第460回「花形演芸会」
日時:2017年9月23日(土)13時
会場:国立演芸場
< 番組 >
前座・柳家小多け『たらちね』
三遊亭小笑『悋気の独楽』
ヤーレンズ『漫才』
昔昔亭桃之助『お絵かき教室』
古今亭文菊『棒鱈』
― 仲入り ―
ゲスト・古今亭菊之丞『酢豆腐』
江戸家小猫『ものまね』
桂吉坊『狐芝居』
この会、チケットを取り損なって諦めかけていたが、3日ほど前にチェックしたら良い席が1席空いていた、僥倖。こんな事もあるんだ。
小多け『たらちね』
最近、前座というと必ずこの人に当たる。
二ツ目が近いようだが、それだけのの力は備わってきている。
小笑『悋気の独楽』
正妻がやたら怖くて、これじゃ旦那は本宅に寄り付かないわな。
旦那が出かける口実に寄席に行くとしていたが、それじゃ妾宅に泊まる時の言い訳が立たないだろう。ここは常法の様にお得意宅へ伺うとした方が自然だ。
小僧の定吉のしたたかさは表現されており、独楽の動きを目で追う仕草はよく出来ていた。
ヤーレンズ『漫才』
初見。自ら実力はあるが人気がないと言っていたが、確かに実力はある。
雑談風な会話の中で笑いを取るという、東京漫才の王道を行っている。
近ごろ東京でも奇声をあげたり大げさな身振りをする無粋な漫才師がいて、困ったものだと思っていたが、ヤーレンズは江戸前だ。
出来れば寄席で腕を磨いて欲しい。
桃之助『お絵かき教室』
初見、いかにも噺家らしい風貌だ。先ず顔で得してる。
変てこな絵画教室に体験入学したというストーリーで、この人絵が得意なんだろう、スケッチブックに絵を描きながらの高座だった。
噺の中身も練れており、楽しませてくれた。
古典の腕のほどは分からないが、面白い存在になりそうだ。
文菊『棒鱈』
高座に上がる姿、座布団に座りお辞儀する姿勢、ここから既に文菊の世界が始まる。声の調子が高く語りを固く感じることもあるが、そこでフッと息を引き取る按配が良いのだ。何より女性に色気がある。
襖一つ隔てた隣同士、片や職人の江戸っ子、もう一方は武骨な田舎侍の対比を鮮やかに描いて好演。
なお、田舎侍が唄う「琉球節(りきゅうぶし)」は鹿児島に伝わる俗謡なので、この武士は薩摩出身だということになる。
菊之丞『酢豆腐』
近ごろ東京の高座でもやたら『ちりとてちん』が掛かるが、安易である。東京は『酢豆腐』でなくっちゃ。
夏の昼下がりの若い衆の埒もない会話や、若旦那の「こんつわ」や「すんつぁん(本当は「しんちゃん」)」が東京の世界なのだ。
いつも通りの軽妙な高座だった。
小猫『ものまね』
アタシは祖父、父とも3代の高座を見ているが、語りは別にして物真似自体の技術は、この人が最も優れていると思う。
研究熱心なのに感心する。
吉坊『狐芝居』
ストーリーは、売れない大部屋役者が侍の恰好で旅をしている。峠の茶屋で余計な時間を費やし、山中に入る頃には深夜になってしまう。木につまずいて提灯の灯りも消えて困っていると、稲荷のすぐ横に芝居小屋が見えた。興味津々で中に入ると、舞台では仮名手本忠臣蔵の4段目、判官切腹の場の真っ最中。
舞台を照らす灯りが狐火だと分かり、役者は狐芝居に迷い込んだ恐怖を感じるが、それより芝居への興味が先に立つ。
舞台は進んでいよいよ判官が腹を切るのだが、ミスなのか肝心の由良助が出て来ない。これじゃ芝居にならないと、くだんの役者、幸い侍の恰好をしているのでと、急遽花道から由良助役で登場する。
舞台は無事に進行していくが、遅刻してきた本来の由良助役が舞台に別の由良助がいるのに驚く。他の連中も異変に気付き、フンフンと鼻を嗅ぎながら別の獣の臭いがすると分かる。途端に芝居小屋がそっくり消えてしまう。
くだんの役者は、夢かと思いつつ、実際には叶えられなかった由良助を舞台で演じることが出来た喜びに浸る。
そこでポンと一つひっくり返ると、一匹の狸が草原に消えていった。
この噺の難しさは、忠臣蔵4段目をほぼ通して高座で演じることにある。通常の『蔵丁稚(四段目)』では、由良助が駆けつけ、判官が待ちかねたというセリフで終わってしまうのだが、この後が結構長いのだ。
ここを持たせるにはよほどの力量が要る。
芝居噺を得意とする吉坊の面目躍如。
小佐田定雄作で、師匠・吉朝の十八番であったネタを見事に演じきった。
アタシは今年度の花形演芸大賞は、たま、吉坊のいずれかと睨んでいるのだが、どうだろうか。
充実の会、結構でした。
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