鈴本演芸場8月中席・夜(2016/8/19)
鈴本演芸場吉例夏夜噺「さん喬・権太楼特選集」9日目
< 番組 >
柳家喬之助『夏泥』
ダーク広和『奇術』
春風亭正朝『普段の袴』
橘家文左衛門『目薬』
柳亭市馬『蝦蟇の油』
ホンキートンク『漫才』
柳家喬太郎『にゅう』
露の新治『まめだ』
~仲入り~
鏡味仙三郎社中『太神楽』
柳家権太楼『御神酒徳利』 .
林家正楽『紙切り』
柳家さん喬『妾馬』 .
鈴本演芸場のお盆興行は恒例の「さん喬・権太楼特選集」、その9日目に出向く。大看板二人に加え上方の新治が出演するので、毎年欠かさず来ている。19日は代演(三三→文左衛門)が少ないので、この日を選んだ。
例によって短い感想を。
喬之助『夏泥』、臆病な泥棒と図々しい男とのヤリトリは季節にふさわしいのだが、何か物足りない。なんだろう?
ダーク広和『奇術』、「道楽商売」を地でいく手品師。客受けより自分の好みで芸を披露するという珍しいスタイルは、貴重な存在。
正朝『普段の袴』、煙管の吸い方がサマになっている。こういう所が若手は及ばない。
文左衛門『目薬』、襲名の準備で落語なんかやってる場合じゃないと、軽い艶笑噺で逃げる。
市馬『蝦蟇の油』、この日はあっさりとした高座。
ホンキートンク『漫才』、ボケ役の異常なハイテンションに辟易する。東京漫才なんだから、もう少しスマートにできないものか。
喬太郎『にゅう』、先日聴いたばかりだが、この日の方が出来がよく客席を沸かせていた。余分なマクラを振らないだけネタのリズムが良かった気がする。
新治『まめだ』、意味は「豆狸」。三田純市が桂米朝のために書き下ろした新作落語。
三津寺の門前の膏薬屋「本家びっくり膏」の息子・右三郎は大部屋の歌舞伎役者。膏薬を塗りながらトンボ返りの稽古に励む毎日。
ある時雨の夜、右三郎が傘をさして歩いていると急に傘が重くなった。つぼめてみると何もない。これを繰り返しているうちに、「まめだ」の悪戯だと気付いた。懲らしめのために傘が重くなったタイミングでトンボを切ると、何かが地面にたたきつけられて悲鳴が聞こえ、黒い犬のようなものが逃げて行った。
芝居から帰った右三郎に母親が、膏薬の売り上げが1銭足りず、その代りに銀杏の葉が1枚入ってる言う。色の黒い小僧が膏薬を買いにくると勘定が1銭足りず葉っぱが1枚入るのだと。そのうち、色の黒い小僧の姿が見えなくなり、売り上げの勘定も合うようになった。
ある朝、右三郎が芝居小屋に出かけようとすると、三津寺に人だかりがしている。行ってみると、境内に体一杯に貝殻つけたまめだが死んでいた。その貝殻は「本家びっくり膏」の容器だった。右三郎は、あのトンボを切った雨の夜に「まめだ」が体を痛めたために、小僧の姿に化けて銀杏の葉を金に変えて膏薬を買いに来ていたことを悟る。
右三郎が自分のせいで「まめだ」に可愛そうなことをしたと言うと、母親と町内の者はいたく同情し、三津寺に頼んで簡単な葬儀を取り計らってもらい、遺骸は穴に葬る。
翌朝、秋風がサ~ッと吹いて来る。境内一面に散り敷いていた銀杏の落ち葉がハラハラ、ハラハラハラハラとマメダの死骸の上へ集まって来た。
「お母ん見てみぃ・・・、狸の仲間から、ぎょ~さん香典が届いたがな」でサゲ。
新治の高座は右三郎が見栄を切る場面を加えて、しみじみと聴かせていた。以前に聴いた『権兵衛狸』もそうだったが、この人は民話風の噺も上手い。
権太楼『御神酒徳利』、というタイトルだが、中身からすると柳派のお家芸である『占い八百屋』だ。ストーリーも少し違う。
八百屋が御用聞きに来たが、女中が横柄な態度で門前払いを食らわしたので腹を立て、そばにあった御神酒徳利を水瓶の中に隠してしまった。それが家宝の徳利だったので紛失だと大騒ぎになると、八百屋が店の主人に申し出てソロバン占いで見事に徳利が水瓶の中にあるのを当てる。自分が隠したのだから、当たるのは当然だが。
そのことを知らない主人は八百屋の占いの能力に感激し、東海道三島にいる弟が預かり物の観音様を紛失したので、その場所を占ってほしいと申し出る。嫌がる八百屋を説き伏せ、二人は三島に向かう。
途中の小田原の宿で、50両の金が紛失したという宿の主と番頭から八百屋は占いを頼まれる。元より分かるわけがない八百屋は、占いにかこつけて夜逃げの支度。そこへこの宿の女中が現れて、病気の親の薬代のために50両を盗み、裏の稲荷の祠に隠してあると告げる。気が変わった八百屋は宿の主を呼んで、占いのふりをしながら50両の場所を教える。
この評判が近隣に伝わると、占ってくれという人たちが押し寄せて、宿の表まで行列が出来る始末。仕方なく寝ていた八百屋を起こしに行った番頭だが、姿が見えない。
「大変です。今度は先生が紛失しました」でサゲ。
以前に他の演者で聴いたときは『御神酒徳利』と比べてスケールが小さく、その分面白味に欠けると思っていたが、さすがは権太楼。「禍福は糾える縄の如しの」の八百屋の表情を巧みに描いて楽しませてくれた。
正楽『紙切り』、この日は「虫の声」「風鈴」「暫」「ゴジラ」を切る。
さん喬『妾馬』、この人の手にかかると八五郎が母親思い、妹思いの優しい男になる。出されたご馳走を母親の土産にと折詰にして貰ったり、妹のことを頼むと周囲の女性たちに頭を下げたりと。ただ、妹のお鶴の傍まで行って赤ん坊をあやすのは行き過ぎ。殿様の脇に側室が赤子を抱いて座っているなんて有り得ないでしょう。こうした点がいつも蛇足に映るのだ。
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柳家総力戦とでもいいましょうか、豊田泰光氏のいた頃の西鉄打線の趣き。
市馬「蝦蟇の油」は人と芸とが合っています。
さん喬との縁で新治が出るというのも東西交流としていいですね。
この二人会仕立ての企画は現在の落語界として最高のものでしょう。
投稿: 福 | 2016/08/22 07:13
福様
柳家+露の新治という豪華メンバーで、今年も充実の高座を見せてくれました。新治の東京公演が少ないので貴重です。
投稿: ほめ・く | 2016/08/22 08:47
ああ、もう終わってしまいましたね。
今夜は紀伊国屋、中止かなあ。
投稿: 佐平次 | 2016/08/22 09:53
佐平次様
紀伊国屋というと、もしかして「とみん寄席」ですか? 台風は通過しているので心配ないでしょうが、交通機関に影響が出なければ良いのですが。
投稿: ほめ・く | 2016/08/22 10:30
当方、このお盆興行で初日から4日目まで通いました。ホンキートンク、喬太郎で沸いた客席を新治が引き締めて後半にもっていくという流れで、新治の果たす役割は重要だったというのが4日間の感想です。新治ですが、10日間で全てネタを変えていました。久しぶりに蔵丁稚が聴けてよかったです。
投稿: ぱたぱた | 2016/08/23 08:20
ぱたぱた様
4日連続とは羨ましい限りです。鈴本のお盆興行での中トリ・新治はすっかり定着しましたね。もはや欠かせない人になった感があり、私も新治の高座を目当てにしています。
投稿: ほめ・く | 2016/08/23 09:00