「My演芸大賞2017」
2017年中に聴いた演芸の中から特に優れたものを選び、次のように各賞を決定した。
なお、今年は二ツ目を対象とした「奨励賞」と、他に「特別賞」を設けた。
【大賞】
該当なし
【優秀賞】
柳家小満ん『茶碗割』6/12人形町らくだ亭
春風亭一之輔『唐茄子屋政談』6/16鈴本㋅中席
笑福亭三喬『らくだ』10/7東西笑いの喬演
柳家喬太郎『双蝶々(通し)』 同上
五街道雲助『夜鷹そば屋』10/20国立10月中席
【奨励賞】
春風亭正太郎『厩火事』4/19春に船
柳亭小痴楽『磯の鮑』5/4芸協仲夏祭花形
【特別賞】
立花家橘之助『浮世節』12/19国立12月中席
<選評>
「大賞」が該当なしとなったが、例年に比べ決してレベルが低かったわけではない。傑出した高座がなかったのだ。
「優秀賞」5点もみな優れていたが、もう一つ決定打に欠けていた。
日頃から古典を愛すると言いながら、「優秀賞」のうち2点が新作になった。
小満ん『茶碗割』は、尾崎紅葉の短編小説を落語化したもの。
小満んは飄々とした語りでこの噺の面白さを引き出していて、やはり小満んの様な力量がないと、演ずることが難しいだろう。
雲助『夜鷹そば屋』は、有崎勉(柳家金語楼)作の『ラーメン屋』を演者自身が舞台を江戸の移し一席にしたもの。
オリジナルに比べて遥かにストーリーが自然で、聴いていてジーンと来るものがあった。
今年最も活躍が目立った落語家といえば、一之輔だ。もはや若手という範疇を大きく超えている。
『唐茄子屋政談』の様な長講を、寄席のトリで30分ほどに短縮していたが、内容に過不足なくまとめた手腕には驚かされる。叔父さんが若く感じられたというキズはあったが、他は申し分ない。
他に『鼠穴』『富久』でも、この手腕がいかんなく発揮されていた。
喬太郎『双蝶々(通し)』だが、落語会では専ら後半だけが演じられるケースが大半だが、この噺は前半で長吉を非道さが描かれないと面白さが伝わらない。
1時間に及ぶ長講を、間然とすることなく客席を引き込んだ喬太郎の芸の高さを示した一席だった。
三喬『らくだ』は、松喬襲名を翌日に控えた三喬としての最後の高座だった。
師匠の十八番のネタに挑んだ高座だったが、先代松喬が社会の最下層に生きる人たちを地べたを這うような語りで活写していたのに対し、三喬の高座は全体にスマートに仕上がっていた。
反面、屑屋がらくだの兄貴分に酒を飲みながら身の上話しをする場面では、周囲でも涙を流す客も多く見られ、師匠とは異なる『らくだ』の世界を作り上げていた。
「奨励賞」の二人は、いま最も注目している二ツ目だ。
正太郎『厩火事』では、髪結いの女房の心理変化を表情で巧みに表現していた。このネタに関しては既に真打クラスの実力を備えていると言ってよい。
小痴楽『磯の鮑』では、珍しいネタだったが、花魁に色気があった。与太郎とのチグハグな掛け合いもテンポが良かった。
他に「粗忽長屋」では、この噺のシュールな味を引き出していた。
「特別賞」は、今年二代立花家橘之助を襲名した、橘之助『浮世節』。
小圓歌の『三味線漫談』からの転換は、相当な苦労があったと察せられる。
高座で披露した『たぬき』では、久々に音曲で感動した。
さて、今年は本稿をもって終了とします。
ホ年も沢山の方々に拙ブログにお立ち寄り頂き、感謝いたします。
来年は1月10日前後に再開する予定です。
では皆さま、良いお年を!
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