新宿末廣亭十月中席夜の部・初日
前座・三遊亭馬ん次『子ほめ』
< 番組 >
三遊亭遊かり『ん廻し』
ハッポゥくん「発泡スチロール芸』
雷門小助六『七度狐』
桂歌蔵『漫談』
松旭斎小天華『奇術』
三遊亭春馬『桃太郎』
春風亭柳好『浮世床(夢)』
Wモアモア『漫才』
三遊亭笑遊『替り目』
柳家蝠丸『出世豆腐(徂徠豆腐)』
~仲入り~
神田松之丞『寛永宮本武蔵伝 山田真龍軒』
三笑亭可龍『佐々木政談』
やなぎ南玉『曲独楽』
三遊亭遊雀『不動坊』
末廣亭10月中席は芸協の芝居で、夜の部は遊雀がトリ、前方には生きの良い若手真打が日替わりで、それぞれが長講を聴かせるという結構な趣向。
ここの所、末廣亭の芸協の芝居では圓楽一門や上方落語協会の噺家をゲストに招くなど、趣向を凝らしている。集客と同時に芸協傘下の噺家へのいい刺激にもなるだろう。
こうした積極的な試みは、他の定席にも期待したい。
話は変わるが、近ごろ電車で泥酔している人ってみかけない。そう思っていたら数日前の地下鉄の駅で久々に泥酔状態の人を見た。夜の9時半ごろだから、そう遅い時間ではなかったが、70代ぐらいの男性と30代後半とおぼしき女性の二人連れという組み合わせが妙だ。男の方はホームをフラフラとよろけながら歩き、その後を女性が壁をつたいながら歩いているのだ。立ち止まるとそのまま立っていられず、柱に寄りかかっている。女性の方は顔が真っ青だ。危ないと思って一応見ていたが、電車が来たので乗車してしまい、その後の様子は分からないが、男女があそこまで酔うという姿は珍しい。何があったんだろうね。
所属する協会が違うと芸風も異なるが、色物についても言える。
この日でいえば、奇術の小天華は一言もしゃべらず。
曲独楽の南玉のしゃべりは次に演る芸の紹介だけ。
同じ芸で落協の芸人は、半分がトークといって良いほどしゃべる人が多いのと対照的だ。
漫才でいえばWモアモア、下町の香りムンムンだ。こいいう浅草が似合いそうな漫才というのは落協には少ない。
こうして見比べながら見るのも楽しみのひとつ。
開演のころは客が10人ほど。客席より楽屋の方が賑やかそうだった。
最近、アタシが寄席に行くといつもガラガラで、これじゃ貧乏神だ。そのうち塩をまかれるかもよ。
でも仲入り頃から客が増え始めたので、一安心。
前座の馬ん次『子ほめ』、口調がはっきりしてて良い。
遊かり『ん廻し』、二ツ目に昇進した。久々だったが、あまり進歩が感じられない。無理にマクラを振って本題でのリズムを崩していたように感じた。
ハッポゥくん「発泡スチロール芸』は初見。名前の通り発泡スチロールを熱で溶かしながら切り抜いて行くという芸。紙切りのスチロール版といった方が分かりやすいか。キャラクターものが得意のようだ。
小助六『七度狐』、煮売屋から尼寺つぶしまで。元は代表的な上方落語の『東の旅』の1編だが、しばしば独立して演じられる。柳家のお家芸の『万金丹』もこのネタから派生したもの。小助六は尼寺で恐怖におののく二人の旅人の描写が巧みだった。
歌蔵『漫談』、ソバとウドンの話題だったので、てっきり『時そば』か『うどん屋』を演じるのかと思ったら、この話題だけで引っ込んでしまった。
春馬『桃太郎』、随分と力の入った桃太郎で、あれじゃ子供が寝付けないと思った。
柳好『浮世床(夢)』、当代は5代目だ。唄い調子の明るい芸風で売った3代目、渋いが独特の味のあった4代目に対し、当代は何を押し出すつもりだろうか。才能はあるんだろうが、芸が伸び悩んでいる。
笑遊『替り目』、とにかく可笑しい。どこが?と訊かれても、こればかりは実際に観てもらうしかない。特に酔っ払いの目の据わり方が尋常ではないのが見所。
蝠丸『出世豆腐(徂徠豆腐)』、このハートウォーミングな噺と、蝠丸の人柄がよく似合っていた。前方とは対照的な柔らかな高座。
松之丞『寛永宮本武蔵伝 山田真龍軒』、若い人にも受ける新しい型の講釈を目指していると思われる。それが受け容れられてるのは人気が証明している。勢いが感じられる高座だ。
可龍『佐々木政談』、やや上がっていたのか硬さが見られたが、本寸法の良い高座だった。四郎吉や父親、大家、奉行それぞれの人物の演じ分けもしっかり出来ていて結構でした。
遊雀『不動坊』、今日は気持ちが乗ってるなというのが、高座に上がってきただけで分かった。先ず緩急のつけ方が上手い、ある所は軽く流し、ある所は前方のネタを受けてのクスグリを入れて笑わせる。反対に、湯の中で利吉がお滝との夫婦生活を妄想する場面や、利吉に嫉妬して嫌がらせしようと屋根の上に集まった男たちの会話、とりわけアルコールと間違えてあんころ餅を買ってきて叱られた男が居直る場面では、まるで狂気に憑りつかれた様な所作を見せる。
目が、笑遊とは別の意味でイッテしまっていた。
元の師匠の権太楼もこのネタを得意としているが、遊雀の高座は遥かに超えている。
改めて、この人の芸の力を見せつけた高座だった。
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