鈴本演芸場8月下席・夜(2016/9/29)
鈴本演芸場8月下席夜の部9日目
前座・春風亭朝太郎『道灌』
< 番組 >
春風亭朝之助『幇間腹』
翁家社中『太神楽曲芸』
桂やまと『狸の札』
入船亭扇遊『棒鱈』
柳家小菊『粋曲』
橘家圓太郎『野ざらし』
春風亭一朝『目黒のさんま』
─仲入り─
すず風 にゃん子・金魚『漫才』
三遊亭歌奴『宮戸川』
林家楽一『紙切り』
春風亭一之輔『粗忽の釘』
開演時はパラパラで、次第に客は増えていたが、それでも入りは3割程度か。鈴本で見る限り客足の波が大きすぎるようで、席亭は頭が痛いだろう。
感想をいくつか。
朝之助『幇間腹』、若手のこのネタを聴く機会が多いが、どうも肝心の幇間がさっぱり幇間らしくない。もう少し経験を重ねてから掛ける演目なのではないかな。
翁家社中『太神楽曲芸』、口上はもっと明るく語って欲しい。こういう芸は華やかさが身上なんだから。
やまと『狸の札』、明るくて愛嬌があって良い。聞きやすい噺家だ。
扇遊『棒鱈』、貫禄の一席。言葉や所作に過不足が無いのはさすが。小さなお子さんに受けていた。
小菊『粋曲』、もう、ただただウットリ。この唄を聴くだけで鈴本に来た甲斐があったというもの。
圓太郎『野ざらし』、この人らしい熱演だったが注文がある。幽霊が男の部屋を訪ねてきた時に、入室を逡巡する意味が分からない。わざわざ向島から会いに来たんだから、独身と分かったらすっと入る方が自然だと思う。
一朝『目黒のさんま』、この辺りで吉原の噺かと期待したが、夏休みで子どもさんがいたせいか目黒だった。一朝が描く殿様は世間知らずで我儘ではあるが、決して愚君ではない。ご馳走で出た秋刀魚料理を不味いと言ってしまったら、料理人が責めを負うことになる。そこで「秋刀魚は目黒に限るぞ」と機転を利かしたわけだ。なかなかの名君である。
ひとつ飛ばして。
歌奴『宮戸川』、大分出身だそうだ。大分はいいですよ。温泉は豊富だし魚は新鮮で美味しいし、女性は情が深く・・・。まあ、そんな私事はどうでもいいのだが。
膝前で軽く笑わせて、サゲが変わっていた。この夜のお花半七が結ばれた結果、生まれた子どもがやがて鈴本でトリを取る。「春風亭一之輔誕生の物語です」でサゲた。
楽一『紙切り』、初見。体を揺らさない紙切りって、違和感があるね。「どらみちゃん」で苦戦していた。
一之輔『粗忽の釘』
一之輔の高座というのは、中身がくるくる変わる。同じネタを翌日聴いたらもう変えていた、なんてこともある。それが計算ずくで変えるのか、その場の思い付きで変えるのかは、分からない。計算ずくなら大変な努力家だし、思い付きなら特異な才能というしかない。いずれにしろ、センスの良さと言う点では異論はなかろう。
以前に『らくだの子ほめ』というネタを聴いたことがある。多分、本人の作だと思うが、あの「らくだ」が産まれたばかりの赤ん坊の子ほめに行く。札付きの乱暴者が来たのだから、家族は恐怖に怯える。らくだは、子どもを褒めたんだから何かお礼を寄こせと要求する。仕方なく、らくだにトラフグを渡す。意気揚々と引き揚げるらくだ。その晩、自分で調理したフグにあたって死んでしまうというストーリー。
これなんざぁ、良く考えたもんだ。前から金が無いらくだが、どうやってトラフグを手に入れたのか、そこが疑問だった。だから、一之輔のこのネタを聴いて妙に納得したのだ。こういう所にこの人のセンスを感じる。
この日の『粗忽の釘』では、粗忽の男が女房と一緒に行水をして洗いっこをしているうちに、たらいの底が抜けてしまった。たらいの側をクルクル回しながら二人で踊ると、これがまるで土星の様だと「土星踊り」と名付ける。そのうちタガが緩んで木も外れ、二人は素っ裸のまま。そこへかつて女房が奉公に上がっていた伊勢屋の犬の「ペロ」が来て、男の大事なとこをガブリ。怒った女房がペロの尻尾を持って振り回し、どこか遠くに飛ばしてしまう。そのお陰で引っ越す羽目になってしまったのだと。この話を、壁に釘を打ち込んだ詫びに行った隣家に上がりこんで、相手の主人にしゃべって帰ってゆく。この粗忽男、まさに病膏肓に入る。女房もしっかりしてるようで、実は似た者夫婦なのだ。そうでなくっちゃ、こんな男と一緒には居られない。
一之輔、どこまで本気なのか、正気なのか。
« 「上方落語会」(2016/8/27) | トップページ | 2016年8月 記事別アクセスランキング »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 「落語みすゞ亭」の開催(2024.08.23)
- 柳亭こみち「女性落語家増加作戦」(2024.08.18)
- 『百年目』の補足、番頭の金遣いについて(2024.08.05)
- 落語『百年目』、残された疑問(2024.08.04)
- 柳家さん喬が落語協会会長に(2024.08.02)
好きな噺ばかりだなぁと思いました。
歌奴が速球で押すタイプなら、一之輔は変化球を四隅に投げ分けるタイプ。
どうやら一つしか年の差はないようなので、切磋琢磨していってほしいものです。
投稿: 福 | 2016/08/31 06:53
福様
歌奴のさっぱりした芸が好きです。寄席の高座に登場してくるだけで場内がパッと明るくなるのがいいですね。
一之輔の変化球、この日はストライクゾーンぎりぎりといったとこでした。
投稿: ほめ・く | 2016/08/31 08:44
粗忽の釘、また進化?変化か、しましたね。
投稿: 佐平次 | 2016/08/31 09:37
佐平次様
確かに変化はしてましたが、これが進化と言えるかどうかは微妙です。もしかして同じ事を繰り返したくないというのが本人の好みなのかも知れません。
投稿: ほめ・く | 2016/08/31 09:50