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2017/07/07

こまつ座「イヌの仇討」(2017/7/6)

こまつ座公演「イヌの仇討」
日時:2017年7月6日(木)13時30分
会場:紀伊國屋サザンシアター
作:井上ひさし
演出:東憲司
<   キャスト   >
大谷亮介:吉良上野介義央(62)
彩吹真央:お吟さま(上野介行火)(28) 
久保酎吉:榊原平左衛門(上野介付近習)(50) 
植本潤 :清水一学(同上)(25) 
加治将樹:大須賀治部右衛門(同上)(30) 
石原由宇:牧野春斎(上野介付坊主)(15) 
大手忍 :おしん(御犬さま御女中)(17) 
尾身美詞:おしの(同上)(18)
木村靖司:砥石小僧新助(盗っ人)(30前後) 
三田和代:お三さま(上野介付御女中頭)(50)

ときは、元禄15年12月15日の7ッ時分(午前4時頃)から明け6ッ時分(午前6時頃)。
ところは、本所回向院裏の吉良屋敷うち、お勝手台所の炭部屋兼物置。
ご存知、赤穂浪士が吉良邸に討入り、上野介が近習や女中、それに将軍お下げ渡しのイヌと共に炭小屋に隠れてから、上野介が自ら炭小屋から出るまでを描いた物語。
イメージとしては、突然テロリストによる襲撃を受け、シェルターに避難した人たちといった所。これは比喩ではなく、事実その通りだ。
この芝居は、吉良方から見たもう一つの忠臣蔵だ。

私が小学生の頃に、子ども雑誌の付録に忠臣蔵の漫画が別冊になっていた。全体は良く知られているストーリーだったが、作者は最後にこの討入りは正しかったのだろうかという疑問を投げかけていた。これが私にとって初めての「忠臣蔵」との出会いだった。
その後、芝居や映画、ドラマなどで何度も忠臣蔵を観てきたが、大きな疑問が生まれた。それは当時の江戸の治安状況の中で、50人近い人間が戦闘服に身を固め、徒党を組んで重臣の屋敷を襲撃することなぞ果たして可能だったのかということだった。
これには権力側(将軍とその周辺)による「泳がせ政策」が根底にあったのではないかという推論を持った。
これが確信に変わったのは、将軍の命令で吉良家の屋敷が呉服橋門内から本所に移し替えになったことだ。呉服橋門内はなんと言って将軍のお膝元で警戒が厳重だったので、外から近づくことさえ困難だったに違いない。討入りなぞ到底無理だった筈だ。であるなら、これは将軍家から赤穂浪士へのゴーサインだったと考えたのだ。

歴史として伝えられていることの中には、史実と大きく異なるものが少なくない。特に忠臣蔵のようにフィクションが独り歩きしているようなケースは、この傾向が顕著だ。
忠臣蔵(赤穂事件)について、事実として明確になっているのは次の2点だ。

【刃傷】
元禄14年3月14日、江戸城松の廊下において、赤穂藩主浅野内匠頭が高家肝煎吉良上野介に切りかかり負傷させた。
幕府は浅野内匠頭に対し切腹・御家断絶、吉良上野介に対しては「お構いなし」との裁定を行った。
内匠頭の弟で養子の浅野大学は閉門、赤穂藩の江戸藩邸と赤穂城は収公され、家臣は城下から退去となった。
【襲撃】
翌年の元禄15年12月14日、元家老職にあった大石内蔵助以下赤穂浪人46名が、江戸本所の吉良邸を襲撃、上野介とその家臣多数を殺害、負傷させた。
今回の事件に対する幕府の裁定は、襲撃に参加した赤穂浪人全員を切腹させ、遺児に遠島を命じた。
一方上野介の養子吉良左兵衛は知行地を召し上げられ、他家へお預けとなった。

両事件とも浅野側が吉良側を一方的に攻撃したもので、刃傷事件では浅野が吉良の背後から斬りかかっているし、襲撃事件では赤穂浪士側は無防備の吉良側を一方的に殺戮している。
つまり、忠臣蔵は「吉良家の御難」だと言える。

ちょっと前書きが長くなってしまったが、「イヌの仇討」という芝居は、私の抱いていた忠臣蔵に対する疑問とほぼ同じ視点で演じられている。
劇中で吉良上野介は、大石内蔵助が自分を討つ理由もなければ、自分が討たれる理由もない、と語る
1.殿中で大名が刃傷に及べば、その身は切腹、お家断絶、城明け渡しは決まり事であり、浅野内匠頭がそれを知らぬわけがない。
2.「遺恨あり」との理由だが、それならなぜ自分を殺害しなかったのか。小刀で相手を殺そうとするなら突くしかないのに、ただ振り回していただけだった。あそこで自分を殺していれば、この様な事態は避けられたのだ。
3.原因は浅野の持病である瘧病(おこりやまい)と、短慮な性格によるものとしか考えられない。それが極度の緊張感の中で暴発したものと見える。大名としてはおよそ相応しくない。
4.家老である大石は、こうした浅野内匠頭の性分に対して手を拱いていただけだ。殿が刃傷事件を起こしたときに、大石は自らの失態を恥じた筈だ。
大石内蔵助の狙いは一体なんなのか、と吉良上野介は考え込み、これは将軍への抗議が目的だという推論に達する。
その結果、吉良は意外な行動に出るのだが、それは芝居を観てのお楽しみ。

井上ひさしの脚本は、相変わらず緻密だ。
外部とは断絶した空間にも拘わらず、大石や浪士たちの動きは坊主の春斎によってもたらされる。
盗っ人(これだけが架空の人物)は吉良に、赤穂事件に対する世間の評判を吉良に伝える役目を負わせている。世論というのは移ろい易く、それだけに恐ろしいものだという事を、吉良は盗っ人から知ることになる。
この点は、現代に生きる私たちへの教訓にもなっている。
緊張感の中にも笑いが散りばめられていて、2時間の上演は飽きることがない。
舞台には一度も姿を見せない大石内蔵助が、影の主役という趣向も凝っている。
演出の東憲司による手作りのイヌの奮闘も見逃せない。
むしろ、これほどの面白い芝居が初演以来29年間も再演されなかった事が不思議だ。

吉良上野介を演じた大谷亮介を始め、芸達者を揃えた演技陣が舞台を盛り上げていた。

公演は23日まで。

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コメント

面白そうです。いけるかな。

佐平次様
まだ日にちに余裕がありますし、観て損のない芝居だと思います。

なんとかキャンパスというので買えました。安くなってるんですね。

佐平次様
劇評、楽しみにしています。

白犬の尻尾でした。
この記事リンクさせていただきました。

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