「ムサシ」(2018/2/15)
「ムサシ」
日時:2018年2月15日(木)13時30分
会場:Bunkamuraシアターコクーン
脚本:井上ひさし
演出:蜷川幸雄
< キャスト >
宮本武蔵:藤原竜也
佐々木小次郎:溝端淳平
筆屋乙女:鈴木杏
沢庵宗彭:六平直政
柳生宗矩:吉田鋼太郎
木屋まい:白石加代子
平心:大石継太
忠助:塚本幸男
浅川甚兵衛:飯田邦博
浅川官兵衛:堀文明
只野有膳:井面猛志
2009年の初演以来、ロンドンやニューヨークなど海外を含めて何度も再演されてきたが、今まで観る機会がないままになっていた。
今回、蜷川幸雄三回忌追悼公演として2014年の出演メンバーが全員揃ったシアターコクーンの舞台を観劇。
幸いバルコニー席の最前列の舞台寄りという良席だった。
あらすじ。
慶長十七年(1612年)陰暦四月十三日正午、豊前国小倉沖の舟島で行われたご存知、宮本武蔵と佐々木小次郎の決闘は武蔵の勝利に終わる。
佐々木巌流の名前から、後に巌流島の決闘として世に伝わる。
倒れた小次郎を見ると未だ息があり、武蔵は検視役に手当を頼み立ち去る。
決闘から6年後の元和4年(1618年)の季節は夏。場所は鎌倉は佐助ヶ谷、源氏山宝蓮寺。
講堂と厨子、それを結ぶ渡り廊下しかない小さなこの寺で、いままさに寺開きの参籠禅が執り行われようとしていた。
大徳寺の長老沢庵宗彭を導師に迎え、将軍指南役で能狂いの柳生宗矩、寺の大檀那である木屋まいと筆屋乙女、そして寺の作事を務めた武蔵も参加している。
そこへ突然、佐々木小次郎が現れた。舟島でかろうじて一命をとりとめた小次郎は、武蔵憎しの一念で、6年間武蔵の行方を追いかけて、遂にここ宝蓮寺で宿敵をとらえたのだ。
先の決闘では武蔵の策によって敗れたと信じる小次郎にとり、今度こそは「五分と五分」で決着をつけようと、武蔵に「果し合い状」を突きつける。こうして、宮本武蔵と佐々木小次郎の命をかけた再対決が「三日後の朝」と約束される。
しかし、なぜか周囲の人たちは二人の決闘をやめさせようとする。
沢庵和尚は殺生はいかんと説くし、柳生宗矩は刀が物言う時代は終わったといい、筆屋乙女は父の仇討ちを通して復讐の連鎖はやめようと言い出し、木屋まいに至っては自分とやんごとなきお方とのご落胤こそが佐々木小次郎だと主張し出す始末。
こうした中で行われる武蔵と小次郎の最後の決闘の結末は・・・。
いかにも井上ひさしの戯曲らしい笑いの多い作品だ。剣術の訓練がいつのまにかタンゴののリズムになり、全員が踊りだす、そんな場面もある。
作品のテーマは、生への賛歌だ。生きることの素晴らしさ。
もう一つのテーマは能で、舞台装置である寺そのものが能の舞台の構造となっている。
演者たちの能の謡や舞に乗せた科白や所作が随所に披露される。
柳生宗矩が創作する新作能「カチカチ山の続編」が、本作のテーマを暗示している。
もっともオリジナルの「カチカチ山」を知らない方も多いだろうから、ここでwikiの記事を下に引用する
【昔ある所に畑を耕して生活している老夫婦がいた。
老夫婦の畑には毎日、性悪なタヌキがやってきて不作を望むような囃子歌を歌う上に、せっかくまいた種や芋をほじくり返して食べてしまっていた。業を煮やした翁(おきな)はやっとのことで罠でタヌキを捕まえる。
翁は、媼(おうな)に狸汁にするように言って畑仕事に向かった。タヌキは「もう悪さはしない、家事を手伝う」と言って媼を騙し、縄を解かせて自由になるとそのまま媼を杵で撲殺し、その上で媼の肉を鍋に入れて煮込み、「婆汁」(ばばぁ汁)を作る。そしてタヌキは媼に化けると、帰ってきた翁にタヌキ汁と称して婆汁を食べさせ、それを見届けると嘲り笑って山に帰った。翁は追いかけたがタヌキに逃げられてしまった。
翁は近くの山に住む仲良しのウサギに相談する。「仇をとりたいが、自分には、かないそうもない」と。事の顛末を聞いたウサギはタヌキ成敗に出かけた。
まず、ウサギは金儲けを口実にタヌキを柴刈りに誘う。その帰り道、ウサギはタヌキの後ろを歩き、タヌキの背負った柴に火打ち石で火を付ける。火打ち道具の打ち合わさる「かちかち」という音を不思議に思ったタヌキがウサギに尋ねると、ウサギは「ここはかちかち山だから、かちかち鳥が鳴いている」と答え、結果、タヌキは背中にやけどを負うこととなった。
後日、ウサギはタヌキに良く効く薬だと称してトウガラシ入りの味噌を渡す。これを塗ったタヌキはさらなる痛みに散々苦しむこととなった。
タヌキのやけどが治ると、最後にウサギはタヌキの食い意地を利用して漁に誘い出した。ウサギは木の船と一回り大きな泥の船を用意し、思っていた通り欲張りなタヌキが「たくさん魚が乗せられる」と泥の船を選ぶと、自身は木の船に乗った。沖へ出てしばらく立つと、泥の船は溶けて沈んでゆく。タヌキはウサギに助けを求めるが、逆にウサギに艪で沈められてしまう。タヌキは溺れて死に、こうしてウサギは見事媼の仇を討った。】
落語の「強情灸」に「これじゃまるでカチカチ山の狸だ」というセリフが出てくるし、「泥船に乗る」という表現もここから来ている。
本題に戻ると、柳生宗矩は続編として殺されたタヌキの子どもがウサギを敵討ちにするというストーリーを編み出すのだ。
出演者では断然、白石加代子の演技力と存在感が光る。彼女が出て来ると、舞台全体をさらってしまう。この役は白石加代子以外にはあり得ないと思えるほどだ。
他では、六平直政と吉田鋼太郎のユーモラスな演技が、井上芝居らしさを醸し出していた。
とにかく楽しい人間賛歌に溢れた芝居、公演は25日まで。
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かちかち山、こうして読んでみると忘れていることが多いなあ。
投稿: 佐平次 | 2018/02/16 09:58
佐平次様
「カチカチ山」は代表的なおとぎ話ですが、今どきは接する機会がない人が多いだろうと紹介しました。
この芝居の最終シーンで使われるサゲが、カチカチ山を知らないと分かり難いんです。
投稿: ほめ・く | 2018/02/16 15:44