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2016/06/14

#5吉坊・一之輔二人会(2016/6/13)

年を取るとこういう事もあるんだ。開演に間に合うように余裕をもって5時30分に家を出るとホワイトボードに書いておきながら、妻から「あんた、もう6時25分だけど、大丈夫なの?」と言われて、慌てて家を飛び出した。完全に1時間錯覚を起こしていた。お陰で入場したときは、ちょうど吉坊の1席目『七段目』のサゲがついていた所だった。後の3席が聴けたのが不幸中の幸いか。

第5回「吉坊・一之輔 二人会」
日時:2016年6月13日(火)18時45分開演(19時25分頃入場)
会場:日本橋公会堂
< 番組(途中から)>
春風亭一之輔『百川』
~仲入り~
春風亭一之輔『臆病源兵衛』
桂吉坊『次の御用日』

落語を聴く楽しみに、「落語を聴く」と「落語家を聴きにいく」の二つがある。後者では円熟した噺家(例えば小三治、小満ん)の芸を楽しむ聴き方と、「上り坂」の芸を楽しむ聴き方に分かれる。もちろん、それぞれに意義のあることだが、アタシはどちらかと言えば「上り坂」の芸を聴くことに重点を置いている。理由は、「上り坂の芸」というのはその時しか聴けないからだ。後になって気がついても、もう手遅れだ。
この日の吉坊、一之輔の二人は間違いなくただいま「上り坂」の真っ最中と言える。
芸風は対照的で、吉坊は米朝一門の本流とも言うべき本寸法の真っすぐな芸だ。対する一之輔は教わったネタを自分の世界に取り込んで演じているように見える。客の反応に敏で、同じネタを翌日に聴いたら、もう一部変えているというのが一之輔の特長だ。努力型vs.天才型といったら、言い過ぎになるかな。

一之輔『百川』、冒頭で前方の吉坊の『七段目』を讃えていた。聴きたかったなぁ。自分の持ちネタでもあると言っていたが、ぜひ一度聴いてみたい。マクラで江戸っ子の話題にふれていたが、今の落語家で江戸っ子というのは稀だ。先代小さんは長野出身だし、圓生は新宿区柏木出身だが本人によれば戦前は東京府下豊玉郡内藤新宿だったので東京市内でもなかったそうだ。そうなると江戸っ子の範疇には入らないだろう。
ネタを紹介した後で、これは実際にあった話としながら、聴き終わったら実際にはありっこないと分かると言っていた。その通りだろう。
人物設定が喜多八の高座に似ていると思った。奉公人の百兵衛が可愛らしい。河岸の若い衆との珍問答を繰り広げたあげく、くわいのキントンを丸飲みさせられる。この苦しみ方が真に迫っていた。百兵衛が2度目に座敷に上がった時に、机の上にあったサザエのつぼ焼きを丸飲みしてみせると啖呵を切って、河岸の若い衆を慌てさせる場面を加えていた。素朴な田舎者の様でいて、最後に若い衆から「この間抜け!」と怒鳴られると、「”かめもじ”と”かもじ”、間抜けじゃねぇ、”め”が抜けた」でやり返す所なぞ、百兵衛のしたたかさを感じさせる。
それぞれの登場人物が生き生きと描かれ、いい出来だった。

一之輔『臆病源兵衛』、マクラで子供の頃、姉の部屋に貼ってあったユーミンのポスターの顔が怖かったというエピソードを語っていた。1席目もそうだが、マクラがちゃんとネタにつながっているのに感心する。
10代目馬生が得意としていたネタで、今は雲助一門によって演じられている。息を吹き返した八五郎が、正塚婆さんに似た老婆に、
「ここは地獄ですか」
「いいや、娘のおかげで極楽さ」
というサゲから見て、一之輔は雲助一門の誰かから教わったものと思われるが、既に持ちネタとして十分に仕上がっている。

吉坊『次の御用日』、初だったので粗筋を紹介する。
安堂寺町の商家「堅気屋」の丁稚・常吉が遅い昼飯を食べていると、主人の佐兵衛から娘のお糸が縫物の稽古に行くのでと供を頼まれる。
常吉とお糸のふたりは、「住友の浜」と呼ばれる長堀川の川岸にさしかかるが、ここら辺りは日中でも人通りが少なく、ふたりとも心細くなる。
そこへ堅気屋の持つ借家に住む纏持ちの天王寺屋藤吉という大男が、自分の法被を頭の上にかざして歩いてきた。二人は気味悪いのでとっさに天水桶のかげに隠れるが、怖がっているのを知った藤吉は二人の上に法被を覆いかぶせて、大声で「アっ!!」という奇声を発する。
ショックでお糸は気を失い、やがて正気に戻るが健忘症になってしまう。怒った主人は御番所に訴え、町奉行のお裁きとあいなる。
奉行は最初に常吉の証言を聞き、藤吉に真偽を確かめると藤吉は頑強に否定する。しかし常吉の証言が事実と判断した奉行は、藤吉に罪を認めるよう迫る。
「先月13日、糸のこうべの上にて『アっ!!』と申したであろう?」
「とおやん(商家のひとり娘をさす通称)のこうべの上で『アっ!!』と申したもんなら『アっ!!』と申したと申しますが、『アっ!!』と申さんものは『アっ!!』と申さんと申すより、いたしかたございません」
「おのれ、『アっ!!』と申しておきながら『アっ!!』と申さぬなどとは不届きな。『アっ!!』と申したものなら『アっ!!』と申したと申してしまえ!」「いかほど申されても、わたくし『アっ!!』と申したもんなら『アっ!!』と申したと申しますが、『アっ!!』と申さんものは『アっ!!』と申さんと申すよりいたしかたございません」
「おのれ・・・、『アっ!!』と申しておきながら『アっ!!』『アっ!!』『アっ!!』『アっ!!』・・・」
奉行はとうとう声が出せなくなり
「・・・、一同、次の御用日を待て」
でサゲ。
聴かせ所としては
①常吉が遅い昼飯を食べていると主人が文句を言い、それに返答しながら飯を食い続けるサマ。
②お糸と常吉二人が途中で交わす会話。お糸が可愛らしい。
③二人が歩いていると、どこからともなく聞こえる夏の昼下がりの物売りの声。
④お裁きの場面で、常吉が主人に叱られながらダラダラと証言する場面。
⑤山場での奉行と藤吉との息もつかせぬ応酬。
吉坊は、船場の大店の主人、そのひとり娘、丁稚の常吉、荒くれ者の藤吉、町奉行といった多彩な人物を丁寧に描き分け、お裁きの場面では一転して『アっ!!』という奇声(喉を絞め、息を吐かずに声を出すようだ)を連発するという難しい芸を披露した。
それほど面白いネタではないが、語りで観客を引き込んだ技は見事だった。

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コメント

「次の御用日」、米朝のほかに誰のを聞いたのかが思い出せないのです。
東京の落語家、円生はやったかなあ。

佐平次様
東京では『しゃっくり政談』という演目で、4代目三遊亭圓馬の録音が残されているようです。ただ、江戸を舞台にするのは無理がありますね。

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