「睦会~柳家喜多八ゆかりの演目で~」(2016/9/2)
「睦会~柳家喜多八師匠ゆかりの演目で~」
日時:2016年9月02日(金)19時
会場:横浜にぎわい座 芸能ホール
< 番組 >
前座・柳家小かじ『出来心(花色木綿)』
瀧川鯉昇『粗忽の釘』
入船亭扇遊『青菜』
~仲入り~
入船亭扇遊『お菊の皿』
瀧川鯉昇『船徳』
扇遊・鯉昇『挨拶』
扇遊・鯉昇・喜多八3人により「睦会」は20年間続いたそうで、アタシもあちこちの会場で観てきた。ここにぎわい座でも10年間、29回の公演が行われた。
28回目の5月の会で初めて喜多八が体調不良で休演し、その1週間後に亡くなってしまった。はや3か月が経つが、ファンの方々の喪失感はなかなか消えない。後で鯉昇が「一人死ぬとこんなにお客さんが増えるんですね。もう一人死んだら・・・」と冗談を言ってたが、この日も多くの観客が集まっていた。
「喜多八ゆかりの演目」と題していたが、この日の4席は特に十八番という事ではない様に思う。
アタシの勝手な思いだが、喜多八の代表的高座は『明烏』『鈴ヶ森』『やかんなめ』『ぞめき』『長命(短命)』。
大きなホールよりは、寄席向きの噺家だった。だから昨年末から寄席に出られなくなった事は、きっと辛かっただろうと推察する。
【参考】横浜にぎわい座での「睦会」の高座で、柳家喜多八が演じたネタは以下の通り(横浜にぎわい座の資料より抜粋)。
2006年-あくび指南
2007年-噺家の夢、ぞめき、棒鱈、
2008年-鰻の幇間、へっつい幽霊、千両みかん、
2009年-盃の殿様、百川、代書屋、居残り佐平治
2010年-寝床、長命、おわすどん、お直し
2011年-いかけや
2012年-笠碁、鈴ヶ森、長短、抜け雀
2013年-夢金、啞の釣り(2回)、明烏
2014年-紺屋高尾、親子酒、ラブレター、茄子娘
2015年-五人廻し、大工調べ、落武者、尼狐
2016年-やかんなめ
小かじ『出来心(花色木綿)』、語りといい、間の取り方といい、既に二ツ目レベル。注目の若手だ。欲をいえば、表情がやや硬いかな。
鯉昇『粗忽の釘』
マクラで煙草の直径が7.2mmで、これが女性の乳首のサイズと一緒なのだそうだ。赤ん坊が母親の乳首を吸うという行為から、この寸法が人間の心を落ち着かせるというのが根拠だと。かなり長いあいだ吸う機会を失ってしまったので事の真偽は不明だが、勉強になった。
気怠そうに始まりながら、ネタに入ると熱演という鯉昇の高座スタイルは、喜多八の同類だ。
引っ越してきた家に釘を打つのがネタの発端だが、オリジナルでは箒となっている。よく考えると箒ならそれほど重くないので、長い釘は不要だ。そこで鯉昇は箒に代わる思いものということで、以前はエキスパンダーとしていた時期もあった。近ごろではロザリオ、それもかなり大きなロザリオという設定だ(下記に参考画像)。
これだとかなりの重さになるだろうから、長い大きな釘が必要だったんだろう。壁に打ち込んで下手をすれば隣の人が死んだかも知れないと女房に脅かされ、亭主は向かいの家を訪ねるのだが、最初の言葉が「あのー、生きてますか?」。ロザリオの分からない相手の主人には、キリストの磔の恰好をして見せる暴走ぶり。訪ねた家が向かい側だったと分かり、隣家に行くと相手は「見てましたから、事情は分かってます」と言われ、釘の先を確かめるとこれが仏壇の阿弥陀様の股間からにゅっと出ていた。粗忽の男はとっさにロザリオの事が頭をかすめ、「お宅の阿弥陀様はクリスチャンですか?」でサゲ。
かなり刈り込んだ高座だったが、場内は爆笑の連続。『粗忽のロザリオ』の一席。
扇遊『青菜』
マクラで天気予報士を話題にしていたが、TVのニュース番組であの人たちが登場してきたのはいつ頃だっただろうか? 若くて可愛い女性が定番となり、アタシなんぞも、ついついそっちに見とれて肝心の予報を覚えていないことがある。あれは逆効果だね。扇遊は半井小絵のファンで、以前に彼女がニュースを降板してから天気予報が信用できなくなったと語っていたっけ。
扇遊の高座というのは教科書のようだ。屋敷の主人が扇子であおぐ格好、植木屋がコップで酒を飲んだり、鯉のあらいを食べたりする姿が実にサマになっている。
前半のゆるやかな運びから、後半の畳み込むような展開の対比といい、若手の手本になる。
扇遊『お菊の皿』
前席と同様に夏に因んだネタだったが、扇遊の良さがあまり感じられない。
ここは師匠・扇橋の十八番であり、喜多八も演じていた『茄子娘』辺りを選んで欲しかった。
鯉昇『船徳』
鯉昇の高座では、徳は「船頭の様なもの」として描かれている。だから徳が客を乗せて船を出すとき、船着き場で船宿の女将は泣いて見送る。大川に出ると両岸に沢山の横断幕が飾られ、読んでみるとこれが全て「辞世の句」。もう乗客は気が気ではない。船が石垣で止まってしまい、客の一人が傘で石垣をつついて船を出すが、よく見ると石垣は刺さった傘だらけ。
揺れる船中でのお客の様子や、次第に疲れ果ててゆく徳の姿が熱演で示され、会場は爆笑。『船徳』鯉昇ヴァージョンで締め。
最後の二人の挨拶では、扇遊がが先に亡くなった永六輔の言葉を引いて「皆さんが忘れないうちは、喜多八は生きています」と語りかけたのが印象的だった。
喜多八の死去に伴い、「睦会」は今夜で最終回となる。
今後は「扇遊・鯉昇二人会」にゲスト一人を迎えた「二人三客の会」として再スタートするとの告知があった。
振り返ってみれば、「睦会」は喜多八が要だった気がする。改めて喜多八の存在の大きさを実感した。
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私も喜多八で好きなネタはそんなところです。泥棒ネタがなんといってもペーソスも知性も感じさせました。
投稿: 佐平次 | 2016/09/04 09:26
佐平次様
この日の観客の大半は喜多八ファンだったと思われます。泥棒ネタといえば、やはり『鈴ヶ森』が絶品でした。他に『あくび指南』では喜多八しか出せない味がありました。
投稿: ほめ・く | 2016/09/04 09:41