「豚小屋」(2017/1/7)
地人会新社『豚小屋~ある私的な寓話~』
日時:2017年1月7日(土)19時
会場;新国立劇場 小劇場
作:アソル・フガード
翻訳・演出:栗山民也
< キャスト >
北村有起哉:パーヴェル・イワーノヴィッチ
田畑智子:プラスコーヴィア
地人会新社の旗揚げ公演と同じ南アフリカ共和国の劇作家、アソル・フガードの作品『豚小屋~ある私的な寓話~』 。
本作品は、第二次世界大戦中に旧ソ連軍から脱走し、41年間豚小屋で生きていた実在の人物に刺激を受けた著者が書いた戯曲だ。
物語は。
舞台は、ある私的な寓話~と副題があるように、それは「想像上のどこかの小さな村にある豚小屋」。と言っても、登場人物の名前やセリフから旧ソ連のどこかと思われる。
主人公パーヴェル・イワーノヴィッチ(北村有起哉)は軍から脱走して10年。湿っぽくうすら寒い家畜小屋で、豚と隣り合わせに暮らしている。兵士の脱走は軍法でも最高刑で、見つかれば銃殺は免れない。
最初は彼を匿い、今では妻となって世話をしているプラスコーヴィア(田畑智子)。
「戦勝記念の日」に、その場に出て自分の存在を明らかにしようとするパーヴェル。しかし着ていくつもりだった軍服はぼろぼろだった。どちらにしても二人が「この場所」を出る事は危険であり、この先の運命がかかっているのだ。
それから長い長い月日が過ぎ去ってゆく。
外の空気が吸いたいと言い出したパーヴェルは女装し、二人は夜中の町に出る。風・大地の匂い・満天の星・コオロギさえも二人にとっては感動なのだ。そしてもっと先までと言うパーヴェルを妻は必死に止める。
再び豚小屋に戻ったパーヴェルだが、「人民委員会」からの声が届き、豚小屋を開き豚を解放するよう命じられ、その通りに実行する。
その姿を見て、自分も外へ出て行き軍に自首する決意をするパーヴェルに、妻のプラスコーヴィアは仕舞ってあった彼の服を持ち出し「結婚式の時に着たあんたのスーツ、いつかきっと必要な時が来るかもって気がして」と告げる。
二人は寄り添いあって、夜明けの街に中に消えて行く。
これといった大きな出来事もなく、舞台は淡々と進んでゆく。
後半に入ってパーヴェルが外の空気を吸い感想するあたりから舞台は大きく動き出す。豚小屋は社会からの隔離、あるいは拘束状態を示しているのだろう。
それは南アのアパルトヘイトや、旧ソ連の政治犯を寓意してかのようだ。人間の尊厳と自由への希望が、本作品のテーマと言える。
そうした厳しい状況の中での夫婦の深い絆、この作品のもう一つのテーマだ。
見終わってジワリと感動が呼び起こされる、そういう芝居。
公演は15日まで。
« そんなに「トランプ」が怖いのか | トップページ | 落語『棒鱈』と『琉球節』 »
「演劇」カテゴリの記事
- 辻萬長さんの死去を悼む(2021.08.23)
- 日本の戦後を問う『反応工程』(2021/7/14)(2021.07.15)
- 「彼らもまた、わが息子」(2020/2/13) (2020.02.14)
- 文楽公演『新版歌祭文』『傾城反魂香』(2020/2/11) (2020.02.13)
- 能『八島』ほか(2020/1/11) (2020.01.12)
コメント