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2017/03/02

「見よ、飛行機の高く飛べるを」(2017/3/1)

劇団青年座 第225回公演「見よ、飛行機の高く飛べるを」
日時:2017年3月1日(水)13時30分
会場:練馬文化センター・小ホール
作 =永井愛
演出 =黒岩亮
< キャスト >
光島延ぶ=安藤瞳
杉坂初江=小暮智美
大槻マツ=尾身美詞
山森ちか=黒崎照
小暮婦美=勝島乙江
梅津仰子=橘あんり
石塚セキ=坂寄奈津伎
北川操=田上唯
新庄洋一郎=石母田史朗
安達貞子=遠藤好
菅沼くら=藤夏子
中村英助=井上智之
青田作治=山﨑秀樹
難波泰造=平尾仁
板谷わと=片岡富枝
板谷順吉=久留飛雄己

この芝居のタイトルだが、恐らくは石川啄木の詩「飛行機」の冒頭にある

見よ、今日も、かの蒼空に
飛行機の高く飛べるを。

から採ったものと思われる。
啄木の死の前年の明治44年の作品だ。
劇中に出てくるいくつかのキーワードと年代は次の通り。
大逆事件:明治44年死刑執行
青鞜:明治44年発行開始
人形の家:明治44年上演
全てに明治44年が共通している。
そしてこの時代は良妻賢母が女性の道であり、女性には選挙権はなかったばかりでなく、治安警察法では女性の政治活動を禁じていた。
因みに「教育勅語」の発表は明治23年だ。
右翼の連中が教育勅語を有り難がったり、戦前あるいは明治の日本を賛美しているが、少なくとも女性からすれば暗黒の時代だったといえる。

【あらすじ】
そんな時代の岡崎にある岡崎にある女子師範学校には、各地から教師を目指す少女たちが集まっていた。
舞台は学校の寄宿舎で、中央に一階と二階を結ぶ階段があり、右手には学校に通じる廊下、そして左手には談話室がある。芝居は主に談話室の中で進行する。
学校の先生になろうという女性たちだから、当時としては進歩的な考えを持っていただろうし、経済的にも比較的裕福な家庭の女子だったといえる。
この中に国宝と学内で呼ばれるほどの優秀な生徒・光島延ぶがいる。家柄が良いし、美人だし性格は明るいし、しかもお茶目で人を笑わせることが好き。
うん、長い人生の中で一人だけ思い当たる女性がいますね。いま、どうしているかな~って、そんな事はどうでもいいけど。
もう一人、変わった子がいる。新聞を読み、「青鞜」に心を躍らせ、飛行機が飛び立つのを見て新しい時代の息吹を感じるような女子・杉坂初江だ。
二人が知り合い親しくなっていく内に、延ぶは初江の影響をうけ、次第に目覚めてゆく。
「青鞜」を読んだり、進歩的な教師から自然主義派(当時はこれらの作家にも警察の尾行がついていた)の小説を借りて読んだりしていく中で、自分たちの雑誌を作ろうと決意する。
賛同する仲間も次第に増え、自分たちの雑誌「Bird Women」発行に向けて着々と準備が進んでいた。
そんななか、仲間の一人が校内で男性と会った所を見つかり、退学させられる事件が起きる。仲間たちは怒り悲しむ。
延ぶと初江を中心に、抗議のためにストライキを決行しようと計悪を練り、学内の生徒の過半数を超える賛同者が集まる。
しかしストライキ決行を目前に、校長を始めとする学校側の切り崩しにあって、仲間から次々と脱落者が出てくる。
学校側の脅しは、もしストライキに参加したら退学になり、教師も道も閉ざされる。当局はストライキは「主義者」(共産主義者のこと)の仕業とみなしており、警察に捕まるかも知れないというものだった。そうなれば家から勘当されて行き場もなくなってしまう。
彼女たちに同調していた教師も校長の圧力に屈し、この件は国の方針なのだからどうにもならない。あなた方は、そんな少数で国家と闘うつもりかと説得側に回るのだ。
最後は延ぶと初江二人だけになり、ストライキの続行と雑誌の発行を誓い合うが、教師の一人が延ぶにプロポーズすると彼女の決意が揺らぎ、初江を残し去ってゆく。
空を行く飛行機を見上げながら、初江は自分の道を進む決意を固める。

明治の末、女性が人間として自立することに目覚めてゆく女生徒たちの青春グラフィティである。
自分の信念を曲げない初江は、この後きっと婦人解放運動のリーダーになってゆくことだろう。
脱落した生徒たちも、この場では圧力に負けてしまったが、一度身に付いた新しい息吹は決して消えることはないだろうし、この先の人生の中であの時の経験が生きるチャンスがある筈だ。
作者のそうしたメッセージが伝わるから、舞台が明るく感じるのだろう。

永井愛の脚本は相変わらず巧みだ。
例えば、女生徒たちが田山花袋の「布団」を読み合わせしながら、主人公の男が美男かどうか論争する場面では、彼女たちの「性」への好奇心が感じられる。
尊大な校長、それにへつらう教師、生徒たちに同情的だが最後は屈してしまう教師、妻を亡くし密かに生徒に思いを募らせる教師、それぞれにリアリティがある。
森友学園のアナクロな教育が問題になっている今日、改めてこの芝居の価値が高まっていると思う。

一つ、芝居の進行が舞台の下手が中心なので、席が右側だとセリフが聴き取りにくい。特に訛りのある生徒のセリフは何を言ってるのか分からなかった。
この点は工夫が必要だろう。

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コメント

一回きりの公演ですか。

佐平次様
今回は2回だけの公演でしたが、過去には何度も上演しており、これからも再演されるでしょう。この日も多数の女子高生が観劇していましたが、是非若い人たちに観て貰いたい作品です。

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