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2016/11/24

「押し付け憲法論」の不都合な真実(1)憲法研究会の「憲法草案要綱」

太平洋戦争の終結直後から日本政府は憲法の改正草案作りを進めていたが、民間の有識者の間でも様々な改正案が作成されていた。
この中で1945年(昭和20年)12月26日に発表され憲法研究会の「憲法草案要綱」がとりわけ注目された。

研究会のメンバーと主な役職は次の通り。
高野岩三郎(元東京大学教授・後に初代NHK会長)
馬場恒吾(読売新聞社長)
杉森孝次郎(元早稲田大学教授)
森戸辰男(元東京大学助教授・後に文部大臣)
岩淵達雄(評論家・元読売新聞政治記者)
室伏高信(評論家・元朝日新聞記者)
鈴木安蔵(憲法学者・後に静岡大学教授)

「憲法草案要綱」は下記に示す通り。
なお原文はカタカナで書かれており、読みやすい様にひらがな表記にしたテキスト(「たむたむホームページ」)に従った。

「要綱」では、現憲法に明記されている諸原則、即ち
・国民主権
・基本的人権
が明示されている。
他にも、
・男女平等
・生存権
・天皇の地位
・三権分立
など、現憲法を先取りする原則が提起されている。
この内容にはGHQも深い関心を示し、彼らの起草した草案にも多大な影響を与えた。

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=憲法研究会「憲法草案要綱」=

【根本原則(統治権)】
 日本国の統治権は、日本国民より発する。
 天皇は、国政を親らせず、国政の一切の最高責任者は、内閣とする。
 天皇は、国民の委任より専ら国家的儀礼を司る。
 天皇の即位は、議会の承認を経るものとする。
 摂政を置くことは、議会の議決による。

【国民の権利・義務】
 国民は、法律の前に平等であり、出生又は身分に基づく一切の差別は、これを廃止する。
 爵位・勲章その他の栄典は、総て廃止する。
 国民の言論・学術・芸術・宗教の自由を妨げる如何なる法令をも発布することはできない。
 国民は、拷問を加えられない。
 国民は、国民請願・国民発案及び国民表決の権利を有する。
 国民は、労働の義務を有する。
 国民は、労働に従事し、その労働に対して報酬を受ける権利を有する。
 国民は、健康にして文化的水準の生活を営む権利を有する。
 国民は、休息の権利を有する。国家は、最高8時間労働の実施、勤労者に対する有給休暇制療養所・社交教養機関の完備を行わなければならない。
 国民は、老年・疾病その他の事情により労働不能に陥った場合、生活を保証される権利を有する。
 男女は、公的並びに私的に完全に平等の権利を享有する。
 民族人種による差別を禁じる。
 国民は、民主主義並びに平和思想に基づく人格完成、社会道徳確立、諸民族との協同に努める義務を有する。

【議会】
 議会は、立法権を掌握し、法律を議決し、歳入及び歳出予算を承認し、行政に関する準則を定め、及びその執行を監督する。条約にして立法事項に関するものは、その承認を得ることを要する。
 議会は、二院より成る。
 第一院は、全国一区の大選挙区制により満20歳以上の男女平等直接秘密選挙(比例代表の主義)によって、満20歳以上の者より公選された議員を以て組織され、その権限は、第二院に優先する。
 第二院は、各種職業並びにその中の階層より公選された満20歳以上の議員を以て組織される。
 第一院において2度可決された一切の法律案は、第二院において否決することができない。
 議会は、無休とする。その休会する場合は、常任委員会がその職責を代行する。
 議会の会議は、公開し、秘密会を廃する。
 議会は、議長並びに書記官長を選出する。
 議会は、憲法違反その他重大な過失の廉により大臣並びに官吏に対する公訴を提起することができ、この審理のために国事裁判所を設ける。
 国民投票により議会の決議を無効にするときは、有権者の過半数が投票に参加する場合であることを要する。

【内閣】
 総理大臣は、両院議長の推薦によって決する。各省大臣・国務大臣は、総理大臣が任命する。
 内閣は、外に対して国を代表する。
 内閣は、議会に対し連帯責任を負う。その職にあるには、議会の信任があることを要する。
 国民投票によって不信任を決議されたときは、内閣は、その職を去らなければならない。
 内閣は、官吏を任免する。
 内閣は、国民の名において恩赦権を行う。
 内閣は、法律を執行するために命令を発する。
 
【司法】
 司法権は、国民の名により裁判所構成法及び陪審法の定める所により、裁判所がこれを行う。
 裁判官は、独立にして、唯法律にのみ服する。
 大審院は、最高の司法機関であり、一切の下級司法機関を監督する。大審院長は、公選とし、国事裁判所長を兼ねる。大審院判事は、第二院議長の推薦により第二院の承認を経て就任する。
 行政裁判所長・検事総長は、公選とする。
 検察官は、行政機関より独立する。
 無罪の判決を受けた者に対する国家補償は、遺憾なきを期さなければならない。

【会計及び財政】
 国の歳出歳入は、各会計年度毎に詳細明確に予算に規定し、会計年度の開始前に法律を以てこれを定める。
 事業会計に就いては、毎年事業計画書を提出し、議会の承認を経なければならない。特別会計は、唯事業会計に就いてのみこれを設けるとができる。
 租税を課し、税率を変更することは、1年毎に法律を以てこれを定めなければならない。
 国債その他予算に定めたものを除く外、国庫の負担となるべき契約は、1年毎に議会の承認を得なければならない。
 皇室費は、1年毎に議会の承認を得なければならない。
 予算は、先ず第一院に提出しなければならない。その承認を経た項目及び金額については、第二院がこれを否決することができない。
 租税の賦課は、公正でなければならない。苟も消費税を偏重して、国民に過重の負担を負わせることを禁じる。
 歳入歳出の決算は、速やかに会計検査院に提出し、その検査を経た後、これを次の会計年度に議会に提出し、政府の責任解除を求めなければならない。会計検査院の組織及び権限は、法律を以てこれを定める。会計検査院院長は、公選とする。

【経済】
 経済生活は、国民各自をして人間に値すべき健全な生活を行わせることを目的とし、正義・進歩・平等の原則に適合することを要する。
 各人の私有並びに経済上の自由は、この限界内において保障される。
 所有権は、同時に公共の福利に役立つべき義務を有する。
 土地の分配及び利用は、総ての国民に健康な生活保障できるようにしなければならない。寄生的土地所有並びに封建的小作料は、禁止する。
 精神的労作者・著者・発明家・芸術家の権利は、保障されなければならない。
 労働者その他一切の勤労者の労働条件改善のための結社並びに運動の自由は、保障されなければならない。これを制限又は妨害する法令・契約及び処置は総て禁止する。

【補則】
 憲法は、立法により改正する。但し、議員の3分の2以上の出席及び出席の半数以上の同意があることを要する。国民請願に基づき、国民投票を以て憲法の改正を決する場合においては、有権者の過半数の同意があることを要する。
 この憲法の規定並びに精神に反する一切の法令及び制度は、直ちに廃止する。
 皇室典範は、議会の議を経て定めることを要する。
 この憲法公布後、遅くとも10年以内に国民投票による新憲法の制定を行わなければならない。

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なお「要綱」では明確に触れられていない「平和主義」については、当時の幣原喜重郎首相が1946年1月にマッカーサーに直接進言して第9条に取り入れられた。
この点は1951年5月の米上院軍事外交合同委員会の公聴会で、マッカーサー自身が証言している。
マッカーサーは又、岸内閣の憲法調査会に対しても「戦争を禁止する条項を憲法に入れるようにという提案は、幣原総理が行ったのです」と書簡で回答していた。
この事は、マッカーサー回顧録にも次の様に記されている。
<幣原首相はそこで、新憲法を書上げる際にいわゆる「戦争放棄」条項を含め、その条項では同時に日本は軍事機構は一切もたないことをきめたい、と提案した。そうすれば、旧軍部がいつの日かふたたび権力をにぎるような手段を未然に打消すことになり、また日本にはふたたび戦争を起す意思は絶対にないことを世界に納得させるという、二重の目的が達せられる、というのが幣原氏の説明だった。>

以上の様に、現憲法の基本的諸原則はいずれも日本側からの提案によるものだった。

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