蜃気楼龍玉「緑林門松竹(通し)」(2016/11/7)
霜月の独り看板「蜃気楼龍玉」
日時:11月7日(月)19:00
会場:東京芸術劇場シアターウエスト
< 番組 >
蜃気楼龍玉『緑林門松竹(みどりのはやしかどのまつたけ)』
作 :三遊亭圓朝
脚色:本田久作
プログラムによれば龍玉は、圓朝作の『緑林門松竹(通し)』を未だ二ツ目時代に初めて高座にかけたとある。落語ファンですら知られたいなかった作品を演じるというのはかなりの冒険だっただろうが、16回かけて語り終えたそうだ。
圓朝が現役の頃は寄席は15日間興行で、15日の連続ものとしては長さがちょうど良かったが、今では寄席や落語会で一度に演じるには無理がある。
その無理を承知でこの日一日で通し口演をするという企画。もちろん全編を語ることはできないので、本田久作脚色によるダイジェスト版だ。
先ず本作品の登場人物の相関図は次の通りだが、いかにも圓朝作らしく相互に親子、主従、そして男女関係(夫婦、愛人、遊女と客など)で結ばれている。
(クリックで拡大)
発端は新助市という二つ名の悪人が、少量でも人を殺せる毒薬「譽石」を手に入れるために、根津七軒町の医師・秀英宅に奉公人として住み込む。秀英が妾・おすわを囲っているのを幸いに新助市は秀英夫妻をだまし二人を殺害、金品を奪っておすわをと倅・新太郎(実父は秀英)を伴い逃亡する。
逃亡先で二人が開いた茶店に立ち寄った周伯堂と娘・お時、新助市は仲間を騙って周伯堂を殺害、お時を吉原に売り飛ばし大金を得る。お時の源氏名は常磐木となる。こうした悪行を目にしたおすわは怒りに燃え、6歳の倅・新太郎の父の敵討ちということで寝ていた新助市を殺害しようとするが、逆に二人は返り討ちにあい殺害される。
下谷車坂で占い者の看板を上げているお関を、平吉が占いを頼みに訪ねる。お関は色仕掛けで平吉を篭絡するし美人局で強請ろうとするが、平吉の方が一歩役者が上。二人は夫婦になる。そこへ按摩に化けた新助市が療治に訪れるが、お関に正体がばらされる。元々二人は旧知の間柄で、新助市は問われるままに毒薬「譽石」を入手した経緯をお関に話す。お関はその「譽石」を使って新助市を殺害し、懐の金を奪う。持っていた書付からその金はお時を吉原に売り飛ばした時の金と分かる。
実は平吉は訳があってお時(常磐木)を身請けする事になっていたので、新助市の金はこれ幸いだった。問題は、三輪で剣術の道場を開く天城豪右衛門が先に手金を打っていることだ。
そこでお関は旗本後家に化けて平吉を供に連れ、天城の道場に息子の弟子入りを願う。お関は色仕掛けで酒に入れた毒薬で天城を殺害、平吉は同様の手口で門弟たちを毒殺する。
お関は毒が回って苦しむ姿にすっかり魅入られ、もっと毒で人を殺したいと願う。
この悪事はお上に知れることとなり、気が付けば二人の周囲は捕り方に囲まれていた。もうこれまでと平吉は自ら毒をあおり、それを見たお関は願いが叶ったと笑みを浮かべながら後を追う。
原作ではこの時にはお関と平吉は逃げて、また更に悪事を重ねるのだが、そこはカットされていた。またここまでのストーリーも一部は書き換えられている。
とにかく、出てくる人物の大半が殺されるという、それも6歳の幼児までが首を刎ねられるという凄惨な物語だ。
全ては色と欲、加えて殺人そのものを楽しむかのような要素も加わる。
原作のラストでは幸せになる人も出てくるが、この口演までの間は殺害場面ばかりが続き、後味の悪さも残った。
ここのとこ進境著しい龍玉は持ち前のしっかりした語りに加え、それぞれの人物も巧みに描いていた。
特にこの人は冷酷な殺人鬼の描写が上手い。見ていてゾッとする。
仲入りを挟んで2時間、独りで語り切った力量は大したもんだ。
さすがは雲助の弟子でござる。
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