喬太郎の三題噺、お題は「輪廻転生・ダイビング・口内炎」(2017/8/8)
「鈴本演芸場8月上席夜の部・8日目」
前座・柳亭市若『転失気』
< 番組 >
翁家社中『太神楽曲芸』
柳家喬之助『置き泥』
喬太郎&喬之助『お題取り』
古今亭菊之丞『悋気の火の玉』
アサダ二世『奇術』
入船亭扇辰『麻のれん』
柳家三三『磯の鮑』
─仲入り─
ホンキートンク『漫才』
入船亭扇遊『狸賽』
林家二楽『紙切り』
柳家喬太郎『三題噺』
鈴本演芸場8月上席夜の部は、特別企画公演『柳家喬太郎 三題噺地獄』。
喬太郎が仲入り前に客席からお題を三つ貰って、そのお題を織り込んだ創作落語をトリで演じるという趣向。
以前のある落語会で喬太郎が、ミスしたお詫びと客席から6つのネタを出して貰い、『初天神―反対俥―粗忽長屋―黄金餅―らくだ―寝床』を即席でつなげ、1本の噺にまとめ上げたことがあった。「落語チャンチャカチャン」だ。
その才能に舌を巻いた経験があるので、彼にとってはそう難しいことではないのかも知れない。
だが、今回は約2時間で40分間という長講を作り上げねばならないから、けっこう難題だ。
こういう所には「落語通」は、先ずお出でにならないでしょう。「あざとい」かなんかで。
でも、落語にはこうした遊び心も必要なんです。
三題噺は江戸落語の祖といわれる初代三笑亭可楽が演じていたし、中興の祖である三遊亭圓朝もしばしば高座で演じ、いくつもの名作を残している。
10日間の前売りはだいぶ前に完売しており、アタシ同様のミーちゃんハーちゃん一杯集めてこの日も大勢の立ち見の出る盛況ぶり。
そうした企画なので、他の演者は割愛し、仲入りと三題噺の紹介だけに絞ることにする。
喬太郎&喬之助『お題取り』
お題のルールの説明があった。
①前に出たお題は使わない。昨日までの7日間で採用したお題・27ヶが一覧で示される。
②会場から先ず10のお題を出して貰う、1から10までの番号をふる。
③箱の中に1から10まで番号が書いてるボールが入っていて、そこから喬太郎が3つ引き当てる。
④番号に該当した三題がこの日のお題で、「輪廻転生・ダイビング・口内炎」。
⑤加えて、日替わりの仲入り(この日は三三)の出演者自身、あるいは演じるネタを採り入れる。だから正確には「四題噺」ということになろうか。
三三『磯の鮑』
熊が与太郎に、女郎買いは楽しんだ上に金が儲かるからと吹き込み、「女郎買いの師匠」を紹介すると言って紹介状を持たせる。
断られても諦めず粘れと命じられた与太郎。
元より「女郎買いの師匠」なんているわけがないが、相手の男も与太郎の熱心さと粘りに負け、吉原のしきたりや女の口説き方を与太郎に教える。
口説きのテクニックは、花魁に「お前は私を知るまいが、私はお前を知っている。前からあがろうあがろうと思ってやっとあがることができた。これが本当の磯の鮑(アワビ)の片思いだよ」と言って相手の膝をつねるというのだ。
勇躍、吉原に乗り込んだ与太郎は若い衆を振り切って2階に上がり、花魁の部屋に入って教わった通りに口説きに取り掛かる。
ところが最後の「磯の鮑」が出てこない。
「ああ、そうだ、ワサビ、伊豆のワサビの片思いだよ」と言って、花魁の膝を思いっきりつねる。
「おお、痛い、そんなにつねると涙が出る」
「えっ、涙が出る・・・今のワサビが効いたんだろう」でサゲ。
他愛ないストーリーだが、三三の高座は持ち前のスピード感と、脳の中の配線が狂って弾けてしまったような与太郎の造形の巧みさで、客席を爆笑させていた。
今や若手は、一と三の時代である。
喬太郎『三題噺』
学校寄席というのがあるが、近ごろではワークショップと称して、芸人が使途に教えたことを、期日になって生徒がその芸を披露するという企画があるそうだ。
ある高校に出向いた講談師が、地元に伝わるという物語を読みだす。
時は幕末、この藩でも黒船の襲来に備えて殿が家中の家来たちに水連の稽古を命じる。二人の若い武士が鍛錬に励むが、その内の一人がある娘と恋仲になっている。もう一人のその娘に横恋慕をしていて、付け文が元でこれが家中に広まる。
こうした事は時節柄好ましくないと、家老が二人に水連で決着せよと命じる。具体的は岬から飛び込み(「ダイビング」)、沖の岩まで早く泳ぎついた者が勝者となり、娘を嫁にできるという。
二人の侍は海に飛びこみ岩を目指すが、娘を恋仲だった侍は海中に沈んだまま遂に上がって来なかった。
講談を初めて聴いた高校生たちは、話しの面白さと、自分たちの郷土にこんな言い伝えがあったことに感激する。
その中の男子は、ある女子と恋仲になって付き合っていたが、もう一人の男子がその女子に思いを寄せていて、このままでは「磯の鮑の片思い」に終わってしまう。この事がメールの誤信から噂が校内中に広まってしまう。
そこで先ほど聴いた講談を思い出し、郷土の言い伝えのこれこそ「輪廻転生」だと考えた二人は、学校のプールの飛び込み台からダイビングして、決着しようという事になった。
この騒ぎを聞きつけたかの講談師、「いや、あの話は嘘だった」と止めるが、二人は耳を貸そうとしないので・・・。
終いは「家老」と「過労」の地口でサゲた。
「口内炎」には苦労したようだが、他のお題と三三のネタ「磯の鮑」はそう不自然でなく噺の中に組み込まれていた。
江戸末期の武士の話しと高校生の文化活動を、男女3人の恋模様で連結させるという強引な試みだったが、短時間で良くまとめたと思う。
喬太郎の語る講談があまり上手くなかったのはご愛嬌。
今日8月9日、長崎原爆忌。
« 「丁寧」より「正直」な説明を | トップページ | 「江戸落語・上方落語聴き比べの会~上方編」(2017/8/11) »
「寄席・落語」カテゴリの記事
- 談春の「これからの芝浜」(2023.03.26)
- 「極め付き」の落語と演者(2023.03.05)
- 落語家とバラエティー番組(2023.02.06)
- 噺家の死、そして失われる出囃子(2023.01.29)
- この演者にはこの噺(2023.01.26)
コメント
« 「丁寧」より「正直」な説明を | トップページ | 「江戸落語・上方落語聴き比べの会~上方編」(2017/8/11) »
通ぶって行かないのではなく、切符を取るのが大変そうで行かないので、こういうのは大好きです。
日本ファ―スト、正直に本質が露呈、フア―シストの会になりそうですね。
投稿: 佐平次 | 2017/08/09 09:24
佐平次様
失礼しました。こういうチョーハツテキ表現は避けなければなりませんね。
「日本ファースト」は、トランプの向こうを張って日本第一主義で行こうと言うんでしょうが、最初から底の浅さが見えています。
投稿: ほめ・く | 2017/08/09 09:36
菊之丞、三三、扇辰、扇遊、喬太郎・・・
これに白酒、一之輔が入れば、落協オールスターズかな。
当たり前のようですが、みな語りが流暢です。
喬太郎の魅力はぶらないところにあります。
三題噺なんていうもんにチャレンジするのもその一端でしょうね。
投稿: 福 | 2017/08/10 07:00
福様
記事では割愛しましたが、他の演者もそれぞれ十八番で場内を沸かせていました。
喬太郎のこうした新しい試みに挑戦し続ける姿勢は立派だと思います。
投稿: ほめ・く | 2017/08/10 09:48