フォト
2024年12月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31        
無料ブログはココログ

« 「豚小屋」(2017/1/7) | トップページ | 落語『野ざらし』と『さいさい節』 »

2017/01/09

落語『棒鱈』と『琉球節』

落語ファンにお馴染みの『棒鱈(ぼうだら)』。
ストーリーは、江戸っ子二人が飲んでいる隣座敷の田舎侍。どうやら芸者をはべらせて飲めや唄え。それも分けの分からない唄を大声でがなるだけ。
イライラを募らせた江戸っ子の一人が隣座敷の襖から中をのぞこうとして転び、そのまま室内に乱入。怒った侍が手討ちにすると息巻き、料理人が仲裁に入るが、手に持っていた胡椒を振りかけたものだから、侍も江戸っ子も芸者たちも揃ってハクションハクション。
「二階の喧嘩はどうなったい?」
「今ちょうど胡椒(故障)が入ったとこだ」
サゲ。
胡椒と、「邪魔が入る」を意味する故障とをかけたサゲだ。

題名の『棒鱈』も分かり難いが、もともとは鱈の三枚におろしたのを素干しにしたものを指す。俗称で間抜け、野暮の意味で使われ、江戸っ子が田舎侍を揶揄する時にも使われた。
また、噺の中で田舎侍があつらえた料理の「鱈もどき」にも引っかけているが、最近の高座ではこの料理名は使われない様だ。

この噺の聴きどころはストーリーそのものより、田舎侍の珍妙な唄と、手討ちにすると脅された江戸っ子の胸のすくような啖呵にある。
その侍が唄う唄だが3曲あり、『百舌鳥の嘴(もずのくつばす)』『十二ヶ月』そして『琉球(りきゅう)』だ。
噺の中で『琉球』はこう唄われている。
♪りきゅう~(琉球)おじゃるなぁら~、わらず(草鞋)履いておじゃぁれ。りきゅうはァいすわらァこいすわらァ。ひたりゃひとよめ、みろくまんずの、ふたつふけたら、くわんばくわんば、ぱ~っぱ♪

こんな唄は無いだろうと思っていたら、実際にあった。
出典は「古今流行音曲惣まくり」(明治24年12月8日発行)で、曲名は『琉球節(りきゅうぶし)』。
歌詞は、以下の通り。

『琉球節』

琉球と鹿児島と 地続きならば
通うて酒盛り してみたい
シタリヤヨメヨメ シンニヨタヨタ
シテガンガンヨ セツセ

児(ちご)が前髪 切らしてやるならば
妾(わ)しも止めましょ 振袖を
シタリヤヨメヨメ シンニヨタヨタ
シテガンガンヨ セツセ


琉球へおじゃるなら 
草鞋を履いておじゃれ
琉球は石原こいし原
シタリヤヨメヨメ シンニヨタヨタ
シテガンガン

花は霧島 煙草は薩摩
ういて上がるが桜島
シタリヤヨメヨメ シンニヨタヨタ
シテガンガン

逢いはしなんだか玄界灘で
二本柱の帆前船
シタリヤヨメヨメ シンニヨタヨタ
シテガンガン

(岩波文庫『近代はやり唄集』より)

囃子の部分は異なるが、歌詞は落語の中とほぼ同じ。
明治24年発行の本に載っていたということは、それ以前に座敷唄として広まっていたのだろう。
ここから、噺の中に出てくる田舎侍は薩摩藩士であることが分かる。
『棒鱈』の舞台は幕末という設定だが、この噺が作られたのは恐らく明治期と思われる。
背景には江戸っ子の薩長嫌いがあり(他に『首提灯』)、それは存外今でも続いているかも知れない。
なお『百舌鳥の嘴』と『十二ヶ月』は今のところ出所不明だ。

« 「豚小屋」(2017/1/7) | トップページ | 落語『野ざらし』と『さいさい節』 »

寄席・落語」カテゴリの記事

コメント

薩長同盟、とくに長州が嫌いですなあ。

佐平次様
旅行先でたまに郷土の歴史愛好家に出会うことがあります。その人たちの話を聞くと、どうやら私たちが習った幕末から明治維新にかけた歴史は『薩長史観』だったと思うようになりました。
特に長州は、あの男がいるので嫌いですね。

『棒鱈』を旧年中に小里んで聴きました。
あのサゲが言い放たれたとき、鈴本の場内にはビミョーな雰囲気が・・・
察するに、理解に達しにくかったんではないかと。

例の『十二ケ月』ですが、
侍が気張ってうたうほど、可笑しくて笑ってしまいます。

福様
『棒鱈』ではマクラで「故障」の意味を解説しておいた方が親切でしょう。
サゲは『くしゃみ講釈』と同様ですね。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

« 「豚小屋」(2017/1/7) | トップページ | 落語『野ざらし』と『さいさい節』 »