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2017/08/13

ヤクザのヒーローはみな幕末の人間だった「博徒の幕末維新」

高橋敏「博徒の幕末維新」 (ちくま新書2004/2/6初版)
Photo_3
当ブログで、2015年に”「吉良の仁吉」を知ってますか?”という記事を書いたところ、予想外にアクセスを集めている。日によっては100を超え、毎月のアクセス数ではTOP10の常連になっている。
仁吉は私たちの年代(特に男性)にはお馴染みだが、今の世代の人たちには知られていない。同時に、どんな人物なのか、興味は持たれているようだ。
吉良仁吉は「清水次郎長伝」に出てくるが、実は次郎長も、その敵役である黒駒勝蔵も、国定忠治も、「天保水滸伝」の勢力富五郎も、私たちがよく知っているヤクザ(博徒)は全て幕末に活躍した人物ばかりだ。
時代背景が描かれていないが、数多い股旅ものの主人公たちも、みな幕末の人間だったに違いない。
座頭市だって、映画の第一作で飯岡助五郎一家に草鞋を脱いでいるので、やはり設定は幕末だったということになる。
では、なぜ幕末にこれだけ多くのヤクザが活躍できたのか。言い換えれば、なぜ幕末に彼らが必要とされていたかを解き明かしているのが高橋敏「博徒の幕末維新」 である。

嘉永6年(1853)6月8日深夜、伊豆七島の流刑の島新島から、七人の流人が島抜けを敢行した。そのリーダーが、清水次郎長の敵方として知られる甲州博徒の巨魁、竹居安五郎(通称は吃安(どもやす)、安五郎は吃音のくせがありこう呼ばれた)である。
この時期には、ペリー提督率いる黒船が伊豆近海にあらわれた直後であり、その警備に手を取られ新島を管轄していた韮山代官江川英龍も島抜けを見逃がしてしまった。
しかし、島抜けに一度は成功しても大半はその後捕縛され、処刑される運命にあった。この時も、安五郎を除く6人は間もなく捕まってしまう。
ところが、ひとり安五郎のみが伊豆から甲州まで逃げ帰り、子分の黒駒勝蔵と再会を果たしている。
本書は、先ずこの謎に挑んでいる。

一つには、幕末の時代には幕府の権力が弱まり、治安の一部を博徒の親分に任せるしかなかった。いわゆる「二足の草鞋」である。
もう一つは、この年にペリー艦隊に対抗し江戸の直接防衛のために、幕府は伊豆韮山代官の江川英龍に命じて、洋式の海上砲台を建設させた。工事は急ピッチで進められ、1854年にペリーが2度目の来航をするまでに砲台の一部は完成した。
この工事には膨大な人出が要る。多数の土木作業員を一気に集め、それらを管理監督させるには、やはり博徒の親分の力が必要だったのだ。
この砲台工事を請け負った親分が竹居安五郎と懇意だったため、幕府も彼を見逃すしかなかったのだ。

「武居の吃安 鬼より怖い どもっと吃れば 人を斬る」と恐れられていた安五郎は、甲州に戻って再び活動を続けるが、幕府側の謀(はかりごと)にあって殺されてしまう。
後を継いだ黒駒勝蔵は、利権をめぐって清水次郎長と暗闘を繰り返しながら、勢力を拡大してゆく。
しかし、幕末から明治維新という時代の波は、彼らにも容赦なく押し寄せてゆく。

こんな波を上手く泳いで切り抜けたのは次郎長だ。
対する勝蔵は次第に尊皇思想に傾いてゆき、幕府方から追われることになる。
次郎長が善玉、勝蔵が悪玉と私たちが刷り込まれてきたのは、この辺りの事情からだ。
やがて勝蔵は、官軍の先遣隊である赤報隊に入隊し、慶応4年(1868)には隊長にまで昇進する。
官軍は出来るだけ抵抗なく東に向かうために、赤報隊に年貢の半減を宣伝させる。効果は抜群で、どこでも官軍は歓迎されるが、元よりそんな政策を実現する気などない。都合が悪いと見るや、赤報隊をニセ官軍として、隊員たちを処刑してしまう。
勝蔵は、この件には連座しなかったが、別の不当な理由で捕らえられ、斬首される。
本書は、その背景について詳述している。
勝蔵の墓は、子分の大岩・小岩に挟まれて、故郷で静かに眠っているという。

本書は、彼らアウトローの幕末から明治維新にかけての運命を、歴史学的に位置づけた労作である。
一読する価値がある。

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コメント

これは読むことにしましょう。

佐平次様
最近読んだ中では一番面白かったので、紹介しました。古書でしか手に入らないのが難点です。

面白かったです(図書館にありました)。
リンクさせていただきました。

佐平次様
お役に立てて何よりです。

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