三田落語会「一朝・吉坊」(2017/10/28)
第52回三田落語会・昼席「春風亭一朝・桂吉坊」
日時:2017年10月28日(土)13時30分
会場:仏教伝道センタービル8F
< 番組 >
前座・春風亭朝太郎『牛ほめ』
春風亭一朝『野ざらし』
桂吉坊『高津の富』
~仲入り~
桂吉坊『そってん芝居』
春風亭一朝『柳田格之進』
上方から桂吉坊の初登場。
この会も夜席には小辰がお目見えとなるなど、少しずつ若返りを図っていくようだ。
ただ、切り替えて行くときの人選が難しいだろう。会の趣旨や固定ファンの好みに合うのかどうかだ。
主催者としては、そうした反応を見ながら出演者を絞っていく心算かも。
その吉坊について、プログラムに石井徹也氏が評を書いている。
いわく、優等生だが優等生にありがちな「正確だけど型に嵌った芸」に陥ることがあるという。
確かに吉坊の高座というのは上方落語の教科書のようで、一分の隙もない完成度の高いものだ。
その一方、面白味に欠けるなと思うこともある。私見では、それは芸の艶とか丸味に由来しているのだと思う。
但し、そうしたものは人生経験や年齢によって身につくものでもあり、今からそれを望むのは少し酷な気もするのだ。
だから今は従来通り真っ直ぐに演じていって良いのだと思う。
吉坊の1席目『高津の富』
東京でも『宿屋の富』というタイトルでお馴染みで、宿の主に大ぼらを吹いたために富籤を買わされ一文無しになった男が、千両富を当てるというストーリーだ。
見せ場は高津の富の現場で2等の5百両を当てると信じ込んでいる男の妄想ぶいりと、男が予期せぬ千両を当てて驚愕する所だ。
吉坊の高座は例によって申し分のない出来だったが、妄想男の狂いっぷりがやや物足りなく感じた。もっと弾けても良かったのでは。
上方の枝雀や、東京の談志の高座がついつい頭に浮かんでしまう。
吉坊の2席目『そってん芝居』
師匠の十八番で、吉朝によれば米朝が昭和十八年頃に東京で聴いた先代の桂小南の噺を元に復活させ、吉朝に伝授したもの。
「そってん」の意味を訊いたら米朝も知らないそうで、頭を剃る「剃天」から来たのではと吉朝は推測していた。
あらすじは。
ある店の主人が、堺にいる叔父が九死に一生という状態だと知らされ、急ぎ堺に向かわねばならない。
身支度を整え、髪結いの磯七を呼ぶがこの男が芝居狂いで、髪結いそっちのけで芝居話に興じる。忠臣蔵の大序から2段目の松斬り、三段目の刃傷の場を手ぶり身振りで演じるものだから危なくて仕様がない。
ようやく急かせて結い終えるが、髷が額の上まで垂れさがるという変な恰好にされてしまう。
駕籠を呼んで堺までやってくれと頼むが、ここのとこ富田辺りに辻斬りが出るという。
番頭の忠告で、万一に備え着物を全部脱いで駕籠の畳の下に入れ、主は褌一本で駕籠に乗り込む。
堺に向かう途中、予想通り富田で辻斬りが現れて脅すが、駕籠の垂れを上げると中の客は裸。
そこで「もう済んだか」で、サゲ。
サゲの部分は、東京の『蔵前駕籠』と同じ。
この噺の大きな見所は二か所。
一つは髪結いが忠臣蔵の名場面を表現するところ。
もう一つは約2分に及ぶ無言の髪結いシーン。元結を切って髪をすき、再び結う。吉坊は日本舞踊のかつら専門店で教えを請うたそうだ。
こうした所作が入るネタは吉坊は実に上手い。
とりわけ髪結いの手つきは見事というしかない。ここだけでも観る価値がある。
吉坊の良さが生きた見事な高座だった。
長くなってしまったので、一朝については短い感想を。
今から10数年前の一朝という噺家の印象というのは噺の上手い中堅で、一般的な人気には欠けていたと記憶している。
小柄だし、あまり風采が上がるタイプでもないことから、華が感じられなかった。
その印象が一変したのは、やはり弟子の一之輔の真打披露興行で、50日間連続で弟子の高座を支えた頃からだ。
元々上手かった話芸に磨きがかかり、高座姿も華やかさを増して、今では落語協会でも五指に入ろうかという実力者になってきた。
さん喬が言うように「弟子が師匠を育てる」は本当なのかも知れない。
この日の滑稽噺、人情噺の各1席。いずれも一朝の芸の深さを見せつけてくれた。
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東の文菊、西の吉坊でしょうか。
良くも悪くも。
投稿: 佐平次 | 2017/10/30 09:59
佐平次様
二人とも伸びしろ十分なので、今後が楽しみです。
投稿: ほめ・く | 2017/10/30 17:05
私もこの会に行っておりました。吉坊の高座はブログにも書かれておられるように髪結いの仕草が見事でした。夜席にも行っていたのですが、昼席の方がよかったです。
投稿: ぱたぱた | 2017/10/30 20:31
ぱたぱた様
昼席は上方の若手対東京のベテランという組み合わせで、それぞれが聴きごたえがありました。
特に吉坊の『そってん芝居』は印象に残る高座でした。
投稿: ほめ・く | 2017/10/30 21:21
一朝ヲ考ル・・・・・
先代柳朝師の総領弟子にして小朝の兄弟子
色々と葛藤もあったでしょうな
以前は器用貧乏の嫌いがある様に思っていましたが、弟子が師匠を育てるの言葉に合点が行きました。
PS 定席以外の情報はどのように?東京かわら版とかピアとか
投稿: 蚤とり侍 | 2017/10/31 21:49
蚤とり侍様
一朝評、賛意頂き恐縮です。
落語会情報はぴあなどのプレイガイドのHPや、各種落語会のHPが主です。他には主催者からメールで案内が送られてきます。
東京かわら版は読んだことがありません。
投稿: ほめ・く | 2017/11/01 04:53
一朝は若い頃、志ん朝に兄事し、生き様と話芸を学んだそうです。
晩成型の噺家さんですね。
服も配色がきれいでお洒落です。
投稿: 福 | 2017/11/01 06:56
福様
ある若手が、もし事前に内部情報を知っていたら今の師匠ではなく、一朝に入門していたと言ってましたが、人間的にも魅力があるのでしょう。
投稿: ほめ・く | 2017/11/01 17:17