「ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ」(2018/6/26)
二兎社公演42「ザ・空気 ver.2 誰も書いてはならぬ」
日時:2018年6月26日(火)14時
会場:東京芸術劇場 シアターイースト
脚本:永井愛
演出:永井愛
< キャスト >
安田成美:井原まひる(ネットテレビ局・代表)
眞島秀和:及川悠紀夫(リベラル系全国紙・官邸キャップ)
馬渕英里何:秋月友子(大手テレビ局・解説委員)
柳下大:小林司(保守系全国紙・官邸総理番)
松尾貴史:飯塚敏郎(保守系全国紙・論説委員)
本作は、2017年に初演された「ザ・空気」の姉妹編で、続編ではない。前作とのつながりは、ニュース番組のアンカーで自ら命を絶った「桜木」で、登場人物の会話の中で真のジャーナリストとしてリスペクトされている様子が窺える。
今回の舞台は、報道各社の政治部が入居する国会記者会館の屋上。これから総理記者会見が行われようとしている矢先に、記者クラブのコピー機に記者が書いたと思われる総理会見のQ&Aが残されていたのが見つかった。これは特定の記者が、総理に予め入れ知恵していたことになり、大きなスキャンダルに発展しかねない。
この文書の取り扱いをめぐって、追及しようとする及川や、穏便に済ませようとする秋月。隠避を図るQ&Aを書いた当事者である飯塚、その部下だがジャーナリストとしての良心の間に揺れる小林。さらには国会デモを屋上から撮影しようとしていたネットのジャーナリスト井原が加わり、それぞれの思惑が絡み合って物語が進行してゆく。
社名は出していないが、状況やセリフから判断して、及川は朝日、秋月は日テレ、飯塚と小林は産経といった所か。
途中までは侃々諤々の議論を戦わせていながら、最後は記者クラブという運命共同体に逆らえず、曖昧な決着に終わり、井原一人だけが悲憤慷慨して幕となる。
結論は「誰も書いてはならぬ」。
日本には大小あわせて800余りの記者クラブが存在しているそうで、重要な情報は記者クラブを通して流される。各省庁や自治体には記者室が置かれ、そこに記者が常駐している。記者クラブの加盟社は大手メディアに限られていて、それ以外のメディアは排除されている。
官邸クラブが所属する国会記者会館を例にとれば、国の建物(国民の資産)なのに、記者クラブが独占的に使用し、しかも無料。駐車場料金は年間で2000円という夢の様な待遇を受けている。
この結果、政府や官庁の一方的な情報が大手メディアを通じて国民に流されている。
この点は朝日も讀賣も産経も、所詮は同じ穴のムジナである。
今回の舞台は、この記者クラブの実態に鋭く切り込んだもので、コメディ仕立てながら現在の我が国の報道の自由について考えさせるものだった。
扱う問題が、いま正に進行形であり分かり易い。
松尾貴史による安倍総理の物真似はよく似ていて、会場を沸かせていた。
反面、前作に比べるとやや軽いという印象は否めず、薄味だったように思う。
公演は7月16日まで。
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新聞で劇評を見て、ああ、やっているなあと思いつつも、腰が重くなりました、諸般の事象も有之。
投稿: 佐平次 | 2018/06/27 09:37
佐平次様
この芝居はマスコミ最大のタブーというべ記者クラブの馴れ合いに斬り込んだ点が評価できます。
松尾貴史が安倍の物真似を「まさに」「しっかいと」していました。
投稿: ほめ・く | 2018/06/27 09:45