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2017/04/28

鈴本演芸場4月下席・昼(2017/4/27)

鈴本演芸場4月下席昼の部・7日目

前座・春風亭朝太郎『真田小僧』
<  番組  >
金原亭馬久『元犬』
林家楽一『紙切り』
金原亭馬治『強情灸』
橘家圓太郎『浮世床(本)』
ホームラン『漫才』
金原亭世之介『堪忍袋』
柳家三三『お血脈(序)』
だるま食堂『コント』
春風亭一之輔『化け物使い』
─仲入り─
花渡家ちとせ『浪曲・大久保彦左衛門』
古今亭菊春『宮戸川』
花島世津子『奇術』
金原亭馬生『包丁』
出演者全員『高座舞』

寄席というのは、先ず楽しくなくてはいけない。
鈴本4月下席は、落語以外にも紙切り、漫才、コント、浪曲、奇術、そして大喜利は高座舞と、実に多彩なプログラムで楽しませてくれた。
なので個別に感想を述べるのは大した意味がないのだが、いちおう参考までに。

馬治『強情灸』、この人の高座で客席が温まってきた。惣領弟子だが師匠とは異なる芸風。腕に乗せた灸を我慢する姿が可笑しかった。

圓太郎『浮世床(本)』、市馬の代演だったが、この日は圓太郎が正解。姉川の合戦で「あね、あね、あねはカワラケ」、「じゃ、妹は毛深い?」。最前列のお嬢ちゃん、分かりました?

ホームラン『漫才』、勘太郎が郷ひろみと同じ年で、客席から「えー!」。たにしが62歳で、また「えー!」。たにしが藤木孝のツイストの物真似で受けていたが、藤木はなぜ人気絶頂で歌手を引退したのか、謎だ。

世之介『堪忍袋』、石原慎太郎が堪忍袋に「小池百合子のバカヤロー!」と吹き込んでいた。高座舞ではパンダのかぶり物で活躍。

三三『お血脈(序)』、前半の善光寺の由来までで切る。クスグリでは、物部尾輿(もりやのおとど)が「日本は神国であるから仏法はまかり成らぬと」と、まるで森さんみたいな事を言って。森さんといえば歴代首相の中で体が一番大きく、脳みそが一番小さいと。

だるま食堂『コント』、初めて見る人も多かったようだが、「ウー、サンバ」では手拍子したり腕を振り上げたりと、盛り上がっていた。
この人たちは寄席の高座でも違和感がない。

一之輔『化け物使い』、仲入りで高座を落ち着かせる。最近の一之輔は風格さえ感じる。短い時間に手際よくまとめる手腕はさすがだ。隠居がのっぺらぼうの女に好みの顔を描こうとするのは独自の演り方か。

菊春『宮戸川』、身体の動きが独特。お花に言い寄られて、避けようとして半七が座布団からはみ出す動きは初めて見た。そんなに嫌がらなくてもいいのに、替わって上げたいくらいだ。高座舞でも活躍。

世津子『奇術』、この人のネタであるカードを3枚客に引かせて、それぞれを切り抜いた紙の形で当てる技は見事だ。あれはどういうカラクリなんだろう?

馬生『包丁』、演じ手が少ないネタだが馬生は得意としている。常から頼まれた寅が清元の師匠を口説くが、頭をポカポカと殴られ、怒って悪だくみをみな喋る。真相を知った師匠が今度は寅と夫婦になるのを持ちかける所が山場で、師匠の品のある色気がよく出ていた。

大喜利の高座舞、上手い人も下手な人も、恰好いい人もそうでない人も、賑々しく舞い踊る姿に会場は大喜びだった。

2017/04/26

「城塞」(2017/4/25)

「城塞」
日時:2017年4月25日(火)13時
会場:新国立劇場 小劇場THE PIT
作:安部公房 
演出:上村聡史
<  キャスト >
山西惇:男
椿真由美:男の妻
松岡依都美:若い女
たかお鷹:従僕
辻萬長:男の父

新国立劇場の演劇新シリーズ「重なる視点―日本戯曲の力―Vol.2」は、1962年に初演の安倍公房作の「城塞」。
あらすじは。
時代は昭和30年の半ば。一方では安保闘争の全国的な拡がりの中で騒然とした雰囲気に満ちていて、その一方では戦後の高度経済成長の真っただ中だった。
舞台はコンクリートに囲まれた部屋、中央にスライド式の扉が床と水平に設置され、そこが地下室への出入り口となっている。左右の壁にはそれぞれドアがある。正面後方には大きな窓があり外の景色も眺められるが、普段は赤いカーテンが下りている。ここが寓意的な意味でも物理的な意味でも「城塞」という事になる。
ソ満国境でで終戦を迎えた男の父は、全財産を持って日本に戻ろうとしている。手配した飛行機には二人しか乗れない。そこで父は妻と娘を置き去りにして、息子と二人だけで逃げることを決心する。病に伏せる母親と、絶望のあまり自殺してしまう妹を前に、男は激しく父に抗議し言い争いになる。
しかし、これはこの家族の中の儀式だった。今は正気を失い時が止まってしまった父が正気に戻る時だけ、男とその妻、従僕、そして金で雇った若い女(ストリッパー)が協力し合って、昔を再現している。
父親にとって国家が全てであり、彼の恐怖は革命によって国家が消滅することにあった。一方、男は父から継いだ会社が兵器産業に組み込まれてゆくことを怖れていた。
男は若い女との性的関係に溺れ、妻との間は険悪になってゆく。
やがて儀式は質的に変わってゆく。戦争が「国民の血だけ流され、国家の血はもと通り」と憤っていた男は会社を兵器産業に組み込み、大きく発展させていた。
成金の父が築いた城塞は、今や資本家となった男の城塞と化した。
儀式の終わりに男は父に現実を突きつけ、父は狂気の中に沈み、若い女は裸になって自らを解放する。

ざっと、こんなあらすじにして見たが、正確かどうかは分からない。抽象的な表現が多く、解釈が難しいのだ。
私の見立てとしては、こうなる。
・妻や娘を置き去りにして日本に戻り大儲けする父親の姿は、戦争責任を曖昧にしながら経済復興だけを優先させていた当時の日本の姿を暗示している。
・当初は兵器産業を忌避しながら結局は兵器産業で会社を大きくする男の姿は、不戦を誓いながら再軍備から安保体制へと突き進んだ日本の姿を象徴している。
これも正解かどうかは自信がない。
観客の入りが悪かったのは、当時は神のごとき存在だった安倍公房を知る人も少なくなってきたのでは。内容が難解なことにも原因があるように思う。

出演者、特に男性陣は実力派揃いで、素晴らしい演技を見せていた。この演技を見るだけでも観劇する価値がある。
ストリッパー役の松岡依都美の躍動感も魅力的だった。

公演は30日まで。

2017/04/25

立川志の輔独演会(2017/4/24)

「立川志の輔独演会」
日時:2017年4月24日(月)18時30分
会場:銀座ブロッサム中央会館
<  番組  >
立川志の輔『やかん』
立川志の輔『高瀬舟』
~仲入り~
ダメジャン小出『ジャグリング』
立川志の輔『宿屋の富』

久々の志の輔だ。
この日は前方を使わず、開口一番から本人が出て、色物を挟んで3席演じた。
独演会と称しながら2席で終える噺家が多い中で、こういうサービス精神は是非見習って貰いたい。

志の輔『やかん』
サラだったので、前座噺を選んだのだろう。
マクラで今年は1月、2月、森友、4月だったと。今年の流行語大賞は「忖度」で決まりだろう。最近の閣僚らの失言をとりあげ、あれは思っていたことをポロリと言ってしまったもので、失言とは言えないと。その通りだ。
「キリンの首って、どうしてあんなに長いんです?」
「そりゃ、お前、頭があんなに高い所にあるから、首は長くなるだろう」
そんな問答を繰り返しながら、「水わかし」から「やかん」になった訳を。
1席目は軽く流す。

志の輔『高瀬舟』
ご存知森鴎外の代表作を一席にまとめたもの。ただ、落語化とうよりは原作を若干変えて粗筋を語ったという印象だ。
ストーリーは忘れていたので、改めて紹介する。
徳川時代に京都の罪人が流刑を申し渡されると、高瀬舟にのせられて大阪へ送られる。護送するのは京都町奉行の配下にいる同心で、罪人の親類のうち一人が同船させる事を許された。
同心羽田庄兵衛は豊かな商家から妻を娶ったため、経済的には苦労が絶えなかった。
ある時、弟を殺めたという喜助という罪人の護送を命じられた。他に身内がいないようで同船者はいない。
流刑の罪人というのは通常は泣いたり喚いたりと落ち込む表情を見せるのだが、この喜助という男は珍しく周囲の景色を眺めながらいかにも楽し気に見える。
庄兵衛は不思議に思って身の上話しを訊くと、喜助兄弟は早くから両親を亡くし、二人は同じ所で働き寄り添うように暮らしていた。
処が、弟が大病を患い働けなくなり、喜助一人の稼ぎで食べて行くようになる。弟はこの事でたいそう気を病んでいた。
ある日、喜助が弟のために食べ物を買って家に戻ると、弟は自刃をはかり喉に刃物を刺して状態で苦しんでいた。
医者を呼ぼうとする喜助を弟は止め、それり早く喉に刺さった刃物を抜いてくれと頼まれ、抜いてしまうとそのまま弟は死んでいった。
その姿が近所の人に見つかり、喜助は弟殺しの罪で流罪となったのだ。
喜助は、島流しになっても食べ物と寝る所は頂けるし、流人には御上から200文という金子が与えられる、生まれてから持ったことのない大金で、自分は今とても幸せだと言う。
庄兵衛は我が身を振り返り、喜助の心情に思いを馳せ、掟を無視して喜助の縄目を解いて、二人並んで高瀬舟は黒い水面をすべって行った。   
志の輔は語りの確かさでじっくり聴かせていた。

ダメジャン小出『ジャグリング』
初見。一つ一つの技はさほど高度とは思えないが、見せ方が上手い。

志の輔『宿屋の富』
通常の演じ方といくつか違いがあった。
・宿に泊まった男の自慢話を宿の亭主があまりに信用してしまい、男がせめて「自宅の門から家まで宿場を三つ通る」の所で止めてくれなかったと嘆く。
・男の出身地が鳥取ではなく越前。
・富籤を売りつける際に、100枚売るのに1枚だけ売れ残った。この1枚をかぶると99枚の儲け分が飛んでしまうのでと言って、富籤を無理やり買わせる。
・富籤に当たったら半額を宿の亭主にという約束を、亭主の方から申し出て約束させる。
・富籤を売る段階で、籤の番号「子の1365番」を言わずに売る。
・一番富が当たった時に、賞金は富籤の所有者と売った人間が揃わないと受け取れないからと、男はいったん宿に戻る。
志の輔の高座はいくつか細部の変更はあったが、大筋やサゲはオリジナル通り。
見せ場の、師匠譲りの2番富が当たると信じた男の妄想や、一番富が当たった時のリアクションを中心に熱演。
彩の異なる3席で、志の輔ファンは満足したと思う。

2017/04/24

露の新治落語会(2017/4/23)

「露の新治さん落語会」
日時:2017年4月23日(日)10時30分
会場:ギャラリー&スペース弥平(菊名)
<  番組  >
露の新治『人権落語』
露の新治『紙入れ』

4月21日の「共謀罪」を審議している衆院法務委員会で、質問者の民進党議員が他の議員と相談していると、自民党の自民党の土屋正忠理事が大声でこう叫んだ。
「あれは、テロ等準備行為じゃねえか!」
正に語るに落ちるとはこのことで、共謀罪について政府の本音が出た。
この法案の怖ろしさは、政府に反対るするような行為をテロ準備行為として取り締まることにあり、最初に標的にされるのは沖縄の反基地運動だろう。
以前の記事にも書いたが、「テロ」というのは曖昧な言葉で、為政者によって如何様にも解釈が出来てしまう。
これが「共謀罪」の本質だ。

さて、昨日の三田落語会に行けなかったので、23日午前に行われた露の新治落語会へ、
この会は、横浜近現代史勉強会が主催したもので、主催者が新治と高校の同級生だった縁で実現したらしい。
菊名の駅は初めておりたが、この辺りは坂道が多い。駅から会場までは上り坂で、坂を上がりきった所から右折すると、露の新治の垂れ幕が見えてきた。
早めに会場に着いたら、まだ新治が普段着で会場造りを手伝っていた。
40名ほどで一杯になる会場は満席で、殆どが知り合いの人のようだった。
主催者の挨拶と新治の紹介のあと、「金毘羅船舟」の出囃子にのって、盛大な拍手で新治が登場。

1席目『人権落語』
今日はお互い志が同じなのでと、最初から安倍批判がポンポンと飛び出す。こうして落語会を開いて皆が笑えるのも平和があればこそで、これが共謀罪だの治安維持法が通るようになれば笑っていられなくなる。
憲法を守るというが、私たちが憲法に守られている。
痴漢防止の標語で東京は「気を付けよう、甘い言葉と暗い道」、大阪は「痴漢、アカン!」。これは加害者の行為を禁止した大阪が正しい。東京の場合は被害者が気を付けろという意味になり、問題のすり替えが行われている。性犯罪では事件が起きると被害者の落ち度が問題視され、加害者の責任が曖昧にされてしまう事が少なくない。
管内の引ったくりが日本一の尼崎署の標語は「引ったくり、するな!」。これも加害者側を禁止しているので、正しい。
競争は人間同士の連帯を壊してしまう。新治の孫の保育園での運動会で、4歳児の徒競走で一人の子が早くスタートしたら、父親の一人が大声で「フライング!」と抗議し、スタートをやり直させた。子ども同士の微笑ましい姿が、競争になると親の意識も変えてしまう。
手段の自己目的化は避けねばならない。議員の当選するのは手段であって目的ではない。それを自己目的化すると、今の自民党議員の様な不祥事が起きる。
「老化」を確実に防ぐ方法は「若死に」しかない。「老化」は誇るべきことだ。
「頑張る」はやめて、「願生る」でいこう。
まあ、ざっとこんな具合の教訓的な話しだが、これが新治の手にかかると抱腹絶倒。会場は終始笑いに包まれた。
精子と卵子に関わる新説も聴けたし、とにかく楽しい高座だった。
来られなかった方は、残念でした。

2席目『紙入れ』
マクラは色気をどう出すか。会場の女性方には大いに参考になったろう。「あなたと一緒だと、何を食べても美味しいわ!」なんて、一生に一度でいいから言われてみたいね。
「人の女房と枯れ木の枝は、登りつめたら先がない」、これも経験がないが、きっとそうなんでしょうね。
若い男をたらし込む女房と、やめようやめようと思っても誘惑に勝てない新吉の心理描写が毎度のことながら鮮やか。
「町内で知らぬは亭主ばかりなり」の亭主、鷹揚なのか鈍感なのか。これならまた安心して浮気が続けられるというもの。
「その時に、紙入れはそっと返すわ」で新吉も一安心。でもますます泥沼に入ってゆく予感もするのだが。
2席目は、うってかわっての艶噺で、新治の十八番。
この2席を聴けた今日のお客は幸せだ。

三遊亭圓歌の訃報に接した。
『中沢家の人々』で知られるが、私は『坊主の遊び』『西行』がベストだと思っている。
ご冥福を祈る。

2017/04/22

#455花形演芸会(2017/4/22)

第455回「花形演芸会」
日時:2017年4月22日(土)13時
会場:国立演芸場
<  番組  >
前座・笑福亭希光『のめる(二人癖)』
柳家緑君『初天神』
三笑亭小夢『長命』
しゃもじ『漫才』
桂佐ん吉『佐野山』
ー仲入りー
ゲスト・三遊亭遊雀『堪忍袋』
丸一小助・小時『曲芸』
雷門小助六『木乃伊取り』

緑君『初天神』、久々だが上手くなっているようだ。金坊がウソ泣きしながら、飴の購入を周囲に訴える姿が良く出来ていた。

小夢『長命』、初見。独特の語りのリズムとセリフの間がかみ合わず、客席が冷めていた。若奥さんに色気が感じられない。

しゃもじ『漫才』、沖縄出身の漫才師は珍しいのでは。ツッコミが振る話題をボケが聞き違えるというのが笑いのパターン。ネタも練られているしテンポも良く面白かった。

佐ん吉『佐野山』、一之輔と同期だそうで、マクラは専ら先日のNHK番組のプロフェッショナル。一之輔の年間900席一日に7席には、月に7席という噺家もいると。
ネタは東京でもお馴染みだが、内容は幾分異なる。大きな違いは大横綱が谷風ではなく小野川で、大阪相撲の出身だからだろう。小野川が若い頃は極道で親孝行をせぬまま両親を早く亡くしていて、佐野山の親孝行のために一肌脱ぐというストーリー。
佐ん吉の明解で確かな語りが生きていた。
この日の若手の中では格の違いを感じさせる出来だった。

遊雀『堪忍袋』、このネタは東京では3代目金馬や8代目柳枝が十八番としていて、現役の人もその流れで演じているケースが多い。
対する遊雀の高座は、最初の夫婦喧嘩の場面からサゲまで上方落語版で演じている。遊雀の眼力が活きた高座で、この日一番受けていた。

小助・小時『曲芸』、撥を斜めにくわえて先端にマリを挟んで五階茶碗を立てる芸は初めて見た。糸渡りで茶碗が落下してしまったのは残念。

小助六『木乃伊取り』、やや短縮版だったがテンポが良く面白く聴かせていた。飯炊きの清蔵が、かしくの手練手管にメロメロになってゆく過程も丁寧に描かれていた。
ただ、この人は強い声を出すと声が割れるため、聴き取りづらい時があった。清蔵が途中で標準語になる演じ方も、評価が分かれるだろう。

2017/04/20

「春風亭正太郎・入船亭小辰二人会」(2017/4/19)

新・春に船「春風亭正太郎・入船亭小辰二人会」
日時:2017年4月19日(水)18:45
会場:内幸町ホール
<  番組  >
春風亭正太郎・入船亭小辰『挨拶』
前座・春風亭きいち『桃太郎』
入船亭小辰『代脈』
春風亭正太郎『百川』
~仲入り~
春風亭正太郎『厩火事』
入船亭小辰『井戸の茶碗』

冒頭の挨拶で、この会は昨年5回開き一応終了の予定だったが、今年も継続となったとのこと。中身は変わり、ゲスはト無し。その影響か、後方に空席が目立つ。
現在の二ツ目で一番上手いのは誰か、アタシの知る限りでは春風亭正太郎。それも頭一つ抜けている。
改変や余計なクスグリを入れずに、古典をそのまま演じて面白く聴かせる技術は大したもので、十分に真打クラスの実力を備えている。
入船亭小辰、語りは師匠に似ているが、高座での姿は大師匠・扇橋(柳家さん八)の若い頃を思わせる。
そんな事いうと、年がバレるかな。

きいち『桃太郎』
一之輔がこのネタを演るとこんな感じかなと思って聴いていたら、やはり弟子だった。未だ落語家のしゃべりになっていないが、不思議な可笑しさがある。このネタで久々に笑ってしまった。
有望。

小辰『代脈』
主人公の銀南の描き方として、与太郎風な愚か者として描くやり方と、関心が専ら色欲と食欲に向いた若者として描くやり方があるが、小辰は後者。
ただただお茶菓子の羊羹に異常な関心が向けられ、お嬢さんの診察では下腹部に触れることだけを楽しみしている。
でも良玄先生だって、さして必要があるとは思えない下腹部に触っていたのだから同類かも。
小辰はテンポの良い語りで面白く聴かせていた。
オリジナルでは往診に駕籠で行き、途中で銀南と駕籠かきとの珍妙なヤリトリがあるのだが、最近の高座ではカットすることが多い。小辰もそうだった。

正太郎『百川』
百兵衛の造形が秀逸で、この点に尽きると言っても良い出来だった。ただ純朴だけではない、強かさも感じさせる。クワイの飲み込み方は、今まで見た中でベスト。
各登場人物それぞれの演じ分けも十分で、貫禄さえ感じる高座だった。

正太郎『厩火事』
マクラでフランス映画の『髪結いの亭主』を話題にしていたが、このネタの髪結いのお崎と亭主との間も映画同様、濃密な愛で結ばれていたのではなかろうか。
仲人から別れなさいと言われた時の、お崎の反応の官能的なこと!
彼女は亭主が可愛くて仕方ないし、亭主の方もお崎とは離れられない。
その愛を確かめ合って、目出度し目出度しというストーリーだと思う。
正太郎の高座は、刻々変わるお崎の表情変化が巧み。この人、案外女性修業をつんでいるのかもと思わせる一席。

小辰『井戸の茶碗』
落語には珍しいほどの、登場人物が全員真っ直ぐな人ばかりだ。
いかにも小辰らしい真っ直ぐな高座だが、清兵衛のアクションを少し大きくしてアクセントを付けていた。
小辰さん、「子午線」を知らなくても恥じることはありませんよ。言葉は知ってるが、意味を説明出来る人は少ない筈ですから。

二人とも正に「上り坂の芸」、これからも注目したい。

2017/04/19

ダフ屋行為(営利目的の転売行為)の禁止

国立劇場などのチケットをネットで購入する会員(NTJメンバー)に、下記のようなメールが送信されてきた。 
【引用開始】
昨今、国立劇場・国立演芸場・国立能楽堂・国立文楽劇場の主催公演において、チケットの不正購入や営利目的の転売が疑われる事例が発生しています。
その対策として、インターネットでご購入いただいたチケットのお受け取り方法を以下のとおり変更いたします。
なお、国立劇場あぜくら会及び国立文楽劇場友の会会員としてご購入いただいたチケットは、今回の変更の対象ではございません。
■対象となるチケット
平成29年3月28日(火)午前6時以降にインターネットでご購入いただいたチケット
■対象となるお客様
NTJ会員のお客様(国立劇場あぜくら会及び国立文楽劇場友の会会員を除く)
■変更内容
インターネットでのご購入完了から72時間経過していないチケットにつきましては、自動発券機でのお受け取りができなくなります。
ただし、それより前にチケットをお受け取りになる場合には、決済にご利用いただいたクレジットカード(ペイジー決済の方はインターネットバンキングの取引明細やATM利用明細票等お支払いが確認できるもの)をご持参の上、チケット売場窓口でお受け取りください。
【引用終り】
いわゆる「ダフ屋行為」への対策として、「インターネットでの購入完了から72時間経過していないチケットは、自動発券機で受け取りができなくなる」というもの。
購入して直ちに転売しようとする者にはある程度の規制がかけられるが、「国立劇場あぜくら会及び国立文楽劇場友の会会員を除く」とされており、有効性には疑問もある。

行きたいと思っていたのにチケットが取れず、そのチケットがネットのサイトで転売されていると腹が立つ。
人気公演のチケットを購入し、高額で転売して利益を得る者が後を絶たない。
こうした転売目的のチケット購入は迷惑防止条例で禁止されていて、最近では逮捕者も出ているが氷山の一角だ。

東京都条例第103号
第二条 何人も、乗車券、急行券、指定券、寝台券その他運送機関を利用し得る権利を称する物又は入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用し得る権利を称する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売し、又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため、乗車券等を、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興業場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。以下、公共の場所という。)又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機、その他の公共の乗り物(以下、公共の乗り物という。)において、買い、またはうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラ又はその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わって買おうとしてはならない。

この法律の前半部分によれば、「転売目的でチケットを買う行為」そのものが「ダフ屋行為」だと規定している。
しかし、購入している時点では転売目的かどうかは判断できないため、実際にはザル法になっている。
チケットを購入したが急に都合が悪くなり、他の希望者に有償で譲渡したいというケースもあり、これをも禁止するわけには行かない。
では、どうしたら「転売目的」だと見做せるだろう。
そこで提案だが、

正規料金を超える金額でチケットを不特定の者に転売した者は、転売目的で購入したと見做す

と規定したらどうだろうか。
「東京都迷惑防止条例」第二条に違反した場合は、以下のように罰則(抜粋)が取り決められている。

第八条 次の各号の一に該当する者は、六月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
一 第二条の規定に違反した者
8 常習として第一項の違反行為をした者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

こうしたリスクを冒してまでダフ屋行為をする者は、いなくなるだろう。
もちろん、急に行けなくなってチケットを正規料金以下で譲渡する行為は、転売目的には当たらない。

ダフ屋行為を根絶するには、これ以外の方策はない気がするのだが。

2017/04/17

喬太郎の『居残り』でハネた「扇辰・喬太郎の会」(2017/4/16)

第70回「扇辰・喬太郎の会」
日時:2017年4月16日(日)18時30分
会場:国立演芸場
<  番組  >
柳家喬太郎『小政の生い立ち』
入船亭扇辰『百年目』*
~仲入り~
入船亭扇辰『道灌』
柳家喬太郎『居残り佐平治』*
(*ネタ出し)

ここ10年位は皆勤賞となるこの会だが、会員向け発売日を逃がしてしまい、一般発売日に何とかチケットが取れた。
扇辰と喬太郎がネタ下ろしを各1席披露するという趣向の会だが、今回は特に二人とも大ネタに挑んだ。
少し遅れて、前座が下りてから入場。

喬太郎『小政の生い立ち』
講談の『清水次郎長外伝~小政の生い立ち』を落語化したもの。
次郎長というと広沢虎造の浪曲で有名だが、本家は講釈。次郎長モノの特長は、次郎長はどちらかといえば狂言回しで、それぞれの子分たちの銘々伝の様な形式になっている。
「清水港は鬼より怖い、大政小政の声がする」と謳われた小政が次郎長と出会って清水に行くまでの物語だ。
母親が死んで清水に向かう小政は餞別に受け取った資金で居合抜きの道場に通い、腕を磨いてから次郎長の元を訪れる。これは非常に賢いやり方で、だからこそ幹部にまでのし上がったのだろう。実際には、代貸を務めた大政に比べると、かなりランクは下だった様だが。
落語にしにくい物語を、クスグリを散りばめて1席にまとめた喬太郎の力量は大したものだ。

扇辰『百年目』
マクラで、ネタ下ろしは完成品ではないので、その心算で聴いてほしいと言っていた。そう言いながらも、扇辰のことだから相当な稽古を重ね、完成度を高めて高座に臨んだと思う。
前半のお花見で番頭の冶兵衛が大旦那と鉢合わせする場面までは快調に飛ばしていたが、後半でダレてしまった。
冶兵衛が二階で眠れず悶々とする場面の時間が長すぎた。夢のシーンは蛇足で、もっとあっさりと演じて良かった。
翌朝の大旦那が冶兵衛を呼んで諭す場面も、同じセリフの繰り返しがあったりして冗長に感じた。
一番いけないのは、最後に二人が涙にくれる場面で、この噺の品位を壊してしまう。
次回からは、後半はかなり刈り込んで演じた方が良いと思う。

扇辰『道灌』
仲入り前が相当時間をオーバーしたので、軽めのネタを選んだと思われる。
前座のお手本になるような高座だった。

喬太郎『居残り佐平治』
「スーダラ節」の出囃子で登場。
時代とともに言葉が変わるというマクラを振って、この噺のサゲの「おこわにかける」の意味を解説した。
一人二分の割り前で佐平次とよったりが品川の貸し座敷に上がってドンチャン騒ぎする所から話が始まる。通常演じられる品川宿で店をさがし、牛太郎に声をかけてのヤリトリはカットしていた。
居続けする佐平次に若い衆が勘定の催促をする場面では、もう少し厳しいヤリトリがあった方が良かったのでは。ちょいと、若い衆があっさりと引き下がり過ぎる。この辺りは薄味だった。
佐平次が座敷を回り始め、先ず勝つぁんに取り入る辺りから俄然「らしさ」が出てくる。花魁が手紙を書く時に、好きな人と嫌いな人とでは手つきが違う所を身振りで見せる所は秀逸。
祝儀が入ってこず困った若い衆の直訴で、店の大旦那が佐平次に帰宅するよう促すが、佐平次は自分がお尋ね者だと居直り、金や着物をせしめる場面では佐平次の小悪党ぶりが巧みに描かれていた。
このネタは過去に錚々たる顔ぶれの名人上手が手掛けており、喬太郎としては恐らくはそれらに挑むというよりは自分流の『居残り』を目指していると推測する。
そう見れば、ネタ下ろしとしては一応成功と言えるのではなかろうか。
喬太郎の持ちネタに加わる日が近いかも。

2017/04/16

「正雀・菊志ん二人会」(2017/4/15)

「林家正雀・古今亭菊志ん 二人会 その2」
日時:2017年4月15日(土)14時
開場:橘家(四谷荒木町)
<  番組  >
前座・林家彦星『つる』
古今亭菊志ん『黄金の大黒』
林家正雀『中村仲蔵』
~仲入り~
林家正雀『一眼国』
古今亭菊志ん『黄金餅』

就寝前に落語のCDを聴きながら寝るのを日課としているが、ここ3ヶ月ほどは桂米朝だけを聴いている。
米朝の語りの魅力はいくつもあるが、それを裏付ける話芸の要素は次の様だ。
・計算され尽くしたセリフの「間」
・セリフの緩急
・声の高低
・声の強弱
こうした要素の組合せによって、米朝独特の語りの「艶」や「ドラマ性」を生んでいるのだと思う。
プロの噺家でも語りに魅力がない人がいるが、米朝の高座から学ぶべき所、大だろう。

この会の会場となった四谷荒木町は高級料理店の多い所で、私も現役時代に何度か足を運んだことがあるが、敷居の高い店だった記憶がある。
「橘家」も元は料亭だったようで、今は貸座敷となっている。詰めて30人ほどが座れる座敷と舞台があり、緞帳が設備されているのには感心した。
アクセスは地下鉄四谷三丁目駅から数分で、曙橋からも近いようだ。

正雀と菊志ん、双方の師匠同士が親しかった(もっとも彦六の方が圓菊よりずっと先輩だが)こともあって、そうしたご縁から二人会を開くことになったようだ。
菊志ん、二ツ目当時から注目していて、何度か高座を見てきた。明るい芸風で噺も上手く好感が持てた。むしろ、真打になってからあまり高座に接する機会がなくなった。
正雀、芝居噺の継承者として貴重な存在。正蔵はこの人が継ぐべきだった。
この日は二人とも、師匠の十八番を演じるという趣向。

菊志ん『黄金の大黒』
寄席だと時間の関係から途中で切ることが多いが、この日はサゲまで。聴かせ所の店子が大家を訪れ羽織をとっかえひっかえしながらお祝いの口上を述べる場面、この人らしい陽気な語りが活きていた。
悪戯した大家の倅の頭を金づちで殴ったというエピソードや、座敷に上がってからの宴会の場面もスピーディで、良い出来だった。

正雀『中村仲蔵』
ほぼ師匠の演出通りだったが、仲蔵が花道の「申し上げます」で相手の名前を失念したとき、咄嗟に本舞台の4代目團十郎に訊きにいって事なきを得て、それを機に團十郎から認められ名題に取り立てられるというエピソードを冒頭に持ってきていた。
五段目の場面では、師匠譲りの芝居の場面を忠実に再現していた。
ただ、五街道雲助や露の新治の高座に比べ、蕎麦屋で浪人風の旗本に出あって定九郎の衣装を思い立つ箇所や、日本橋の魚河岸で観客の一人が仲蔵の工夫を褒め称える箇所といった山場の盛り上げに欠けていたように思う。
サゲは師匠とは異なっていた。

正雀『一眼国』
これもマクラの向う両国での見世物小屋の風景から、師匠の演出通り。香具師が六部に珍しい話しをせがむ時には炊き立てのご飯を勧めるが、思いつかないとなると途端に冷や飯と言い出す所は先代正蔵には無かったのではないかと。
このネタ、逆転の発想の面白さがある。

菊志ん『黄金餅』
このネタの最大の聴かせ所は、なんと言っても下谷山崎町から麻布絶口釜無村の木蓮寺までの道中付けの言い立てだ。こればっかりは、今も志ん生の型を踏襲している。勿論、菊志んも同じ。
一歩間違えると陰惨な話になりかねないのだが、菊志んはカラリと演じていた。その分、貧民街から何とか這い上がろとする金兵衛の凄まじいまでの執念は薄目だったと思う。

2017/04/14

「町内会(町会、自治会)」って、必要なのか

私が住んでいるマンションでは、管理組合の理事長は町内会の役員になることになっている。
これも自分たちで決めたことではなく、入居当初から町内会側が勝手にルール化したものらしい。
町内会の役員の主な仕事は、
・役員会の出席(無視している)
・町会費と近くの神社の氏子会会費の集金
・区の会報などの配布
・分けの分からぬ回覧
・赤い羽根などの募金の集金
・防災訓練などへの参加
といった所だ。

管理組合の役員の方は大変なことも多いが、こちらもお世話になることがあるのでお互い様と割り切れる。
しかし、町内会となると40年近く会員になっているが、何か世話になった記憶がない。
その一方で、会費の集金や上から配布物、各種回覧物などが一方的に持ち込まれる。だから、どうも釈然としないのだ。
特に回覧、この必要性が全く分からない。
先ず、読まない。私も読まないが、周囲の人に訊いてもやはり読まないと言っている。読まなくても誰も困らないし、作り手も読ませる工夫をしていない。
恐らくは、各団体の広報予算の消化に使われているんだろう。
そんな回覧物が毎月数種類も持ち込まれる。

ウウィキペディアで「町内会」を引くと、「日本の集落又は都市の一部分(町)において、その住民等によって組織される親睦、共通の利益の促進、地域自治のための任意団体・地縁団体とその集会・会合」とある。
しかし町内会の歴史を振り返れば、戦時下では大政翼賛会の末端組織として戦争遂行の役割を果してきた。
戦後はGHQにより禁止されていたが、サンフランシスコ条約の発効にともない自治組織として再組織化されるようになり、今日まで続いている。
私の住んでいる地域については、同じ町内なのに番地が違うと別の町内会に分かれていたり、その一方で別の町と同一の町内会を形成している。
区内の他の町内会も似たような形態だ。
どうやら、戦前の町内会組織がそのまま継続しているようだ。

加えて、この町内会は近くの神社の氏子たちが中心となっている。だから、町内会の役員が氏子会の会費の集金をやらされるのだ。
私の様に信教の自由を理由に氏子会の入会を拒否していても、町内会の役員になると氏子会費の集金は手伝わされる。
地元の神社への信仰を否定するわけではないが、神社本庁が「日本会議」の中心であったり、神社が憲法改正の署名を呼びかけたりしている実情を見る時、どうしても戦前の悪夢を想起してしまう。
別の神社が経営している幼稚園では、かなり以前から毎朝の朝礼で君が代を園児に歌わせている。安倍政権の教育政策の先取りである。

少なくとも私の町の町内会を見る限りでは、住民自治とは程遠い。
地方自治体との連携を言いながら実態は一方通行で、「御上から下々へ」の気分が抜けない。
こんな町内会なら不要だろう。
町内会など脱会したいのだが、震災など大きな災害に遭ったときはそれなりの役割もあるかも知れないと思って、疑問を持ちながら会員は継続しているのだが。

2017/04/09

「小池新党」の危うさ

今年7月に行われる東京都議選で、「小池新党」旋風だの台風の目といった報道が流されている。
しかし、「都民ファーストの会」が何を目指すのか、どういう政策を進めるつもりなのか、未だに不明確だ。
ブームの火付け役ともなった築地市場から豊洲市場への移転問題でさえ、明確な態度を打ち出していない。むしろ、最近の言動を見るかぎりでは、世論の動向をみながら最終的には豊洲移転を目論んでいると思われる。
百条委員会も期待した結果が得られずに終わってしまった。
世論調査では小池知事の支持李は7割を超えているが、どこが評価されているのか、私には分からない。

都民ファーストの会の現在までの公認予定候補の顔ぶれは、
・前回都知事選で小池を支持した現職都議:3名
・自民党の都議、市議、区議:11名
・民進党前都議ら:4名
・その他:7名
という構成だ。
私の住む地域でも、前回民進党公認で落選した人が、今回は「新党」から立候補する。どうやら、政策に共鳴というよりは、ブームに乗って当選したいという人物が集まっているようだ。

忘れてはいけないのが、小池百合子は現在も自民党党員であり、自民党も小池を除名する気がないことだ。
当然のことながら、小池都知事は自民党本部、とりわけ政権の意向には逆らえない。小池百合子が代表を務める「都民ファーストの会」もまた、大きくは政権のコントロール下に置かれることになろう。
都議選では自民党都議の苦戦も伝えられているが、
「オール自民」=「自民」+「都民ファーストの会」
とすれば、選挙の結果、「オール自民」としては却って議席を増やす可能性が大きい。民進党など野党が大きく議席を減らすという結果になりかねない。
政権としては痛くも痒くもないわけだ。

自民党に党籍を起きながら、永年にわたる利権まみれの自民党都政を根本的に転換することは不可能だろう。
終わってみれば豊洲市場問題も、小池新党ブームに利用されただけという結果になるような気がするのだが。

2017/04/07

「共謀罪」は「狂暴罪」

・過激運動者が不穏な行動に出る傾向はますます増加
・取り締まり法規が不十分
・決して曖昧な解釈を許さぬ
・無辜の民にまで及ぼすというごときことのないように十分研究考慮いたしました
・決して思想にまで立ち入って圧迫するとか研究に干渉するということではない

以上は法案審議で政府はこう答弁していた。どんな法案かというと、「治安維持法」だ。言葉は古くさいが、内容はいま審議している「共謀罪」の安倍首相の答弁とウリ二つではないか。
治安維持法は、当初は共産主義を対象にしたものだったが、その後どんどん対象が拡大され、やがて宗教団体や、右翼活動、自由主義等、政府批判はすべて弾圧・粛清の対象となっていった。
その結果、194人が取調べ中の拷問・私刑によって死亡し、更に1503人が獄中で病死したとされている。
こうした法律が怖いのは、いったん成立すると独り歩きし始め、政権の意向や情勢の変化によりいくらでも恣意的に変えられることだ。
為政者は常に「小さく産んで大きく育て」ようとするから、油断ならない。

組織犯罪を計画段階で処罰可能とする「共謀罪」の成立要件を絞った「テロ等準備罪」(以下、ここでは「共謀罪」と表記する)を新設する組織犯罪処罰法改正案が4月6日午後、衆院本会議で審議入りした。
先ず、「テロ(テロリスト、テロリズム)」という言葉の定義がアイマイなのだ。第二次大戦中、ナチス占領下で行われた抵抗運動を私たちはレジスタンスと呼んでいるが、ナチスは彼らをテロリストとしていた。
先日、NHKの特集でシリア・アレッポでの病院への爆撃の様子を放映していたが、シリア政府からすれば反政府勢力の地域にある病院もテロリストだから、攻撃は当然という理屈になる。
しかし、サリンなど化学兵器まで使って市民を殺傷しているシリア政府の方こそテロリストを呼ぶべきだ。
テロという言葉は、どちら側から見るかによって180度変わるものなのだし、時の政権の意向や社会情勢によっていかようにも変えられるものなのだ。

今回政府が提出した法案は、適用対象を「テロリズム集団その他の組織的犯罪団」と規定。277種類の罪の実行を「2人以上で計画」し、グループの誰かが「資金または物品の手配、関係場所の下見その他」という「準備行為」を行った場合に、処罰されるという内容だ。

政府は、処罰対象は「組織的犯罪集団」に限ると説明し、その集団は、テロ組織、暴力団、薬物密売組織と例示している。
しかし、国会での質疑で金田勝年法相は「それ以外のものも含まれる場合がある」とした上、なにが「共謀」にあたるか判断するのは捜査機関と述べた。
安倍首相も組織的犯罪集団の「法定上の定義はない」と答えている。
これでは対象が、警察など捜査機関の判断にゆだねれられ事になる。そして、捜査機関が政治的に公正中立でないことはご存知の通りだ。
また金田法相は質疑の中で、共謀罪をめぐる捜査で、電話やメールなどの盗聴を可能にした「通信傍受法」を使うことを将来的に検討すると答えている。
結局、共謀罪の成立は国民を萎縮させ、国民の人権やプライバシーが侵される監視社会への道を開くものだと言える。

安倍首相は盛んにこの法案がオリンピックをテロから守るためという口実を設けているが、過去の事例からすればオリンピックとテロとは直接関係ない。
第一、オリンピックの開催がそれほど国民の命を危険にさらすものだとしたら、なぜ五輪招致の段階でその説明をしなかったのか。
テロ対策という点でいうなら、日本はすでにテロ防止のための13の国際条約を締結し、57の重大犯罪については未遂より前の段階で処罰できる国内法がある。
政府が度々持ち出す国際条約も、麻薬取引やマネーロンダリングなどの国際犯罪を防ぐためのものであり、「テロ対策」が目的ではない。

どのように形を変えようと、名称を変更しようとしても、「内心の自由」を侵すという共謀罪の本質は変わらない。

戦前の「治安維持法」では、日本国内で死刑判決を受けた人は一人もいない(朝鮮では45人に死刑が執行された)。なかには量刑では軽微な者もいた。それでも取り調べ中や獄中で1700人もの人が死亡していたことを忘れてはならない。
時代や法律の中身こそ違え、「共謀罪」は私たちにとっては正に「狂暴罪」である。

【追記】
上の記事をアップしてから、米国トランプ政権がシリア政府軍の基地にミサイル攻撃を行ったとの報道に接した。シリアとロシアは、米国の攻撃を侵略行為として激しく非難している。
いかなる理由があろうとも、国連の決議なしに一方的に他国を攻撃する行為は許されない。
米国の行為はシリアの内戦状態をさらに悪化させるだろうし、米国の攻撃は明らかな誤りだ。


2017/04/05

鈴本演芸場4月上席・昼(2017/4/4)

鈴本演芸場4月上席・昼の部4日目

柳家小はだ『道灌』
<  番組  >
柳家小太郎『出来心』
ストレート松浦『ジャグリング』
柳亭左龍『長短』
桂南喬『鮑のし』
ホームラン『漫才』
桃月庵白酒『茗荷宿』
柳家小さん『親子酒』
のだゆき『音楽』
三遊亭歌之介『漫談』
─仲入り─
青空一風・千風『漫才』
三遊亭白鳥『マキシム・ド・のん兵衛』
橘家文蔵『寄合酒』
ダーク広和『奇術』
柳家喬太郎『時そば』

「銭湯で上野の花の噂かな」、桜が見ごろとあって御成街道はごった返していた。鈴本も平日の昼にもかかわらず、満席に近い入り。南喬じゃないが「なぁんだ、客もその気になりゃ来られるんじゃないか」である。
開演前の長い行列で、「なんで今日はこんなに混んでるんだ?」と言ってる人がいたが、それは、あなたが来たからですよ。まあ、多くはトリの喬太郎目当てだろうけど。

小太郎『出来心』、初見。さん喬門下では珍しく、自分を前面に押し出すタイプのようだ。五月雨的に客が入場する中で、落ち着いた高座だった。

ストレート松浦『ジャグリング』、この日はマオリ族の踊り(ポイだったかな?)を採り入れたパフォーマンスを披露。太神楽と異なり、次々に新しい芸に挑戦するのは大変だろう。

左龍『長短』、この日の高座で気付いたのだが、長さん宅を訪れた短七さんが煙草を吸う時は、煙管は持参だ。腰の煙草入れから煙管を取り出し一服することになるわけで、左龍のこうした細かな描写に納得した。持ち前の「眼力」を活かして好演。

南喬『鮑のし』、この人の描く甚兵衛さんは可愛らしい。周囲の人たちがついつい手を貸したくなるのも納得。

ホームラン『漫才』、このコンビの高座は、は事前にネタ合わせしているのかと思えるほど即興風だ。でも毎回それぞれの見せ場を作ってケツを合わせる。大した芸だと、感心する。

白酒『茗荷宿』、ざわついて落ち着かない客席を力業で締める。

小さん『親子酒』、単調なリズムで睡眠。

のだゆき『音楽』、そう言えば、楽器を弾く芸人が少なりましたね。

歌之介『漫談』、もしかしてタイトルがついているのかも知れないが、不明のため漫談としておく。小噺の一つ一つが良く練られており、終始客席を沸かす。

一風・千風『漫才』、東京風の落ち着いた漫才を目指しているようだが、今のとこインパクトがない。

白鳥『マキシム・ド・のん兵衛』、毎度お馴染みのネタ。

文蔵『寄合酒』、新聞紙に包まれた味噌の匂いをかぐ場面を見せ所にしていた。

ダーク広和『奇術』、毎度ネタを開発してくる熱意は評価するが、寄席の色物としての手品なので、もっと見せ方を工夫した方が良い。

喬太郎『時そば』、持ち時間30分のうち20分をマクラに費やした。お馴染みのラーメンや立ち食いソバの蘊蓄が中心だったが、喬太郎目当ての客席は大喜びだった。残り10分でネタを演じたが、トリ根多に『時そば』はどうなんだろう、季節はずれだし。
せめて「春」に因んんだ演目を選ぶべきだったのはなかろうか。
じっくり噺を聴きたかった客はガッカリだったろうね。

2017/04/03

安倍の「保守」は紛い物だ

私は、自分自身は「保守」だと思っている。少なくとも保守的な人間だと思っているのだが、ある記事を読んでその思いを深くした。
月刊誌「選択」2017年4月号の巻頭で、元行革担当相の村上誠一郎自民党衆議院議員へのインタビューが掲載されていて、掲題の見出しはその記事に倣ったものだ。
その中からいくつかを抜粋して紹介したい。

―第二次世界大戦を知らない世代が、やれ教育勅語だ、靖国参拝だのといっても、そこには本当の愛国心はない。稲田朋美防衛相が、「祖国のために命を捧げる」と勇ましいことを言うのも、戦争体験のある世代には、実に乱暴な物言いであり、命を軽々に論じているようにしか聞こえない。学徒出陣で肉親を失った人はどう思うだろうか。

―保守の本質は、国民の暮らしと安全を守り、良き伝統、手法を引き継いで常に正義を目指す。それは時代によって変わる。
今の日本にとって、戦後確立した立憲主義、民主主義を守ることも、真の保守政治というものだ。

―明治の思想家、新渡戸稲造は、武士道の研究において、日本人の価値観の中で「義」や「仁」の大切さを説いた。それは国民に誠実に向き合い、慈愛の精神を持つことで、日本人が最も大切にしている価値観だ。

―安倍外交は、米国のトランプ大統領と食事とゴルフを共にしたが、アジアで味方を増やしていない。私も中国の言動を是認するわけではないが、戦争の傷跡は加害者よりも、殴られ、痛い目にあった方が残るものだ。慈愛の心なくして周辺と仲良くできない。

―英国では、メイ首相がトランプ大統領の訪英を求めたのに、約200万人が反対の署名をした。相手が超大国でも、自国の価値観を大事にする。これこそが、立派な保守の国ではないだろうか。

―今の自民党は自由闊達な政党と言えない。政治家には「ノブレス・オブリージェ(高貴な者の義務)」の精神が不可欠で、正義を貫くこと、勇気を持つことが求められる。今の党内には、上に迎合し、選挙やポストで得しようとする風潮が強い。

―民主主義派デリケートなものだ。国民は常に、守り育てなければならない。米国のマッカーシズムのようなポピュリズムに走る危険性は、常にある。

註「マッカーシズム」
1950年代にアメリカ合衆国で発生した反共産主義に基づく社会運動、政治的運動。通称「赤狩り」。共産主義という烙印を押された人たちが迫害を受けた。

2017/04/02

名作落語の夕べ(2017/4/1)

「第百七十五回にぎわい座 名作落語の夕べ」
日時:2017年4月01日(土)18時
会場:横浜にぎわい座 芸能ホール
<  番組  >
前座・三遊亭まん坊『からぬけ』
三遊亭萬橘『代脈』
桂文治『親子酒』
~仲入り~
柳亭小痴楽『幇間腹』
入船亭扇遊『花見の仇討ち』

寒いですね。近所の公園の桜も咲こうか咲くまいか迷っている。
芸人は客を選べないというが、客もまた客を選べないのだ。この日のお隣りさんが噺家のマクラに声を発して反応する人で、「もぉ、やっだぁ!」が口癖。こっちの方が、もぉ、やっだぁ。
お気持ちは分かりますが、出来れば心の中でつぶやいて欲しいですね。

横浜にぎわい座では毎月1回「名作落語の夕べ」を開催しているが、主催者の説明によればこの4月からリニューアルしたとのこと。これからは作品本位の企画になるようだ。
出演者でいえば、二ツ目を入れたのは初の試みとのこと。

萬橘『代脈』、初登場とのことで客席の反応を計りかねていた。時々メガネをかけて客席を見回し、「居るんですよね」と確認していた。
何となく可笑しいというのがこの人の強みで、いつもの自虐ネタをマクラに振ってネタへ。
医師が免許制になったのは明治7年だそうで、それまでは医師のもとで修業すれば誰もが自由になれた。治療も「気」を重視していたので、抜けているが明るいギンナンの様な人物でも医師は務まったのかも。師匠も言ってたではないか、医者で大事なのは腕ではなく礼儀だと。
弟子は不出来なほど可愛いというのもギンナンには有利だ。
診察よりお茶うけの羊羹にこだわるギンナンのトボケタ味が出ていて、好演。

文治『親子酒』、客席は結構受けていたが、どうも感心しない。
師匠譲りのこのネタでは、親旦那が女房を相手に色んなことを言いながら酒を飲み続ける場面が見どころだが、長すぎてダレた。
この人の笑いを誘うような間の取り方は、好みの分かれる所だ。

小痴楽『幇間腹』、いい出来だった。もはや真打クラスと言っても可笑しくない。
若旦那が軽すぎるきらいはあったが、幇間の造形が良かった。お茶屋に来て店の人を片っ端からヨイショしながら、女中を口説くタイミングがいい。
座敷にあがってから、身体を斜めにして流し目で喋る姿は色気があるし、いかにも芸人らしい。
セリフの間の取り方は天性だろう。

扇遊『花見の仇討ち』、端正な高座スタイルがこの人の特長で、噺は全て本寸法。ネタが持っている本来の可笑しさで客を笑わせる力があるのが強味だ。
このネタの眼目は、多彩な登場人物が演じ分けられているかだ。例えば巡礼の二人、あるいは武士の二人、それぞれに個性があり、違いを演じ分けなければならない。こうした点をしっかり押さえている所が扇遊の優れた点だ。
浪人役の熊さんが、待てど暮らせど来ぬ仲間に、「あいつらと一緒にやって上手く行った試しがない。友達、変えようかな」の一言も効いていた。
茶番の仇討ちに武士が助太刀に現れて時の、熊や巡礼役たちの反応や表情変化も巧みで、上出来の高座。

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