喬太郎の『居残り』でハネた「扇辰・喬太郎の会」(2017/4/16)
第70回「扇辰・喬太郎の会」
日時:2017年4月16日(日)18時30分
会場:国立演芸場
< 番組 >
柳家喬太郎『小政の生い立ち』
入船亭扇辰『百年目』*
~仲入り~
入船亭扇辰『道灌』
柳家喬太郎『居残り佐平治』*
(*ネタ出し)
ここ10年位は皆勤賞となるこの会だが、会員向け発売日を逃がしてしまい、一般発売日に何とかチケットが取れた。
扇辰と喬太郎がネタ下ろしを各1席披露するという趣向の会だが、今回は特に二人とも大ネタに挑んだ。
少し遅れて、前座が下りてから入場。
喬太郎『小政の生い立ち』
講談の『清水次郎長外伝~小政の生い立ち』を落語化したもの。
次郎長というと広沢虎造の浪曲で有名だが、本家は講釈。次郎長モノの特長は、次郎長はどちらかといえば狂言回しで、それぞれの子分たちの銘々伝の様な形式になっている。
「清水港は鬼より怖い、大政小政の声がする」と謳われた小政が次郎長と出会って清水に行くまでの物語だ。
母親が死んで清水に向かう小政は餞別に受け取った資金で居合抜きの道場に通い、腕を磨いてから次郎長の元を訪れる。これは非常に賢いやり方で、だからこそ幹部にまでのし上がったのだろう。実際には、代貸を務めた大政に比べると、かなりランクは下だった様だが。
落語にしにくい物語を、クスグリを散りばめて1席にまとめた喬太郎の力量は大したものだ。
扇辰『百年目』
マクラで、ネタ下ろしは完成品ではないので、その心算で聴いてほしいと言っていた。そう言いながらも、扇辰のことだから相当な稽古を重ね、完成度を高めて高座に臨んだと思う。
前半のお花見で番頭の冶兵衛が大旦那と鉢合わせする場面までは快調に飛ばしていたが、後半でダレてしまった。
冶兵衛が二階で眠れず悶々とする場面の時間が長すぎた。夢のシーンは蛇足で、もっとあっさりと演じて良かった。
翌朝の大旦那が冶兵衛を呼んで諭す場面も、同じセリフの繰り返しがあったりして冗長に感じた。
一番いけないのは、最後に二人が涙にくれる場面で、この噺の品位を壊してしまう。
次回からは、後半はかなり刈り込んで演じた方が良いと思う。
扇辰『道灌』
仲入り前が相当時間をオーバーしたので、軽めのネタを選んだと思われる。
前座のお手本になるような高座だった。
喬太郎『居残り佐平治』
「スーダラ節」の出囃子で登場。
時代とともに言葉が変わるというマクラを振って、この噺のサゲの「おこわにかける」の意味を解説した。
一人二分の割り前で佐平次とよったりが品川の貸し座敷に上がってドンチャン騒ぎする所から話が始まる。通常演じられる品川宿で店をさがし、牛太郎に声をかけてのヤリトリはカットしていた。
居続けする佐平次に若い衆が勘定の催促をする場面では、もう少し厳しいヤリトリがあった方が良かったのでは。ちょいと、若い衆があっさりと引き下がり過ぎる。この辺りは薄味だった。
佐平次が座敷を回り始め、先ず勝つぁんに取り入る辺りから俄然「らしさ」が出てくる。花魁が手紙を書く時に、好きな人と嫌いな人とでは手つきが違う所を身振りで見せる所は秀逸。
祝儀が入ってこず困った若い衆の直訴で、店の大旦那が佐平次に帰宅するよう促すが、佐平次は自分がお尋ね者だと居直り、金や着物をせしめる場面では佐平次の小悪党ぶりが巧みに描かれていた。
このネタは過去に錚々たる顔ぶれの名人上手が手掛けており、喬太郎としては恐らくはそれらに挑むというよりは自分流の『居残り』を目指していると推測する。
そう見れば、ネタ下ろしとしては一応成功と言えるのではなかろうか。
喬太郎の持ちネタに加わる日が近いかも。
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コメント
こういう記事を読むと喬太郎も聴かなくちゃと思えてきます。
扇辰は考えすぎ、話に入り込みすぎなんじゃないかな。
投稿: 佐平次 | 2017/04/17 10:11
佐平次様
推測ですが、扇辰は10の所を12演ろうとし、喬太郎は8にとどめている。そんな違いを感じます。
投稿: ほめ・く | 2017/04/17 17:03
百年目といえば米朝師・・・・比べたら酷ですね。
喬太郎師が対談(今おもしろい落語家ベスト50)で、佐平次は植木等のイメージという件がありました。
出囃子のスーダラ節に納得。
同世代・同学年の噺家さんはついつい応援したくなります。
投稿: 蚤とり侍 | 2017/04/18 04:50
蚤とり侍様
『百年目』といえば米朝が圧巻です、東京では圓生が極め付けですが、このネタはやはり大阪の大店が舞台の方が自然です。
佐平次は植木等ですか、確かに喬太郎はそういうキャラ立てをしていた気がします。
投稿: ほめ・く | 2017/04/18 09:05