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2016/11/06

DVD「グッバイ、レーニン!」

「グッバイ、レーニン!(Good Bye Lenin!)」
監督:ヴォルフガング・ベッカー
脚本:ベルント・リヒテンベルク/ヴォルフガング・ベッカー
出演者:ダニエル・ブリュール/カトリーン・ザースほか
公開:ドイツ 2003年/日本 2004年

Photo普段は映画を見ることが少ないので、10年以上前に公開されたこの作品も見逃していて、今回DVDで鑑賞。
旧社会主義国に旅行で訪れた時に、現地ガイドに必ず訊くのは「今と昔と、国民はどちらの方が良いと思っているか?」という質問だ。ロシアを始めとする旧ソ連諸国、東欧などソ連の衛星国家と呼ばれた諸国、いずれの国々でも返ってくる答えは一緒で、「今の方が良いという人の方が多いが、昔の方が良かったという人もいる」というものだ。
中国の場合だと改革開放の前と後との比較で訊くのだが、これも答えは同様だ。
統制経済から市場経済への移行の中で流れに乗って成功する人もいれば、取り残される人もいる。そこで評価が分かれるのだろう。
そんな事も考えながらこの作品を見ていた。

物語は1989年10月、まだ社会主義政権下の東ドイツで東ベルリンに住む青年アレックスが主人公だ。父親は女を作って西ドイツに亡命。残された母親クリスは社会主義運動に傾倒し、姉のティアーネは大学生だが既に離婚し今はシングルマザーだ。
東独建国記念日に反政府デモに参加していたアレックスを偶然目撃したクリスは、衝撃のあまり心臓発作を起こし昏睡状態となる。
それから8か月、クリスは奇跡的に意識を回復したが、その僅かな間にベルリンの壁は崩壊し東独の社会主義は終焉、東西ドイツ統一も間近に迫っていた。
東側にも市場経済の波が一気に押し寄せ、街の様子から市民の暮らしまで大きく変貌していた。
アレックスもそれまでの仕事は失い今では衛星放送のアンテナのセースルの仕事につき、姉は学校をやめてバーガーショップでアルバイト。
担当医から母親の病状は重く次に心臓発作が起きたら命取りだと聞かされたアレックスは、衝撃を与えまいと友人らの力を借りて母親に以前の東独の暮らしを再現させて見せる。
母親のクリスは喜んでいたが、やがてベッドから起き上がってアレックスが目を離した隙に街を歩き回ってしまう。あまりの変貌に驚くクリス。
再び発作を起こして重篤状態に陥ったクリスは、夫の失踪について真相を語る。本当は夫の後を追って家族で亡命する計画だったが、上手くいかなかったというのだ。死ぬまでに夫に再会したいと言う。
アレックスは西側に住んでいた父親に会いに行くが、結婚していて二人の子供もいた。父親は病院にかけつけ、かつての夫婦は最後の面会を果す。
アレックスは病室で、東西ドイツが統一し西ドイツから多数の人々が希望の国である東ドイツに押し寄せて来たという偽ニュースをクリスに見せ、母はそれを見ながら静かに息を引き取る。

映画は前半で旧東独の秘密警察の取り調べや、市民のデモに対する容赦ない弾圧を描き、社会主義政権下での人々の息の詰まるような暮らしを描いている。
反面、ドイツの統一といっても実態は東独が西独に吸収されたものであることが、東西のマルク紙幣の交換などの場面で描かれている。
また、かつて東独初の宇宙飛行士として英雄だった人物がタクシードライバーの仕事についている姿から、東西統一後の旧東独市民の厳しい生活状況も描かれている。
旧東独でネオナチなど極右勢力が伸長しているのは、こうした現実があるからだろう。
アレックスが死の床にあった母親に見せた偽ニュースこそが社会主義の理想の姿だったが、それは幻に過ぎなかった。
でも母親がそれを信じて死んでいったのか、あるいは事実を知っていたにも拘わらず息子たちのために信じたフリをして死んでいったのか、それは母親本人にしかわからない。

タイトルの「グッバイ、レーニン!」は、ベルリンの壁が崩壊した後で分解されたレーニン像がヘリで撤去される場面から採ったものだろう。
作品は社会主義への決別と同時に郷愁をもコミカルに描いている。
ドイツ国内では数々の賞を獲得し興行的にも大ヒットしたそうだが、日本の映画ファンにはどう受け取られただろうか。


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コメント

社会主義は死んでしまったのでしょうか。
今こそ、新たな社会主義が望まれるのになあ。

ご無沙汰しております。
当方、この作品を12年前に映画館で見ました。
というのも、この年、入社2年目についた上司が食道がんで亡くなり、その訃報を聞いた翌日に会社から調布のPARCOにあった映画館まで見に行ったことを思い出しました。
当方は、笑って見ていましたが、ドイツ統一後の旧東ドイツの人々の生活の窮状は、洒落にならないほどだったんだなとこのブログを読み、思った次第です。

佐平次様
ソ連も中国も社会主義のモデルとしては程遠いもので、本来の社会主義に実現はこれから先の課題です。最初のモデルが酷過ぎたので立て直しには時間がかかり、私たちの目の黒いうちに実現は無理でしょうね。

ばたばた様
面白うてやがて悲しき・・・、という映画でした。話は変わりますが、現役当時に会社の合併を3度経験していますが、吸収された側の社員の状況と重ねて見ておりました。

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