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2016/06/10

義経千本桜より『いがみの権太』(2016/6/9)

『義経千本桜』は、『菅原伝授手習鑑』、『仮名手本忠臣蔵』と並ぶ歌舞伎三大義太夫狂言の一つとして知られており、現在でも上演を重ねる人気作品。
6月の歌舞伎座は、この狂言の中の重要人物である平知盛、いがみの権太、狐忠信の三人の物語に焦点をあてた三部制で演じられている。
平知盛と狐忠信の芝居は以前に鑑賞しているので、今回は初めての第2部『いがみの権太』へ。

『いがみの権太』
日時:2016年6月9日(木)14時45分
会場:歌舞伎座
《  配役  》
〈木の実・小金吾討死〉
いがみの権太:幸四郎
主馬小金吾:松也
鮓屋弥左衛門:錦吾
猪熊大之進:市蔵
若葉の内侍:高麗蔵
小せん:秀太郎
〈すし屋〉
いがみの権太:幸四郎
弥助実は三位中将維盛:染五郎
お里:猿之助
若葉の内侍:高麗蔵
鮓屋弥左衛門:錦吾
おくら:右之助
梶原平三景時:彦三郎
小せん:秀太郎

【あらすじ】
〈木の実〉
大和の国下市村の茶屋へ、平維盛の行方を探す御台の若葉の内侍と若君の六代、その家来の主馬小金吾がやって来る。茶屋の母子が出かけているいる間に「いがみ」と呼ばれる無法者の権太が現れ、小金吾に因縁をつけて金20両を巻き上げる。戻ってきた茶屋の母子は権太の女房と息子だった。女房は権太の悪事を叱るが、やがて親子3人は自宅に帰ってゆく。
〈小金吾討死〉
頼朝の鎌倉方は維盛がこの地に潜んでいることを掴み、若葉の内侍ら一行を探索していた。ついに追手に囲まれた一行だが、小金吾は奮戦して内侍と六代を逃すが、自らは討死してしまう。偶然そこへ通りかかった権太の父の弥左衛門は、思案の末小金吾の首を持ち帰る。
〈すし屋〉
下市村の釣瓶鮓屋。店を営む弥左衛門は、旧恩ある平重盛の子・維盛を奉公人の弥助として匿っている。弥助に思いを寄せるこの家の娘お里、二人は親が許す仲になっている。
そこへこの家の勘当中の倅・権太が、息子に甘い母親から金を引き出そうとやって来て300貫せしめるが、父親の弥左衛門が帰って来るのを見つけ、あわててそばにあったすし桶に金を隠し、自分は奥に隠れる。
帰ってきた弥左衛門も又、持ち帰った小金吾の首をすし桶の中に隠す。そして弥助に源氏方の追っ手が迫っていると忠告する。
偶然若葉の内侍と六代君がこの家へやって来て維盛との再会を喜び合う。全てを知ったお里は自ら身を引く覚悟を決め、維盛ら三人を父親の隠居所へと逃がす。それを奥で聞いていた権太は「役人へ訴えて褒美をもらうのだ」と、さっき金を隠したと思い込んだすし桶を持って一行の後を追っていく。
そこへ源氏の追手である梶原景時一行が詮議にやってくる。詮議が始まると突然に権太が、若葉の内侍と六代君を縄で縛って連れてくる。そしてすし桶に入っている首を「維盛の首だ」と言って差し出す。首実検した梶原は維盛の首だと認め、権太への褒美として頼朝の陣羽織を置いていく。去っていく梶原一行を見送っていた弥左衛門が、「この不忠者」と権太のわき腹に刀をつきたてる。深手を負った権太は「実はあの首は親父様がすし桶に入れておいた首。若葉の内侍と六代君に見えたのは、自分の女房と倅。善心に立ち戻り親不孝を詫びたかった」と語る。
戻ってきた維盛が頼朝の陣羽織を裂くと、中から出てきたのは数珠と袈裟。維盛の父重盛が昔頼朝の命を助けてやったお返しに、維盛の命を助けようという頼朝のはからいだった。
維盛は出家を決意し妻子と共に旅立ち、息絶えた権太の横で弥左衛門一家は別れの悲しみにくれる。

義経千本桜と言っての『いがみの権太』は完全なサイドストーリーであり、義経の「よ」の字も出てこない。加えて知盛や忠信のような派手な見せ場がないためか、他に比べて上演の機会は少ないようだ。
「小金吾討死」では派手な立ち回りがあり、「すし屋」では一転して世話物で、親子や夫婦の間の人情が描かれれていて見ごたえがあった。
特にお里が恋い焦がれる男が実は維盛であって妻子がいることを知って悲しみの中に身を引く事を決める場面は、現代劇であっても可笑しくないテーマだ。
乱暴者の権太が、せめてもの親孝行と自分の妻子を犠牲にしながらも父親の危機を助けるが、結果的に無駄な行為だったと分かった後の失望感。権太の心情を誤解して倅を刺してしまい事実を知って公開する弥左衛門の姿は、この物語の悲劇性を際立たせていた。
乱暴者と優しさという二面性を持つ権太を演じた幸四郎と、一途なおぼこ娘を演じた猿之助が好演。弥左衛門を演じた錦吾の演技も良かった。

舞台とは外れるが、第1部に出演している市川右近の三代目市川右團次襲名が決まったとの報道があった。これに伴って屋号は現在の澤瀉屋から髙嶋屋に変わることになる。長く三代目市川猿之助(現猿翁)の舞台を支え、一時は後継者とも見做されたが、その座は当代中車の出現で一挙に崩されてしまった。本人の気持ちはいかばかりか。今後は心機一転して新しい名跡で奮闘して欲しい。

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