三田落語会「大感謝祭」(2018/6/9夜)
三田落語会「大感謝祭」夜席
日時:2018年6月9日(土)17時
会場:浜離宮朝日ホール(小ホール)
< 番組 >
柳家三三『小田原相撲(寛政力士伝)』
春風亭一朝『植木のお化け』
~仲入り~
露の新治『お文さん』
柳家さん喬『鼠穴』
今年2月で休会となった三田落語会の大感謝祭、その夜の部へ。サヨナラ公演だと思っていたら、今年10月には会場を変えて再開するとの告知があった。
この会を楽しみにしていた人にとっては嬉しい知らせだ。
開口一番は、なんとかいう前座が『松竹梅』を。
三三『小田原相撲(寛政力士伝)』
三三は地元に縁のあるネタで『小田原相撲』を演じた。他には『寛政力士伝』というタイトルでも演じられているようだ。
ストーリーからすると講談から来た様にも思えるのだが、はっきりしない。お馴染みの谷風に関する相撲ネタだ。
あらすじは。
伊豆の下田に素人相撲で大巌大五郎という強いのがいたが、ヤクザをバックにして汚い手口で相手を投げ殺すこともあった。しかも江戸の相撲取りなんぞ、俺の相手になんかならねえと豪語していた。
これを聞いた谷風、大巌を懲らしめるべく、小田原で3日間の勧進相撲興行を打つ。
初日に江戸相撲の鯱が大巌と対戦するが、行司の見てない所で大巌が鯱の目の中に指をつっこんで相手がひるむところを投げ飛ばしてしまう。
土俵下でこの一番を見ていた谷風は2日目に大巌と対戦することにして、さてどうして相手の反則技に対処しようかと悩んでいたら、そこに母子連れが谷風を訪ねてくる。
聞けば、夫が大巌に投げ殺されて、その無念を晴らして欲しいとのこと。そばから子どもが家から持ってきた生みたての卵50個を差し出し、これを飲んできっと勝っておくれと言った。
親子が帰ったあと、隣の部屋で聞いていた雷電が「物の順序として明日はわしが取りましょう」と申し出る。谷風が承知すると、雷電はペロッと50個の卵を飲んでしまって、「ああ、いい気味(黄身)だ」。
翌日、雷電と大巌が土俵に上がると満員の観衆から「雷電!」「雷電!」の声援ばかり。
行司の軍配が返ると、なぜか雷電は両手を万歳した格好で相手を呼びこむ。得たりと大巌が双差しになって一気に寄り立てると、土俵の俵に足がかかった雷電が大巌の両腕を閂に決めてぐっと持ち上げると、大巌の両腕の肘がボキボキと音を立てて折れてしまう。さらに雷電は張り手をかまし、大巌を土俵の外に投げ飛ばしてしまった。
これだけの筋だが、三三は地噺風に進めながら随所にクスグリを入れて、楽しませていた。
マクラで、「落語ファン」は、とにかく落語が好きで楽しんでいる人。「落語通」は、「笑点」の出演者が高座に上がると煙草を吸いに外へ出る人。そして「落語マニア」は、メモを片手に高座をチェックする人、と言っていた。
なかなか面白い分類法だと思った。
一朝『植木のお化け』
あらすじは。
隠居の所に八五郎が訪れる、聞けば、権助に煮え湯をかけられた恨みで植木のお化けが出るという。二人が庭先で一杯やって待っていると、深夜続々とお化けたちが登場してくる。
「あの、酒乱の二人は?」「榊(酒気)に蘭(乱)だ」
「何も言わないで消えた奴は?」「梔子(口無し)だろう」
「勧進帳の富樫と弁慶のいでたちだったのは?」「石菖蒲(関所うぶor関勝負)と弁慶草」
「南無妙法蓮華経、南無妙法蓮華経、ドンツクドンドンツク……と、ずいぶんにぎやかだが、あれは南無妙法蓮華経草かい?」「なあに、蓮華に橘さ」
いわゆる音曲噺で、小唄、都々逸、謡などの音曲の素養がないと演じられないし、囃子方も要る。洒落が分かり難いこともあって、高座にかかる機会が少ない。現役では恐らく一朝しか演じ手がいないのではなかろうか。
江戸落語の粋の世界である。是非、若手に芸を継承して貰いたい。
かつて美声で鳴らした春風亭枝雀という音曲師がいて、CDとしてこのネタの音源が残されている。
新治『お文さん』
マクラで、「膿を出し切るって、膿が言うてます」と、新治節全開。すっかり東京の落語ファンにもお馴染みになった新治、この日は先代の松喬が得意としていたネタを。
あらすじは。
先ず、「お文さん」とはの解説から、浄土真宗東本願寺派(大谷派)で、本願寺八世蓮如上人が真宗の教義を民衆向きにやさしく述べた書簡文154篇を総称したもので、門徒は経典のように暗記し唱える。このネタのサゲを理解する上で大事な予備知識となる。
赤子を抱いた一人の武家が酒屋「万両」で祝い酒を購入、丁稚の定吉に酒を持たせて相手先に向う途中でちょっと寄る所があるからと定吉に赤子を預けたままドロン。定吉が赤子を抱いて店に帰ると。大旦那が赤子の胸元に差してあった手紙を見つける。そこには故あって赤子を託したいとあった。若旦那夫婦に子がいないのを幸いに実子として育てようとする。就いては乳母が要るので、大旦那は定吉に命じて出入りの松吉の所へ乳母を頼みに行かせると、なんと松吉は既に乳母を用意しており、それも飛び切りの美人で名は「お文さん」という。タネを明かせば、若旦那が贔屓にしていた北新地の売れっ子の芸妓で、先の赤子は二人の間に出来た子どもだった。そこで松吉が一芝居打って、赤子を万両の若旦那の実子として引き取らせ、文を乳母として万両に送り込む手はずを整えたという次第。
定吉には固く口止めしてお文を店に連れ帰ると、赤子は文にすっかりなついでしまうので(元は自分の子だから当たり前)、大旦那一同は大喜び。
お文は赤子の世話からおさんどん、夕方からは店を手伝うという働きっぷり。美人で客のあしらいも良いので評判が上がり店は大繁盛。
定吉がついつい気軽にお文さんと呼んでいると、若旦那から注意されお文と呼ぶよう指示を受ける。
考えてみればこんな美人が乳母として店に奉公に来るのも不自然だし、どうやら近ごろでは若旦那がお文に着物を、それも妻のお花のものより上等な着物をお文に買い与えている様子。
そんな所に目を付けたのは女中のお松。どうやら定吉が全ての事情を知っていると睨んだお松は、お花と二人の前に定吉を呼び、好物の饅頭を食べさせ、嘘を言うと血を吐いて死ぬと脅して若旦那とお文の関係を聞き出す。
すると、どうやら若旦那がいずれお花を離縁し、お文を後添いに迎える算段をしているらしい。
怒ったお花は定吉に、いま若旦那は何をしているのか訊くと、離れで文を読んでると言う。直ちにお花が離れに行くと、若旦那はちょうど浄土真宗の「お文さん」を読んでいるところだった。ほっとしたお花はもどってきて、「若だんさんは、お文さんを読んでおられたわ。そないなところにどなりこんで行ったら、それこそ私に落ち度があると言われてしまう。定吉や、文ではなくちゃんとお文さんと言わなければ」と言うと、定吉は「いえ、私はお文さんというとしかられてしまいますんで」でサゲ。
ストーリーが入り組んでいる上に登場人物が多く、その演じ分けに苦労する大ネタだと思うが、新治の高座は丁寧な描写とテンポの良い運びで間然とする所がなく、聞き応えがあった。
いつもながら、新治の上手さには感心する。
さん喬『鼠穴』
ここまで長くなってしまったので、説明は省略。
夢だと分かった兄弟二人の明るさが、この前の陰惨な印象を吹き飛ばして、気分良く終演。
4席、結構でした。
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一朝の『植木のお化け』は、以前に佐平次さんはご覧になっていますが、私は初でした。
お目当ての新治の『お文さん』も初でしたが、熱演で期待通りの高座でした。
投稿: ほめ・く | 2018/06/10 18:32
私もこの会に行っていました。三三の小田原相撲は、以前三田落語会で正朝で聴いていましたが同じ噺でもこんなに雰囲気が違うのかと思いました。植木のお化けは、馬桜が花形演芸会のゲストに出たときにかけていました。一朝の植木のお化け、昨年の鶴川落語会で聴き、また聴けたのは嬉しかったです。お文さんの新治、マクラから爆笑で楽しかったし、さん喬の高座も大満足でした。惜しむらくは、座席がフラットなため、おの高座の高さでは、前の人の頭で演者が見えないことでした。
投稿: ぱたぱた | 2018/06/12 08:17
ぱたぱた様
中身の割に会場がセコでした。確かに後方の席だと高座が見えにくかったでしょう。朝日ホールで開催すれば良かったのにと思います。
投稿: ほめ・く | 2018/06/12 09:25
植木の、、、もう忘れていましたよ。
投稿: 佐平次 | 2018/06/14 11:20
ググっていたら、数年前の佐平次さんの記事にぶつかりました。
佐平次さんや幸兵衛さんの記事は、検索の上位に出てくる事が多いんです。
投稿: ほめ・く | 2018/06/14 11:54