国籍や北朝鮮籍や日本に帰化した人と、それぞれ国籍がバラバラで、家族内に38度線が引かれていると冗談を言い合っている間柄だ。
そんなある日、炭鉱で大きな事故が起き、仲間を助けに向かった須美の夫と春美の夫がCO(一酸化炭素)中毒になってしまう。
後遺症でCO患者になった二人は手足が痺れたり、突然暴れだしたりという症状が出てきて、仕事はおろか、まともな暮らしが出来なくなってしまう。生活は荒れ、経済的に困窮していく家族。組合として会社に保障を要求するが、回答は雀の涙。
やがて運動が実って「CO特別立法」が成立するが、二人の夫たちは一方的に軽症患者と認定されて、切り捨ての対象になる。
そんな中で炭鉱は閉山、彼らは完全に職を失ってしまう。
次々と「アリラン峠」を去ってゆく家族や仲間を見送りながら、須美は会社を相手に損害賠償の裁判闘争に立ち上がる。

芝居の中では企業名は明らかにされていないが、北九州の三井三池炭鉱がモデルになっている。
戦後の経済復興の礎だった石炭産業は、1960年前後からの石油へのエネルギー政策への転換により次第に斜陽化してゆく。同時期に会社から大幅な人員整理が提案され、これに反対する労組と鋭く対決する。この争議は「安保と三池」が合言葉になり、「総資本対総労働」と呼ばれる全国の労組を巻き込む大争議に発展してゆく。
この当時の空気を伝えるために、以下に『地底のうた』の歌詞を紹介する。作詞作曲は自らが三井三池の労働者であり、『がんばろう』などの数々の労働歌を作った荒木栄の作品だ。

********************
組曲『地底のうた』 作詞・作曲:荒木栄
有明の海の底深く 地底にいどむ男たち
働く者の火をかかげ 豊かな明日と平和のために
たたかい続ける 革命の前衛 炭鉱労働者
(第一章)
1 眠った坊やのふくらんだ頬をつついて表に出れば
夜の空気の冷え冷えと 朝の近さを告げている
2「ご安全に」と妻の声 渡す弁当のぬくもりには
つらい差別に負けるなと 心をこめた同志愛
夜は暗く 壁は厚い
だけれど俺たちゃ負けないぞ 
職制のおどかし恐れんぞ あのデッカイたたかいで
会社や、ポリ公や、裁判所や、暴力団と・・・
男も女も、子供も 年寄りも
「ガンバロウ!」の歌を武器に スクラムを武器に  
闘い続けたことを忘れんぞ
夜の社宅の眠りの中から
あっちこっちからやってくる仲間 
悲しみも喜びも分け合う仲間
闇の中でも心は通う 地底に続くたたかいめざし
今日も切羽(きりは)へ 一番方(かた)出勤 
(第二章)
1 崩れる炭壁(たんぺき) ほこりは舞い 汗はあふれ
担ぐ坑木 肩は破れ 血は滴る
ドリルはうなり 流れるコンベア 柱はきしむ………
独占資本の合理化と
命をかけた闘いが夜も昼も
2 暗い坑道 地熱に焼け ただようガス
岩の間から 滴る水 頬をぬらし
カッターはわめき 飛び去る炭車 岩盤きしむ
「落盤だァー」 「埋まったぞー」
米日反動の搾取と 命をかけた闘いが 
夜も昼も続く………
(第三章)
落盤で殺された 友の変わり果てた姿
狂おしく取りすがる 奥さんの悲しみ
幼児(おさなご)は 何にも知らず 背中で眠る
胸突き上げるこの怒り この怒り
ピケでは刺し殺され 落盤では押し潰され
炭車のレールを血で染めた仲間
労働強化と保安のサボで 次々に仲間の命が奪われてゆく
  奪ったやつは誰だ! 「三井独占!」
  殺したやつは誰だ!  「アメリカ帝国主義!」
  奪ったやつを 殺したやつを
  許さないぞ 断じて許さないぞ
(第四章)
1 おれたちは栄えある 三池炭鉱労働者
団結の絆 さらに強く
真実の敵打ち砕く 力に満ちた闘いを
足取り高く すすめよう
2 おれたちは栄えある 三池炭鉱労働者
スクラムを捨てた 仲間憎まず
真実の敵打ち砕く 自信に満ちた闘いの
手を差しのべよう 呼びかけよう
3 おれたちは栄えある 三池炭鉱労働者
弾圧を恐れぬ 不敵の心
真実の敵打ち砕く 勇気に満ちた闘いで
平和の砦 かためよう
かためよう
********************

少し長くなったが、当時の空気はお分かり頂けたかと思う。
劇中で「第一」「第二」というセリフが飛び交うが、これは「第一組合」つまり闘う組合のことであり、「第二組合」つまり実質的に会社が作った御用組合を指す。
今や日本中の労組、特に民間企業労組の大半が「御用組合」になってしまったので、死語となった感がある。

前述の争議も圧倒的な資本の力の前に労組は破れ、その後に炭鉱の大事故が続き、やがて炭鉱自体が閉山に追い込まれる。
この芝居は、そうした時期の炭鉱労働者を描いたものだ。
前2作が在日コリアンが置かれた特別な状況を描いていたのに対し、本作品は日本人と在日との区別に関係なく、1960年代半ばにおける炭鉱労働者とその家族の苦悩や絆に焦点が当てられている。
私の様に同時代を生きてきた人間にとっては、切ない思いが蘇ってくる。
生きるためにアリラン峠を去る人たち、生きるためにアリラン峠に残る人たち。私たちはその後の彼らの未来を知っている。文字通り「去るも地獄、残るも地獄」だった。
その中で、須美が起こした訴訟が勝利に終わったであろうことと、大吉少年だけはどうやら幸せな人生を送ったことが示唆されていて、それが救いとなっている。

鄭義信の脚本は、深刻な題材を扱いながら常に舞台は笑いに包まれ、登場人物たちの溢れるばかりのエネルギーが客席に伝わってくる。約3時間の上演時間は笑いと涙であっという間に過ぎてゆく。
出演者の主要な顔触れは2012年の上演時のほぼ同じで、いずれも好演だった。特に主演の南果歩はこの演劇に対する並々ならぬ意気込みを感じさせた。
根岸季衣がベテランらしい存在感を示し、久保酎吉が飄々としたいい味を出していた。
他に星野園美の熱演と、大吉少年を演じた森田甘路の怪演が印象に残る。

公演は6月5日まで。

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