「My演芸大賞 2016」の発表
2016年の「My演芸大賞」は次の通り。
【大賞】
桃月庵白酒「一連の『廓噺』」
【優秀賞】
柳家小満ん『応挙の幽霊』8/25 人形町らくだ亭
五街道雲助『淀五郎』10/26 人形町らくだ亭
春風亭一之輔『夢八』11/11 一之輔・夢丸二人会
【特別賞】
柳家喜多八『居残り佐平次』4/23 三田落語会
「大賞」は白酒の一連の「廓噺」と決定した。
今年の高座を見ても『二階ぞめき』『お茶汲み』『首ったけ』が佳作に選ばれているが、他にも『付き馬』『徳ちゃん』『木乃伊取り』『山崎屋』など優れた高座が多く、今や「廓噺」では第一人者と言っても良い。
廓そのものは消滅したが、水商売の女性と、そこに通い詰める男性客との人間模様というのは、今も昔も変わりはない。
文楽、志ん生、圓生らの名演を引き継ぎ、今の世代の観客に橋渡ししている功績は大だ。
「優秀賞」のうち、小満ん『応挙の幽霊』の高座は「粋」と「遊び」という落語の重要な要素を見事に示したものだ。
雲助『淀五郎』の高座では、仲蔵が淀五郎に四段目の判官切腹の型を指導するに際し、判官が自分の短慮で家来たちを路頭に迷わせて申し訳ないという気持ちを由良之助に伝えるという「肚」が大事だと諭す場面が非常に説得力があった。芝居噺の第一人者に相応しい高座だった。
佳作に最も多く名前が出ている一之輔の才能は驚異的で、『夢八』の様な上方ネタを東京で演じるのは難しいと思われた演目も難なくこなしていた。この人の高座を見ていると「陰で血の滲むような努力」などせず、いとも簡単にネタを自分のものにしているように思える。鬼才たる由縁である。
他にもいくつか推したい高座はあったが、これを推すとあれもそれもと数が多くなってしまうので、今年の優秀作は3人だけとした。
例えば、たま『紙屑屋』は未だ粗削りながら、全編高座の上で踊りまくるというエネルギーに圧倒された。芝居でいえば「けれん」だが、落語にはこうした動きで楽しませる事も必要だ。
吉坊『蔵丁稚』vs.文菊『四段目』という東西の新鋭の同じネタを聴き比べでは、甲乙つけがたかった。
小三治の『青菜』『馬の田楽』2席も滋味あふれる高座として印象に残った。
「特別賞」は今年5月に亡くなった喜多八の『居残り佐平次』で、前座に支えられながら高座に上がり、瘦せ細った身体で声も掠れがちだったが長講の『居残り佐平次』を演じきった。陽気に語る喜多八の姿に何度も涙が出そうになったのを憶えている。
結局、私が見た喜多八の最後の高座となってしまった。
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>文楽、志ん生、圓生らの名演を引き継ぎ、今の世代の観客に橋渡ししている功績は大
落語家ならだれもがこのように評価されたいと思っていると思いますし、
私もその類の人に出会いたくて寄席に通っています。
白酒の芸は繊細な気配りが随所に施されており、『禁酒番屋』などにもそうした良さが現れています。
投稿: 福 | 2016/12/27 07:20
福様
白酒の強みは語りの確かさ、声の良さ、それに廓噺には欠かせない遊女の艶が出せることです。私が、いま志ん生を襲名するなら白酒しかいないと言う根拠はここにあります。
投稿: ほめ・く | 2016/12/27 08:53
お見事な選考とコメント、なのに聴いたのは喜多八だけというのがちょいと哀しい。
でも喜多八を逃さなかったから良しとしましょう。
投稿: 佐平次 | 2016/12/27 14:37
この記事をリンクさせていただきました。悪しからず。
投稿: 佐平次 | 2016/12/27 16:47
佐平次様
他の演者はこれからも見る機会がいくらでもありますが、喜多八だけはあの高座を再見するのは不可能です。そういう意味で思い出深い高座となりました。
投稿: ほめ・く | 2016/12/27 16:55