馬の足に拍手!「世界花小栗判官」(2018/1/17)
近松徳三・奈河篤助=作『姫競双葉絵草紙(ひめくらべふたばえぞうし)』より
尾上菊五郎=監修
国立劇場文芸研究会=補綴
通し狂言「世界花小栗判官(せかいのはなおぐりはんがん)」
四幕十場
発端 (京) 室町御所塀外の場
序幕<春> (相模)鎌倉扇ヶ谷横山館奥庭の場
同 奥御殿の場
江の島沖の場
二幕目<夏>(近江)堅田浦浪七内の場
同 湖水檀風の場
三幕目<秋>(美濃)青墓宿宝光院境内の場
同 万屋湯殿の場
同 奥座敷の場
大詰 <冬>(紀伊)熊野那智山の場
< 主な配役 >
尾上菊五郎:盗賊風間八郎
中村時蔵:執権細川正元/万屋後家お槙
尾上松緑:漁師浪七、実ハ美戸小次郎
尾上菊之助:小栗判官
坂東彦三郎:横山次郎
坂東亀蔵:膳所の四郎蔵
中村梅枝:万屋娘お駒/浪七女房小藤
尾上右近:照手姫
河原崎権十郎:万屋下男不寝兵衛
ほか
新春の国立劇場の歌舞伎は、音羽屋一座による「世界花小栗判官」。
「小野小町か照手姫か」と謳われた照手姫と、これも伝説上のヒーロー小栗判官との恋模様を軸に、足利幕府に弓を引く盗賊(新田義貞の末裔)やその仲間との死闘を描いた作品。
いかにも歌舞伎の狂言らしい状況設定がなされている。
・お家騒動をめぐる忠臣と逆臣の対立、これには必ずお家の宝物をどちたが手に入れるかが重要なポイントとなる。
・忠臣のヒーローは美男でしかも滅法強い。ヒーローを命がけで守る家来がいる。
・ヒーローを慕うヒロインの美女がいて、二人はすれ違いを繰り返す。
・ヒーロー又はヒロインに横恋慕する人物が現れ、二人の間を邪魔する。
・主君やヒーローへの忠義のために、大事な人を殺めるという設定がある。
・ヒーロー又はヒロインが一時は絶対絶命のピンチを迎えるが、神仏のご加護で助かる。
・最後はヒーローが逆臣を成敗し宝物を取り返してお家は安泰、ヒロインと無事結ばれる。めでたしめでたし!で幕。
この筋立ては多くの歌舞伎狂言に共通するもので、鉄板と言ってもいいだろう。
今回の芝居では、悪人の盗賊風間八郎は成敗を免れた(なんと言っても菊五郎が演じてるからね)。
小栗判官に横恋慕する娘を母親が殺害し、娘が幽霊になって出て来るという場面もあって、怪談話入りの大サービス。
全体にエンターテインメント性の高い芝居となった。
見所は二つ。
・小栗判官が馬術の名手ということで、逆臣たちが暴れ馬に小栗を乗せて殺害を図るのだが、小栗は馬を鎮めて乗りこなすという場面がある。
ここで馬がサーカスで演じる様な曲芸も見せるのだが、何せ中は前足と後足の二人の俳優だ。背中には主役を乗せての動きなので相当に難しい動きだと思うが、これを見事に演じて観客からは大喝采。
馬の足に拍手!
・かつて小栗家の家臣で今は漁師となっていた浪七が、照手姫を悪人たちの魔の手から救うために彼らと死闘を繰り返し、最後は一命を賭して姫を救う場面。
この立ち回りが見せ場で、松緑の奮闘公演の様相を呈していた。女房小藤との別れの場面もしっとりと演じて良い出来だった。
松緑はかつてはセリフ回しに難があったが、今は全くそれを感じさせない。
役者の中では、松緑以外では梅枝の演技が光る。
命がけで夫を助けるという女房の役と、小栗に横恋慕したあげく母親の手にかかって殺されてしまうという対照的な二役だったが、それぞれの心中を深く表現していた。
場面が春夏秋冬という季節の変化、場所も京から相模、近江、美濃、紀伊と移り、目を楽しませていた。
初春らしい華やかな舞台だった。
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