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2018/05/01

”満州天理村「生琉里(ふるさと)」の記憶: 天理教と七三一部隊 ”

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エィミー・ツジモト (著) ”満州天理村「生琉里」の記憶: 天理教と七三一部隊”
(えにし書房 2018/2/25初版 )

本書は、戦前の国家神道のもとで、政治がいかに宗教を利用していたか、それに呼応して宗教団体がいかに自らの教義をゆがめていったかを、天理教による満州移民の実態を通して記述したものだ。

日清日露戦争を経て日本は大陸に侵出してゆくが、昭和に入って満州事変から中国への侵略、傀儡国家としての満州国設立といった情勢の中で、日本政府は満州への移民政策を推進する。
こうした国策に呼応して天理教教団も移民の希望者を募り、信者を満州開拓団として送り出していった。
当時の日本の農村は困窮を極めていて、その一方で満州での開拓農業をバラ色に宣伝していたため、およそ3000人近くの信者が満州へ移民として渡っていった。
しかし、その実態は期待とは大きく外れるものだった。

開拓団の土地は元々満州人の農地であり、それを関東軍が半ば強制的にとりあげて日本からの移民に割り当てていた。
天理教信者の開拓団の村「生琉里」は周囲を壁て囲み、その外側には電流を通した鉄条網を敷き、鉄製の門には関東軍の兵士が警備するという物々しいものだった。
さらに移民たちには武器が貸与され、軍事教練も行われた。
つまり単なる移民ではなく武装移民であり、いざという時には関東軍の補完勢力となることが期待されていたのだ。

彼らは馴れない土地での農作業に励むが、さらに「生琉里」には不幸が待ち受けていた。
隣接した土地に、細菌兵器を開発するための731部隊の本部が建設されることになったのだ。
「生琉里」の中から男たちが731部隊の施設の建設に使役される。もちろん、当初はどういう施設かは知らされていなかったが、命にかけても秘密を守るよう指示され、彼らも特別の施設であることはうすうす気づく。
やがてトラックで次々と、「マルタ」と呼ばれる被験者が運ばれてくる。彼らは全員が生きてここを出ることはなかった。
すると「生琉里」の男たちの作業は、今度は死体処理になってゆく。来る日も来る日も穴を掘って中へ死体を投げ込み、その上に薪を並べて重油をそそぎ火をかけて燃やすという作業だ。
731部隊の「マルタ」というのは、中国人捕虜かと思っていたら、実際は違っていた。朝鮮人やロシア人も含まれ、なかには女学生や幼い少女、生後3ヶ月の幼児までいたのだ。細菌兵器の効果をあらゆる世代に試したかったんだろう。若い女性は性病の被検対象にされていた。
およそ3000人がこの施設で犠牲になったとある。

あまりのおぞましさに、読んでいるのが辛くなる。

ソ連が参戦してくると、今度は731部隊の痕跡を完全に無くすための作業に駆り出される。
生存していたマルタはみな青酸ガスで毒殺し、焼却する。
施設は各所の爆薬をしかけ、完全に爆破する。
この作業に従事した者だけは「生琉里」には戻さず、秘密は墓場まで持ってゆけという命令のもとに、特別の輸送ルートで日本へ帰国させた。

残された「生琉里」の人々にはさらに大きな苦難が襲う。
731部隊ではネズミを使った動物実験も行っていたので、そうした動物たちが隣接の「生琉里」の中に紛れ込んできて、細菌感染により最初は家畜、やがては開拓団の人たちからも死者が出てくる。
そして敗戦からソ連の参戦に至る過程では、ソ連人や現地人による日常的な略奪や暴行に遭う。日本政府からも関東軍からも見捨てられ、棄民にされてゆく。
そして、生きのびて日本へ引き揚げる苦難の道が、この先に待っている。

「生琉里」の生き残りの人たちの大半が口を閉ざす中で、著者のインタビューに応じてくれた風間博氏は、こう述べている。
「よその国に軍隊を持って入り、土地を取ってしまったら侵略なんや。中国の人には申し訳ないことをしたし、我々も辛かった。もう、こんな事を繰り返してはいかん。」
風間博氏はここに至った天理教教団の責任を追及しているが、教団は未だに認めていないとのこと。
天理教の「せかいは いちれつ みな きょうだい」という教義は、どこへ行ってしまったのか。

こうした不幸を二度と繰り返さすよう、こうした時代に二度と戻らぬよう、多くの方に読んで欲しいと願い、紹介した次第。

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コメント

読みたくなくても勇気を奮い起こして読まなければと思います。

佐平次様
この本は妻が先に読んだんですが、途中辛くて何度か中断したと言ってました。
もし私がこんな目に遭ったら、きっと気がふれたでしょう。

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