劇団文化座「故郷」(2017/7/3)
創立75周年記念第2弾 劇団文化座公演149「故郷」
日時:2017年7月3日(月)14時
会場:東京芸術劇場シアターイースト
原作:水上勉
作:八木柊一郎
演出:黒岩亮
<出演者>
阿部敦子、佐藤哲也、伊藤勉、有賀ひろみ、阿部勉、津田二朗、酒井美智子、高村尚枝、鳴海宏明、沖永正志、小谷佳加、白幡大介、滝澤まどか、水原葵、皆川和彦、兼元菜見子、
佐々木愛、嵐圭史(客演)ほか
あらすじ。
時代は1980年代、米国から成田に向かう飛行機で偶然に隣り合わせになった在米の日本人の芦田孝二・富美子夫妻と米国人の若い娘キャシー。
芦田夫妻は、それぞれ日本を飛び出し、米国で出会い結婚。仕事も順調に行っているが、望郷の念去りがたく、どちらかの故郷で老後を送るべく来日。
キャシーの母・松宮はつ江は日本人で、米国人と結婚しキャシーを産んだがやがて離婚し、娘を置いて出てゆき、今は生死も行方も不明。キャシーはその母に会いたくて来日。
冨美子からの紹介状を持ってキャシーは母の故郷、原発に程近い若狭の寒村・冬の浦を訪れる。
最初は戸惑う村人たちだったが、フィリッピンからこの村に嫁いだホキの力を借りて事情を知り、祖父の松宮清作に引き合わす。偏屈物の清作は、はつ江とは縁を切っていたが、孫のキャシーとはたちまち打ち解ける。
そうこうしている内に、母・はつ江の消息も分かり連絡が取れる。今は再婚しているはつ江だが、知らせを聞いて故郷に戻り、キャシーと清作との再会を果たす。
一方の芦田夫妻は孝二の故郷丹後を訪れるが、懐かしより昔の辛い思いばかり浮かんで来て、ここで余生を送るのは諦める。
次に冨美子の故郷を訪れると、米寿の母親・工藤くめは一人暮らし、近くに住む長女が面倒を見ている。久々に再会した母娘は喜びの涙にくれる。
翌日、キャシーの事が気になっていた冨美子は若狭を訪れるが・・・。
およそ半世紀ぶりの文化座の舞台(確か「土」だったと思う)。当時は娘役だった佐々木愛もここでは老婆役。こっちもそれだけ年取ったということ。
水上勉の原作は、恐らくは故郷への思いが一杯詰まったものだと推測されるが、脚本はそれを消化しきれていない。
先ず大きな欠点は、登場人物の背景がさっぱり分からず、彼らの思考が「?」だらけで、感情移入ができないこと。
キャシーの母はなぜ米国人と離婚し、なぜ娘一人だけ置いて出て行ってしまったのか、その理由が分からない。キャシーがその間、どのような生活を送ってきたかも分からないし、突然行方不明の母親になぜ会いたくなって日本を訪れたのかも分からない。
米国で仕事に成功したという芦田夫妻は、どんな暮らしを現地でしていたのだろうか。二人揃って、日本で余生を送りたいと決心した経緯が分からない。望郷の念だけ?
途中で夫の孝二は、神戸の本社で会議があり、そこで急に米国に向かうことが決まったということだった。そうすると孝二は日本企業の社員(役員かも知れないが)で、米国の現地法人に派遣されているのだろうか。
米国で成功したと言ういい方は、現地で起業するか自営業で成功した場合に使うのであって、平仄が合わない。もし、米国の現地法人勤務であれば、いずれは日本に戻ってくるわけで、望郷の念とは別問題だ。
終盤で、キャシーが若狭に原発があることに怒るのだが、この背景も分からない。キャシーの今までの人生が不明なので、見ている方は戸惑ってしまう。
このように、主な登場人物に生活感が無いのが致命的だ。
ただ、色々なエピソードを詰め込んだだけというのが、率直な感想だ。
結局、佐々木愛と嵐圭史の名演だけが印象に残った。
公演は9日まで。
« 江戸落語、上方落語聴き比べ~東京編(2017/7/1) | トップページ | 国立演芸場・芸協新真打昇進披露(2017/7/5) »
「演劇」カテゴリの記事
- 辻萬長さんの死去を悼む(2021.08.23)
- 日本の戦後を問う『反応工程』(2021/7/14)(2021.07.15)
- 「彼らもまた、わが息子」(2020/2/13) (2020.02.14)
- 文楽公演『新版歌祭文』『傾城反魂香』(2020/2/11) (2020.02.13)
- 能『八島』ほか(2020/1/11) (2020.01.12)
コメント
« 江戸落語、上方落語聴き比べ~東京編(2017/7/1) | トップページ | 国立演芸場・芸協新真打昇進披露(2017/7/5) »
これは原作を読みました。
反原発小説だというような風説に惑わされました。これを一つの劇にまとめるのは至難の業でよう。
投稿: 佐平次 | 2017/07/04 09:59
佐平次様
実は妻が原作を読んでいて、どうしてもと言うことで一緒に観に行きました。
あれもこれも詰め込み過ぎで、全体が薄味になってしまった感があります。
投稿: ほめ・く | 2017/07/04 11:52
背景が分かりにくいは、脚本もそうですが、役者の技量もあるかと思います。
芦田夫妻のなれ初めや神戸に本社を置く“レストランかざはな”は台詞の中でも喋っています。
それをきちんと伝えきれなかった点は否めませんね。
投稿: 天狼 | 2017/07/05 09:05
天狼様
コメント有難うございます。
芦田夫妻の馴れ初めはセリフで説明がありました。ただ、結婚後の二人が米国でどのような境遇にあったのかが分からなかったのです。孝二は日本企業の米国駐在員なのか、それとも現地スタッフなのか。冨美子は今も仕事を続けているのかどうか。それすら掴めなかったのです。
冨美子がはつ江に自分の境遇と似ていて親近感を持ったという説明も、よく分かりません
確かに出演者の技量が原因かも知れません。
文化座というのはもっとレベルの高い劇団だと思っていましたが。
投稿: ほめ・く | 2017/07/05 19:10