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2018/10/16

「誤解」(2018/10/15)

「誤解」
日時:2018年10月15日(月)13時
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT
脚本:アルベール・カミュ
翻訳:岩切正一郎
演出:稲葉賀恵
<  キャスト  >
小島聖:マルタ
原田美枝子:その母
水橋研二:ジャン
深谷美歩:その妻・マリア
小林勝也:ホテルの老使用人

(註:以下にあらすじを記すが、感想を述べる上でストーリー概要を紹介せざるを得ないので、支障のある方は読み飛ばして下さい。)
【あらすじ】
チェコの田舎の小さなホテルを営むマルタとその母親は、この土地で暮らすのに辟易とし、太陽と海に囲まれた国での生活を夢見て、その資金を手に入れるため二人でホテルにやってくる客を殺しては金品を奪っていた。
そこにジャンという泊り客が現れるが、彼は母親の息子、マルタの兄だが、幼い頃に家を出てアルジェリアにいた。風の便りに実家の父は亡くなり母娘でホテルを営んでいることを知り、彼女らを助けるためにここにやって来た。
しかし、なぜかジャンは自分の身分を二人に明かさなかった。
マルタと母は彼が肉親であることに気付かず、計画通りジャンを殺害し金品を奪ってしまう。その中でジャンのパスポートを発見して肉親であることを知るが・・・。

解説によればこの芝居は不条理劇とある。
不条理とは実存主義の用語で、「人生の非合理で無意味な状況を示す語としてカミュによって用いられた」とある。
そうか、カミュが元祖だったのか。
ジャンは母と妹マルタを助けるために会いに来たのに、最後まで自分の身を明かさなかった。もしも一言「母さん、息子のジャンだよ」言っていたら、悲劇は起きなかった。もっとも、この劇も成り立たかった。
母親はジャンをどこか近しい人間の様に感じ、殺害をやめさせようとするが、マルタが計画を押しとおす。そして息子であることが分かると悲嘆にくれ、後を追ってしまう。
マルタとしては、ジャンが自分が憧れていた地中海の浜辺に住み、最後はに母親の心まで奪っていった分けで、ジャンを嫉妬しむしろ彼は幸せだったのだと断じ、自らは絶望的な気持ちに陥る。
こうしたマルタの心情は、終盤のジャンをさがしに来た妻のマリアとの激しい言い争いの中で明らかになってゆく。
ウ~~ン、分かったような、分からないような。
もっと不思議なのは、舞台の上をフワフワと漂うホテルの老使用人の姿だ。
なんたって不条理劇ですからね。

その一方、ジャンが理想的に語っていたアルジェリアはカミュの出身地だし、マルタが忌み嫌っているチェコは、カミュが若い頃に旅していて嫌な思い出があったそうだ。
又、この戯曲の初演の時に主演のマルタを演じた女優は、カミュの思い人だった。
そう見ていくと、けっこう背景は通俗的な面もある。

この芝居をみながら、長谷川伸の戯曲「瞼の母」を思い起こした。
幼いときに別れた母を慕うヤクザな息子は、やっとめぐり合った母から自分の子ではないと追い返される。後で思い直した母親が息子をさがすが、その呼び声を聞きながら息子は瞼に浮ぶ母の姿を慕い続けて旅に出るというストーリーだ。
「誤解」は逆「瞼の母」、なんて言ったら叱られるかな。

出演者では、主役の小島聖が良かった。彼女は舞台映えする。
他の演者も好演で、特にフワフワ老人を演じた小林勝也が存在感があった。

公演は21日まで。

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コメント

原田美枝子。若い頃から独特の存在感を醸し出していました。
当時、桃井かおり、秋吉久美子など、既成の女優の概念におさまらない一群の個性が出てきて、原田もその一人でした。

福様
確かに個性的な3人ですし、デビュー当時から体当たり演技で高い評価を得ていた共通点があります。
数年前に秋吉久美子の舞台で観ましたが、年齢を感じさせないその美しさに驚いた覚えがあります。

また久々にお邪魔します。この舞台、硬質なのに面白かったですね。新人演出家の抜擢は成功だったと思います。
「逆『瞼の母』」目から鱗。「長谷川伸の文体による訳」という手もありますね。
小島聖、いい女優さんになりましたね。無茶な行為を納得させてしまう威厳がありました。鳳蘭や寺島しのぶがかつて演じた、ギリシャ悲劇のエレクトラをやって欲しいものです。

明彦様
この舞台で描かれている母と息子の関係は古典的だし、日本の芝居とも共通しているなと感じた次第です。
小島聖は数年前のある舞台では少ない出番の脇役でしたが、いい女優だなと思っていました。今回また再認識したものです。

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