#13雀昇ゆかいな二人(2016/11/10)
第十三回「雀昇ゆかいな二人」桂雀三郎・春風亭昇太
日時:2016年11月10日(木)19時
会場:横浜にぎわい座芸能ホール
< 番組 >
桂慶治朗『みかん屋』
桂雀三郎『帰り俥』
春風亭昇太『親子酒』
桂雀三郎『胴乱の幸助』
~仲入り~
春風亭昇太『時そば』
前売り完売で補助椅子まで出る満席。おそらくは昇太目当ての客が大半だったようだ。
昇太もそれを意識してか、「笑点」の司会者になるまでの経緯をかなり詳しく語り大受けしていた。アタシは二度目だが前回と全く内容は変わらず、すでにネタとして完成している。
その「笑点」だが、かれこれ30年ほど見ていない。理由はつまらないから。
雀三郎『帰り俥』
マクラで、かつて『ヨーデル食べ放題』というレコードを出して15万枚売れたと、焼肉食べ放題という内容から、今では環状線の鶴橋駅のメロディにも使われていると言っていた。確かに鶴橋駅の近くは焼き肉店が多い。
作品は小佐田定雄作の創作落語。人力車の車夫が一日の仕事を終え帰ろうとすると、男が俥屋を呼び止めた。店の客に婚礼祝いの菓子と葬礼饅頭を取り違えて渡したので、慌てて取り換えに行くのだと言う。上町までと行ってみると、相手は既に北浜へ。北浜に着くともう自宅に戻った。自宅のある伏見に着いてようやく相手に会えてやれやれと思ったら、その家の女中の母親が危篤で、何とか実家に送って欲しいという依頼。事情が事情だからと女中を丹波篠山まで送り届けると、母親の病状は回復していた。今度は往診に来ていた医者が大切な人を見送るので舞鶴の自宅に送って欲しいとの依頼。舞鶴まで俥を走らせ医者を届けるが、見送りの相手の客が乗り物に遅れそうだと言う。車夫はもう半分ヤケでその相手も自宅に送り届けると申し出ると、医者は「良かった、ゴルバチョフ!」。
大阪を西に東に、さらに伏見から丹波、そして日本海側の舞鶴とこの車夫は走り続ける。ヘトヘトになりながら走る様子が笑いを誘う。「ゴルバチョフ!」のサゲが秀逸。
昇太『親子酒』
この日の客はよく笑う。笑いに乗せられてついつい予定時間が延びてしまったというのはその通りだろう。
息子の隠れて酒を飲む場面で、親父が女房に「綺麗だね」と言う。親父が言うのには、酒飲みは心の門の中に言葉があり、酔うとと門が開いてその言葉が出てくる。自分の場合はその言葉が良いのだが、息子の場合は悪い言葉が出てくる。だから自分は酒を飲んでも問題がないと言い訳をする。屁理屈のように聞こえるが、確かに酔って陽気になる人、険悪になる人の境目はその辺りかも知れない。親父の理屈は説得力があるね。
「美味い酒だね、なんという銘柄かな?」と訊いて女房に一升瓶を持ってこさせ、それを湯呑にドボドボとあける親父、けっこう知能犯だ。
この酒飲みの親父の呑みっぷりが良かった。
雀三郎『胴乱の幸助』
時間が押してせいていたためか、前半は語りを急ぎすぎやや粗かったが、稽古屋で浄瑠璃の稽古を披露する辺りからこの人の技が冴える。師匠が「お半長」の一節を聴かせる場面は本格的だし、習いに来た男の「嫁いびり」も真に迫っていた。こういう所に噺家の日ごろの鍛錬が試される。
幸助が「お半長」を事実と信じ込んで京都の帯屋に乗り込む場面で場内は大受け。
雀三郎の実力を示した一席。
昇太『時そば』
東京の落語家の『時そば』しか聴いたことがない人は戸惑うだろうが、昇太の高座はオリジナルである上方の『時うどん』をそのまま東京の舞台に移したものだ。
最初の晩は二人でソバを食べに来て、二人合わせて15文しかないから例の手口でソバを一杯食べる。片方の男が途中でいくら催促しても無視され、もう片方の男がほとんど食べてしまったので、翌晩は食べ損なった男が一人でソバを食べにくる。処がちょいとトロイこの男は前夜と全て同じ様にするために、一人で二人の人間の動きを演じる。唖然とするソバ屋。ここが最大の見せ場。
サゲは『時そば』と同一。
上方の『時うどん』を東京に移した際に、この演り方では東京で受けないと思ったのだろう。
ここを昇太は力業とも思える演じ方で爆笑させていた。
昇太の高座は細かな人物の描写や演じ分けはないが、明るさと勢いで客を惹きつけるスタイルだ。
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おっしゃる通りで、昇太のような個性はややもすると浮き上がるのですが、それを免かれているのは、持ち前の明るさと勢いなんでしょうね。
『親子酒』は先代小さんのものがスタンダードだとすると、
「美味い酒だね、何という銘柄かな?」なんて工夫は面白い。
昇太のもう一つの長所である構成力が出ていますね。
投稿: 福 | 2016/11/12 07:38
福様
客席を楽しませるというのは噺家の本分だと思うのですが、昇太の持つ明るさ華やかさは大事な資質です。
投稿: ほめ・く | 2016/11/12 10:17
私もどちらかというと陽気な酒です。
でも根が陽気とは思えないのだけれどなあ。
扇辰の奇声とあまりにもデフォルメした表情、あれはいりませんね。
投稿: 佐平次 | 2016/11/12 11:13
佐平次様
昇太説では酔うと心の門が開いて、門の内部にあった言葉が外へ出て行くという事ですから、見掛けの性格も変わって見えるということなんでしょう。
扇辰のあのクセについては同感で、直した方がいいですね。
投稿: ほめ・く | 2016/11/12 15:27