池袋演芸場12月上席・夜(2016/12/5)
「池袋演芸場12月上席夜の部・中日」
前座・春風亭朝太郎『真田小僧』
< 番組 >
春風亭一左『たらちね』
二ツ目昇進・柳家小かじ『出来心』
すず風にゃん子・金魚『漫才』
古今亭志ん陽『看板の一』
春風亭柳朝『尻餅』
花島世津子『奇術』
橘家蔵之助『饅頭こわい』
古今亭志ん輔『宮戸川』
─仲入り─
三遊亭歌奴『棒鱈』
古今亭志ん橋『熊の皮』
柳家小菊『粋曲』
春風亭一之輔『富久』
久々の人が何人かいたので、池袋演芸場夜の部へ。途中までは半分程度の入りだったが、仲入り辺りから7分ほどといったところ。
この小屋のように昼夜入れ替えなしというシステムは便利なところもあるのだが、欠点は途中で退場する人の多いことだ。昼の部からずっと居続けて、時間や出演者の顔を見計らって退場するのだろうが、興をそがれることがある。
普段、鈴本や国立に足が向くのはそのためだ。
寄席に行く楽しみには二つあって、一つはもちろん噺を聴きにいくこと。もう一つは噺家そのものを観に行くことだ。
落語が上手いかどうかなら、プロより上手い素人の方は大勢いる。決定的な違いは金を払ってでも聴きに行くのかどうかだ。
当り前だがプロの落語家は芸人で、アタシたちとは住んでる世界が違う。寄席という空間で別の世界の人間に会いに行く、そこがもう一つの楽しみ方だ。
噺家は高座での話芸の力量とともに、芸人としての魅力が求められることになる。
前座の朝太郎『真田小僧』、師匠の前名を貰ってるということは将来性を買われているんだろう。語りも間も良かった。
一左『たらちね』、語りに独特の節回しがあり、気にかかる。これが「味」にまで昇華すれば大したもんになるのだが。
小かじ『出来心』、今秋二ツ目に昇進した。三三の惣領弟子で、いいとこに目を付けた。人気落語家の惣領弟子というのは美味しい位置だ。
上がっていたのか早口なのが欠点だが、大家と八五郎の掛け合いは良く出来ていた。
志ん陽『看板の一』
このネタを理解するには『チョボ一(チョボイチ)』というサイコロ賭博のルールを知る必要がある。先ず子はそれぞれ任意の目に掛け金を置く。親がサイコロ1個を振る。子が出目が当たれば数倍(通常は4倍)の掛け金を受け取る。出目が外れれば子の掛け金は親に没収される。
このケースでは子は全員ピン(一)に掛けたので、出目でピンが出れば親は全員の掛け金の4倍を子に払わねばならない。その代りニから六までの出目なら、親は子の掛け金を総取りできる。
ネタの中ではサイコロを振ってから子が掛け金を置いているので、通常のルールとは異なるようだ。
志ん陽の高座だが、いつもながらの本寸法。性格のせいなのか遠慮がちで、もう少し自分を前に押し出した方が良いと思うのだが。老成したような印象を受けてしまう。
柳朝『尻餅』、踊りを踊るような仕草が特長。背筋が伸びているので動きに見栄えがする。職人たちが米を蒸す所から餅つきまでを丁寧に演じていて(物真似なけど)、歳末らしい風情が出ていた。
蔵之助『饅頭こわい』、もしかすると初か。説明が難しいが、どことなく可笑しい。噺家としては大事な要素だ。
志ん輔『宮戸川』、霊岸島の叔父夫婦が馴れ初めを語り合う場面が良かった。お花半七の濡れ場はあっさりと。
歌奴『棒鱈』、前文に記したように、この人より上手い素人なら沢山いるだろう。しかし高座に上がっただけで客席まで明るくするような芸当は無理だ。これもプロの技。
志ん橋『熊の皮』、商売が順調にいったので早く帰った亭主を、女房は顎でこき使う。ボヤキながら懸命に用事を片付ける姿が可愛い。医者が「お前さんの事が一番好きだ」という気持ちが分かる。「わたしゃあんたが嫌い」と返す亭主を、医者はなお可愛いのだ。
今シーズンで最高の『熊の皮』だった。
小菊『粋曲』、都々逸で拍手が起きるとご機嫌、「末廣亭ではこうはいかない」と池袋の客を持ち上げる。越後獅子のリズムに乗って『仮名手本忠臣蔵』全段を2分40秒で。
一之輔『富久』
師走にふさわしいトリ根多。やはり締めはこう行きたい。
一之輔の描く幇間の久蔵はかなりふてぶてしい。火事ときいて浅草から芝の旦那の家に駆け付け出入りを許されたばかりというのに、もう酒を飲みたがる。旦那が許すと久蔵は下女を相手に茶碗酒を重ね、酔うにつけ段々と酒癖の悪さが出てくる。こうした演出は一之輔独特のものと思われる。この辺りは好みが分かれるかも知れない。
久蔵の家が火事で燃えてしまう→以前に買っていた富籤が千両当たる→肝心の籤が火事で燃えたので千両も火の煙→と思ったら長屋のカシラが大神宮様を救い出したお陰で千両富が戻ってくる
一之輔の高座は、まるでジェットコースターの様な久蔵の「禍福あざなえる縄のごとし」の浮き沈みをドラマチックに描いていた。
この日の口演時間はおよそ30分だったが、以前他の会で聴いた時は40分以上掛けていた。それでも時間の短さを感じさせない所が、この人のスゴイところだ。
« 柳家小三治独演会(2016/12/2) | トップページ | 国立演芸場12月上席(2016/12/7) »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 「落語みすゞ亭」の開催(2024.08.23)
- 柳亭こみち「女性落語家増加作戦」(2024.08.18)
- 『百年目』の補足、番頭の金遣いについて(2024.08.05)
- 落語『百年目』、残された疑問(2024.08.04)
- 柳家さん喬が落語協会会長に(2024.08.02)
演者といい、演目といい、調和という言葉が浮かびます。いい番組ですね。
私の好きな柳朝、歌奴の評価を拝読、わが意を得たりと嬉しくなりました。
『棒鱈』は人物描写が特異な噺で、菊之丞で感銘してから私的に注目しています。
『富久』は黒門町で(もちろんビデオですが)私を落語の世界に誘ってくれたもんです。
ジェットコースターのように昇降のある噺は暮れに相応しいですね。
投稿: 福 | 2016/12/06 20:20
福様
良い番組でした。入りがやや寂しいのが残念でしたが。
『棒鱈』は私も菊之丞の高座を買っています。
一之輔の『富久』、黒門町にはまだまだ及びまんが、この若さでここまで演じるのは大したものだと思います。
投稿: ほめ・く | 2016/12/06 21:51
その顔ぶれで7分の入り、師走のせいかなあ。
投稿: 佐平次 | 2016/12/07 09:53
佐平次様
どうも行く先々で客の入りが悪いようで、これも偏に私の不徳のいたす所です。
でも中身は結構でした。
投稿: ほめ・く | 2016/12/07 10:12