池袋演芸場㋅下席(2017/6/27)
池袋演芸場㋅下席昼の部・7日目
前座・春風亭一花『桃太郎』
< 番組 >
入船亭小辰『普段の袴』
三遊亭歌実『交番戦』
柳家喬太郎『饅頭こわい』
ホームラン『漫才』
春風亭一之輔『化物使い』
橘家文蔵『ちりとてちん』
ー中入りー
入船亭扇里『ぞろぞろ』
柳家さん喬『替り目』
翁家社中『太神楽』
入船亭扇辰『甲府い』
池袋演芸場の下席は昼の部だけで、上演時間も3時間と通常より短い。手頃なので、ここには下席に来る事が多い。但し、出演は落語協会のみだ。
夜の部は独演会などの特別興行だが、これも落語協会のみ。
上席と中席は落協、芸協交互だから、芸協は池袋でも割を食われている。
東京も大阪のように一つの団体に集約出来れば良いのだろうが、過去の経緯もあって統一は難しい。
人気者が顔を揃えたとあってか、平日の昼にもかかわらず補助椅子も出る一杯の入り。
小辰『普段の袴』、彦六が得意としていたが、最近は一之輔が高座にかけている。特に鈴本の出番では御成街道に面しているせいか、かなり頻繁に演じている。小辰の高座は一之輔のような派手さはないが、男が大家に袴を借りる時の祝儀不祝儀がぶつかって喧嘩する話しや、道具屋の主が絵の鶴を文晁作というと男が「文鳥じゃねえ、ありゃどう見ても鶴だ」と言い張る場面を中心に好演。大爆笑させるのではなく、クスリと笑わせる所が本寸法。
歌実『交番戦』、歌之介の弟子で今春二つ目に昇進。芸名は本人が鹿児島実業高卒からとったもの。師匠を選ぶなら一朝が良かったと言っていた。タイトルは付いているが、内容はほぼ漫談で、警察官当時のエピソードを加えていた。こういう芸風で行くのだろうか。
喬太郎『饅頭こわい』、このネタ、落語の代表的演目のように見られているが、その割に高座にかかる頻度はそれほど高くない。前座噺としても他の『寿限無』『子ほめ』『牛ほめ』などと比べれば一目瞭然だ。登場人物が多いし、男が怖い怖いといいながら饅頭を頬張る場面に演技力が要る。その割には笑いが取れないことも原因かも知れないが。
喬太郎は、かなりの頻度でこのネタを掛けていて、これほど頻繁に『まんこわ』を演じるのは、真打では彼だけではなかろうか。
前半の怖いものを語らせる場面ではテンポの良さを、後半の饅頭を食べるシーンでは食い分けを見せ場にして、客席を沸かせていた。
ホームラン『漫才』、例の「あなたは神を信じますか? 私は信じません」「あなたが新婦ですか? 私も神父です」のヤリトリや、TDLでの踊りを披露して、この日も大爆笑。
一之輔『化物使い』、前半をカットし、奉公人の杢助が隠居に暇を貰いたいと切り出す場面から始める。隠居が化物たちをこき使うシーンを中心に演じた。のっぺらぼうの女の顔に、墨で好みの顔を描く所が独自。通常の3分の1程度の時間で演じる手際の良さは、一之輔ならでは。
文蔵『ちりとてちん』、これも文蔵の十八番で度々演じている。知ったかぶりの寅がチリトテチンを飲み込んで苦悶する姿を、隠居が楽しげに見ている。寅がコップを差し出してここへ酒をついでくれと身振りで頼むのを、「なに? 写真を撮ってくれ?」とからかう隠居。結構、人が悪いんだね。
扇里『ぞろぞろ』、彦六の十八番だったが、彦六の場合は茶店の主が稲荷に普段からお参りを欠かさず、ある日のこと土砂降りになって大勢が雨宿りに茶店に訪れ、次々と草履を買って行ったので売り切れになるという設定だ。
扇里では、茶店の主がたまたま幟が落ちているのを見つけ稲荷に届けると、その日のうちに一人の客が雨宿りに訪れ帰りに草履を買って行くという設定だ。この場合、在庫の草履は1足しかないことになっている。
それと、茶店の繁盛に伴い稲荷の参詣人もどんどん増えてゆくという描写も、彦六にはあって扇里には無かった。
両者を比べると、どうも彦六の演りかたの方が座りが良い。
さん喬『替り目』、長めのマクラから亭主が外で飲んできて、よっぱらって帰宅するまでの前半はカット。女房に酒とつまみをせがむ所から始まる。つまみも横浜のシュウマイ、小田原の蒲鉾、静岡のワサビ漬けと、品目が通常とは異なる。
女房にさんざん感謝の言葉を発し、「未だそこに居たのか」でサゲていた。
数分で演じる短縮版だが、一風変わった演じ方だった。
扇辰『甲府い』、この噺はどうも苦手だ。一つは宗教色が強いこと。何事もお祖師様のお陰というストーリーになっている。もう一つは、戦時中、報国紙芝居になったとされているが、それくらい内容が道徳的なのだ。滅私奉公や報恩の良い手本になったに違いない。
志ん朝の演じ方は、こうした色を薄めて成功した例だと思う。今だと白酒がこの流れだ。
扇辰の高座は、善吉が夜中にお題目を唱えながら水垢離をするのを加えるなど宗教色が強い。また、善吉が豆腐を売りながら、長屋のお上さんたちが洗濯していると水汲みを手伝う場面を入れるなど、これまた道徳的だ。
そのせいか、全体が古色蒼然たる印象になっていたように思う。
扇辰らしい丁寧な高座ではあったが、このネタに約30分もかけた事といい、疑問の残る一席だった。
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よいメンバーですね。後年、見といて良かったと思えるような。
喬太郎『饅頭怖い』
食い分けはたしか中華まんが見事だったはず。数年前の鈴本では声が上がりました。
さん喬『替り目』
随分と東海道筋の名物を所望するんですね(笑)
これまた女房は「いただきました、もうございません」と応じるんでしょうか。
この師弟の共演は競演の要素があり、後年、見といて・・・おっと冒頭に書いたっけ。
投稿: 福 | 2017/06/28 20:39
福様
喬太郎のこの日は、クズ饅頭の食い分けで、最初に餡子だけを食べて、後からクズを唇の上に乗せて楽しむという趣向でした。ひよこ饅頭を頭から食うかお尻から食うか迷う所も見せ場でした。
一方、さん喬はマクラでは飛ばしていましたが、ネタに入ると抑え気味の高座で、師匠の貫禄の様なものを感じました。
充実の下席でした。
投稿: ほめ・く | 2017/06/28 21:57
良い顔づけですね。(小せん師がいたら、3K辰文舎)
ってか、チェックを仕損ないました。
喬太郎師・月餅の件と葛饅頭の皮を舌先に乗せてレロレロ遊ぶ件の『まんこわ』をこの間の研究会の放送で観ました。この間って5・6年前ですが。
池袋演芸場と国立演芸場は、未体験ですので年内にも行けたら良いなと。
PS その後、お加減は如何ですか?喬太郎師の『宗漢』の放送を観て思ふ。
投稿: 蚤とり侍 | 2017/06/28 23:54
蚤とり侍様
有難うございます。絶好調という分けには行きませんが、そこそこってぇとこです。
池袋は定席の中では一番小さく、どこの席でもよく見えますし、マイク無し(有っても壊れてる)で肉声です。
一人の持ち時間が他より長いので、まとまった噺が聴けるのも利点です。
最も寄席らしい寄席と言えるかも知れません。
投稿: ほめ・く | 2017/06/29 06:22
「甲府い」の古臭いところが好きです。
宗教を大事にしている人たちの穏やかさがいいのかなあ。
投稿: 佐平次 | 2017/06/29 10:33
佐平次様
どうも人間が悪くできているせいか、善き人だけの噺というのが苦手なんです。だから『井戸茶』もダメなんです、なんか偽善っぽくて。
投稿: ほめ・く | 2017/06/29 12:31