「押し付け憲法論」の御都合主義
【押し付ける】
① 力を入れて押し,他の物に付ける。
② 相手の意思を無視して,無理に承知させたり,引き受けさせたりする。
(「大辞林」より)
日本国憲法(以下「憲法」)の改正を主張する勢力の最大ともいうべき論拠は、憲法はアメリカから押し付けられたものだから、日本人の手で自主的に新しい憲法に変えなばならないという点にある。
他には戦後70年を過ぎて時代に合わなくなったから変えるべきという主張もあるが、大日本帝国憲法(以下「明治憲法」)は明治、大正、そして昭和22年の憲法施行の時まで、それこそ時代が大きく変わっても一度も改正することなく続いたいたのだから、論拠はうすい。
「押し付け憲法論」では、
アメリカによる押し付け=悪
という構図になる。
憲法がアメリカから押し付けられたものであるか否かは別の場で検討する予定だが、仮に憲法が押し付けられたものとするなら、米国の占領下で行われたものは全て「押し付け」だったことになる。
ここでは敗戦直後から憲法が公布された昭和22年5月3日までの間に発せられた主な命令や法令を下記に列挙する。憲法が押し付けられたものだとしたら、これらも全てアメリカの押し付けである。
・特高の廃止
・政治犯の釈放
・治安維持法の廃止
・女性参政権の付与
・労働組合法公布
・農地改革
・教育基本法、学校教育法、男女共学の公布
・第1回知事・市区町村選挙(統一地方選)実施
・労働基準法公布
これだけではない。さらに重要な押し付けがある。
・自衛隊(前身の警察予備隊)の創設
・サンフランシスコ講和条約の締結
・同日の日米安保条約の締結
そのいずれもが米国からの押し付けだ。
なかでもサンフランシスコ体制(講和条約+安保条約+日米地位協定、以下「サ体制」)は憲法をも超越しており、日本の戦後レジームを決定づけるものだ。
「サ体制」こそが戦後の日本の国の形を創った。
しかし、不思議なことに「押し付け憲法」論者から、上記の条約や命令、法令に対する批判を聞いたことがない。
「押し付け」=悪なら、これら全てが否定せねば理屈に合わない。
櫻井よしこが女性参政権の廃止を訴えたことがないし、稲田朋美が安保条約の破棄を主張したこともない。
なぜか。
それは自分たちにとって都合の良いことは、たとえアメリカの押し付けだと分かっていても容認しているからだ。
こうしたご都合主義こそが「押し付け憲法論」の最大の弱点といえる。
憲法が単純にアメリカから押し付けられたかものかどうかは、後日書きたいと思っている。
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コメント
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以前からよく引き合いに出される話ですが、現憲法が押しつけなら、黒船に大砲を突き付けられ開国、結果江戸幕府が倒れたわけですから、自主憲法の次は、鎖国、江戸幕府再興を目指すのか、とゆう理屈です。
投稿: 熊吉 | 2016/11/09 17:44
熊吉様
確かに黒船が来なければ明治維新は無かったでしょうし、近代化も民主化も外圧が主導したという考え方はあります。
投稿: ほめ・く | 2016/11/10 09:26