「ザ・空気」(2017/1/26)
二兎社公演41「ザ・空気」
日時:2017年1月26日(木曜日)14時 上演時間1時間45分
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
作・演出 永井愛
< キャスト >
田中哲司:今森俊一/編集長
若村麻由美:来宮楠子/キャスター
木場勝己:大雲要人/アンカー
江口のりこ:丹下百代/ディレクター
大窪人衛:花田路也/編集マン
劇評でこの芝居をホラーだと評していたのを見たが、言い得て妙だ。むしろホラー劇であって欲しいと思うのだが、これが現実に近いから始末に悪いのだ。
舞台はTV局のビル内の部屋、高層ビルらしく登場人物はエレベーターを使って部屋から部屋に移動する。
おりから、総務大臣による「放送内容が政治的公平性を欠く場合は、法に基づき電波停止を命じる」という発言を受け、ドイツにおける国家権力とメディアとの関係を取材した内容と対比させて、報道の自由についての特集番組を放送すべく準備が進んんでいる。
放送当日の昼頃とあって、全ての編集を終えて準備万端。
そこへ、編集内容について一部変更して欲しいという要望がくる。その一部だが、変更すると番組の趣旨が変えられてしまうため、編集長とキャスターは抵抗する。
しかし、番組を頭から偏向と決めつけ議会で問題にするぞという右翼団体からの脅し、子どもに扮した抗議電話、はてはキャスターとその家族の個人的な写真までが番組関係者のスマホに送られてくると、関係者に動揺が広がる。
政権やTV局の上層部の顔色をうかがいながら「空気」を読んで立ち回る人たちと、あくまで報道の自由を守るという立場の人たちとの論争、駆け引きが続き・・・。
日本のメディアが、なぜ政府寄りかという理由について、まとめてみる。
・TVやラジオの生殺与奪の権を握っているのが内閣の一員である総務大臣であること。資料を見る限りでは先進国で政府自身が電波の停止を命じる権限を持つのは、どうやら日本だけのようだ。ただ従来は、こうした伝家の宝刀をちらつかせるような事は歴代の内閣では避けていたが、安倍政権になって様相が変わってきた。
・放送の編集権が経営者にあると定められていること。劇中で、戦後新聞社の労働争議が多発した際にGHQが恐れをなしてこのような宣言をさせたのが、今も続いている。
・日本が近代化する過程で、政府とメディアが一体となって国民を善導していったという歴史的経緯があり、その伝統は今でも続いている。
・日本の記者クラブに代表されるように、報道がアクセスジャーナリズム、つまり権力に接近してネタを取ってくるというスタイルが主流である。
・メディアの経営者が首相とゴルフをしたり飲食をしたりするのが定例となっている。それは新聞の編集者やTVのアンカー、コメンテーターにまで及んでいる。
・右翼団体による抗議行動が活発になり、時には関係者の家族にまで危害を及ぼしかねない脅迫が行われ、報道の萎縮の一因となっている。
加えて、メディアに連帯感がない。
朝日新聞が慰安婦問題で記事の訂正を謝罪を行った際に、安倍首相が国会で名指しで朝日を批判した。
いま、米国のトランプ大統領が特定のメディアに嘘つきなどと攻撃しているのが話題になっているが、安倍首相の方が遥かに先輩である。
この時、朝日叩きに走った新聞社がいくつかあった。例えば読売は朝日批判の特別紙をもって拡販に回ったし、産経が我が家に勧誘に来たのは30数年住んでいて初めてのことだった。
こうした事は、他の先進国では有り得ないようだ。
以上の様な状況の中で、メディアは「空気」を読んで自主規制してしまうのだ。
そしてメディアが「空気」に支配され続ければ、やがて日本はこの芝居のラストシーンの様な状況になって行くと、この作品は警鐘を鳴らしている。
是非、多くの人に観てもらうことを願っている。
出演者では木場勝己の演技が光る。この人は何をやらしても実に上手い。
公演は東京が2月12日まで、その後3月20日まで各地で。
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楽しく見てまいりました、ありがとうございました。
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投稿: 佐平次 | 2017/01/29 10:00
佐平次様
喜んで頂き何よりです。永井愛はずっと注目している作家で、今回も期待に応えてくれました。
投稿: ほめ・く | 2017/01/29 16:38