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2016/08/24

春風亭小朝独演会(2016/8/23)

「春風亭小朝独演会-菊池寛が落語になる日-vol.2」
日時:2016年8月23日(火)18:30
会場:紀伊國屋ホール
<   番組   >
春風亭ぴっかり『辰巳の辻占』
春風亭小朝『ねずみ小僧』(菊池寛『ねずみ小僧外伝』より)
春風亭小朝『妻の手紙』(菊池寛『妻は皆知れり』より)
~仲入り~
小湊昭尚『尺八演奏』
春風亭小朝『牡丹灯籠・お札はがし』

久々の小朝だ。たまに寄席で見ることはあるが、たいていは軽い噺で逃げてしまうので、ちゃんとした落語を聴こうと思ったら独演会に来るしかない。
小朝が菊池寛の小説を落語にして上演するというのはメディアでもとりあげられていたが、年内の2席ずつ3回の口演を予定しているらしい。この日がその2回目。会場は満席で、高齢も方が多かった。
文学作品を落語にするというのは珍しいことではなく、この日の演目である『牡丹灯籠』にしても、中国の小説『牡丹燈記』が下敷きになっている。これは円朝の作品だが、他にも海外の文学を翻案した作品をこさえている。
『古事記』さえ落語になっているのだから、ソースは無尽蔵だ。是非、今後もこうした試みを続けて欲しいと思う。

ぴっかり『辰巳の辻占』、いくつか言い間違いがあったが、気風の良さが出ていた。男を演じるとき、低い声が出せるのが良い。

【注意】以下、ネタバレあり。

小朝『ねずみ小僧』
今回口演の2演目とも作品が未読なので原作との比較ができないので、悪しからず。
鼠小僧というタイトルだが、主人公は越中の大名だ。城下に彫り物の名人がいて、城出入りの御用商人から殿様の像を彫って欲しいと依頼がくる。しかし名人は昔から殿様の性格が嫌いで断るが、どうしてもという強い要請に応じて像を彫る。商人は喜んで殿様に届けると、評判を聞きつけた他藩の大名たちが見に来て、出来栄えの素晴らしさを褒める。しかし肝心の殿様は自分の像を一目見るなり、己の弱点がそのまま表情に表されていることに腹を立て、家来に命じて蔵にしまわせる。
ある夜、城に鼠小僧が忍び込むが殿様に見つかってしまう。ここで一計を案じ、命は助けてやるがその代り像を盗み出してくれと頼み、金まで渡してしまう。
翌日になると殿様は家来に命じ蔵から像を出させ、銀の台の上に置いて床の間に飾らせる。その夜の家来たちの宿直もやめさせておくと、約束通り鼠小僧が忍び込み像を持ち去る。殿様はすっかりご機嫌。
翌朝、家来たちが慌ててご注進。「大変でございます、あの像が・・・」「なに、盗まれたか!」「その、像は無事でしたが、銀の台だけ無くなっています」。
急いで殿様は床の間の像を見に行くと、像の顔が・・・(最後尾の席だったので、小朝の表情は分からなかった)。
鼠小僧が大名に一杯食わしたという物語。
小朝の語りの確かさが生きていたが、筋自体は大して面白くない。数ある「鼠小僧」ものの中でもあまり出来が良いとは思えない。

小朝『妻の手紙』
こちらは一転して現代もの。
喫茶店で二人の中年男がさし向かい、二人は昔からの親友同士らしい。片方の男(Aとする)の奥さんが36歳という若さで病死し、それをもう片方の男(Bとする)が懸命に慰めている。Aが言うのは、自分のせいで妻が早死にしたのだと。
Aは亡妻の思い出を語り始め、とても直感の鋭い女で、自分がいつ会社から帰宅しても妻は玄関で猫を抱いて待っており、食卓には今できたばかりの料理が湯気をたてていた。妻が言うのには、二人が深く愛し合っているので気持ちが通じ合っていて、夫の行動が直感できるのだという。
処が、ある時Aの会社に若くて可愛らしい女子社員が入社してきて、互いに意気投合し一緒に食事に行くようになる。その頃から妻の直感が鈍りだし、夫が帰宅して以前のように歓迎してくれなくなった。お互いの愛情が薄れたのだと言うのだ。
でも、と、Aが言い出す。その原因は自分だけでなく妻の側にもあったと。ずばりBに対して、妻に好意を持たれていたんじゃないかと訊く。Bも正直に、Aが留守の時にたまたまAの宅を訪れ、奥さんが寂しい思いを打ち明けるものだから、ついついキスぐらいはしたと白状する。
Aは、実はそのことでBがとんでもない災難に巻き込まれることになったと告げる。いぶかるBにAは1通の手紙を渡す。妻が死んでから発見したものだという。Bがその手紙を読むとBへの熱い思いが書かれ、最後に「あなたの誕生日までに又お会いできます」と結ばれていた。
驚くBに、Aが「君の誕生日っていつだっけ?」と訊くと、Bは「明日だ!」と答える。
その瞬間、舞台は暗転し、救急車のサイレンが響く。
世の中には直感の鋭い人というのは実在する。特に夫の行動に対する妻の直感は鋭い。いくら秘密にしたと思っていても、実は妻にバレバレなんてことは、世の男性の多くが経験していると思う。それは愛情の裏返しであり、妻の側の愛情の対象が変われば、今度はその相手に直感が働いてしまうというのが作品のテーマだ。
ミステリータッチで、どんでん返しも効いており、良く出来た作品だ。
会話のテンポの取り方も、小朝は上手い。

小湊昭尚『尺八演奏』、久々に尺八の音を聴いたが、素晴らしい。あんな単純な楽器で、よくあれだけの複雑な音を出せる。音色はまた、人の心を落ち着かせる。

小朝『牡丹灯籠・お札はがし』
小朝の代表作をあげるとしたら、アタシはこのネタと『稽古屋』の2作品だ。
この演目は多くの噺家が手掛けているが、小朝の高座の優れた点をあげてみる。
・通常の『お札はがし』では、お露と新三郎の出会いは簡単に流すが、小朝は二人の出会いの場面を丁寧に描いていて、両者の心の動きまで活写している。特にお露の新三郎への一途な思いが巧みに表現されている。そこがあるので幽霊になってもなお新三郎への思いが絶ち難く、ただ会うのだけでなく身体ごと自分のものにしよういうお露の激しい情念を感じることができる。
まるで一篇の恋愛小説を読むようで、ここだけは小朝しか演じえない。
・伴蔵と妻のお峰夫婦の中で伴蔵はグウタラで優柔不断の小悪党、お札はがしもお峰が主導権を握って、100両と引き換えに伴蔵にやらせる。この設定は物語の後編への伏線になるので大事なところだ。
・お露の女中・お米が、新三郎との取り持ちやお札はがしの際の伴蔵との交渉、そして交換条件としての100両の調達と、大活躍する。
小朝の描く女性たちは揃ってアグレッシブだ。
・滑稽噺風のクスグリを入れて、陰惨になりがちな噺を明るく演じている。これも小朝の特徴だ。
その分、軽いという批判もあるかも知れないが、こういう演じ方があってもいいのだ。

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コメント

小朝はやはり独演会ですか。
菊池寛とは目の付け所がいい。
最も落語になりそうなのは『入れ札』ですが、
そのあたりもいつか演じられるかなと思っております。
そういえば、『父帰る』は人情噺になるかもしれません。

福様
小朝のインタビュー記事を見ると、先ず『入れ札』を読んで落語にできると思ったとあるので、おそらく第1回の会で演じたと思われます。『父帰る』はそのまま人情噺になるでしょう。さん喬なんかピッタリでしょうね。

>お露の新三郎への一途な思いが巧みに表現
新三郎主体に話すことが多いようですね、たしかに幽霊の側に立って演じるのも面白いです。
幽霊に対するシンパシイが生まれますね。

佐平次様
小朝の演出の特徴は、主体性のある女性像を描いている点にあります。
そこが他の演者とは一味違う『お札はがし』になっていると思います。

小朝のお札はがし、数年前に一度聴いたことがあります。声質もあるのかもしれませんが、あまり大げさでなく口演するのがよかったと思いました。でも、小朝の場合、マクラのふりかたがどうも今ひとつ好きになれません。

ぱたぱた様
小朝のマクラやクスグリは、時代とのズレを感じます。20年前と同じような感覚で演じているようで、あれだけは頂けません。

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