60年ぶりの『セールスマンの死』(2018/11/3)
『セールスマンの死』
日時:2018年11月03日(土)17時
会場:KAAT神奈川芸術劇場ホール
【作】アーサー・ミラー
【翻訳】徐賀世子
【演出】長塚圭史
< キャスト >
風間杜夫:ウィリー・ローマン
片平なぎさ:妻リンダ・ローマン
山内圭哉:長男ビフ
菅原永二:次男ハッピー
伊達暁:ウィリーの上司
村田雄浩:ウィリーの兄ベン
大谷亮介:ウィリーの友人チャーリー
加藤啓:チャーリーの長男でビフの友人バーナード
ちすん 加治将樹 菊池明明 川添野愛 青谷優衣
初日のプレビュー公演を観劇。
【あらすじ】(ネタバレあり)
舞台は1950年代前後のアメリカの東海岸。主人公ウィリー・ローマンの死に至る最後の2日間を描いたもの。
ウィリー・ローマンは63歳になるセールスマンだったが、今では過去の幻影と自分を人並以上の人間だとする妄想の中だけに生きていた。家では献身的な妻と二人の息子との4人暮らし。長男のビフは定職につかぬ放浪者で、父に対して心に深いわだかまりを持っていた。次男のハッピーは女にしか関心のない。長い旅から帰ってきたビフはハッピーと共同で運動具店を始めようと計画し、元の雇主に金を借りに行くことになった。ウィリーは会社へ内勤を頼みに出かけたが、上司から却って解雇を申し渡されてしまう。旧友のチャーリーから自己に対する過信を戒められたウィリーは、その夜失意を押し隠して息子たちの待つレストランへ出かけた。そこで彼が聞いたのは、借金を頼みに行ったビフが、そっけない扱いをされた腹いせに、万年筆を盗んで逃げてきたという。絶望に打ちのめされたウィリーが、過去の回想に浸っていると、息子たちは外へ出てしまっていた。深夜、別々に家に帰り着いた父子は、母を間にはさんで烈しい喧嘩を起こした。しかし、この時ウィリーは長男よりもむしろ、自分の方が彼に対して深い溝を作っていたことに気付く。ウィリーは、深夜の街に車を駆った。葬式の日、ウィリーの墓に集まったのは、妻と2人の息子と、隣人のチャーリー父子だけであった。ウィリーが残した保険金で家のローンが完済した事を告げた妻は、夫の死のはかなさに泣いた。
この芝居を兄に連れられて神田共立講堂で観たのは15歳の頃だったと記憶している。だから約60年ぶりの観劇となる。
民芸の公演で、ウィリーを滝沢修、妻の役は小夜福子だった。大まかなストーリーは分かったし、感動したという記憶だけは残っている。
さすがに細かな所は憶えていなかったが、それでもいくつかの場面は思い出すことができた。それだけ印象深かったということだ。
上演時間は休憩を除いておよそ3時間だが、出来事は2日間だけだ。それをフラッシュバックという手法で、複雑な物語を観客に分からせる。
とり上げているテーマは、競争社会、親子の断絶、家庭崩壊、若者の挫折感など、いずれも普遍的な問題なので、現代の日本にも通じるものだ。
父と息子というお互い永遠に分かり合えない関係や、同じ息子でも長男と次男とでは父親の期待が異なるといった点は、身につまされる。
作者が主人公をセールスマンにしたのも、資本主義社会の最先端をゆく職業だからだと思われる。
自殺した保険金でローンを完済したウィリーの姿は、この社会の未来を暗示させているかのごとくだ。
芸達者揃いの出演者はみな好演で、緊張感のある舞台は演出家の手腕による所が大きい。
60年前の感動が再び蘇ってきた、そんな舞台だった。
本公演は18日まで。
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以前,ときどき,このブログにお邪魔していた者です。
演劇ファンではないのですが,運よく招待券が当たり,連れ合いと見てきました。演劇自体,見に行くのは四半世紀ぶりかと思います。
題名だけ知っていた芝居でしたが,不覚にも時々ハンカチを出していました。月並みですが,第二次世界大戦直後に発表された芝居が,こんなに現代に通じることに驚きました。
「そうだ,芝居ってこういうものだったなあ」と,舞台装置の使い方なども興味深く見ました。また,芝居が見に行きたくなりました。
投稿: なも | 2018/11/25 02:52
なも様
ようこそ。
『セールスマンの死』ですが、私も60年ぶりに観ても感動は変わりません。それだけテーマが普遍的であり、良く出来た戯曲だと思います。舞台装置の工夫も見事でした。
投稿: ほめ・く | 2018/11/25 09:40