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2018/12/31

「My演芸大賞 2018」の発表

「My演芸大賞 2018」

【大賞】
柳家喬太郎『仏壇叩き(「名人長二」より)』10/23鈴本演芸場

【優秀賞】
入船亭扇遊『明烏』2/24三田落語会
柳家権太楼『唐茄子屋政談』8/20鈴本演芸場
露の新治『雪の戸田川』8/21人形町らくだ亭
柳家さん喬『福禄寿』 同上
三笑亭茶楽『芝浜』11/16国立演芸場
五街道雲助『幇間腹』12/23雲助浅草ボロ市

【時別賞】
春風亭一朝『植木のお化け』6/9三田落語会大感謝祭

<講評>
大賞の喬太郎『仏壇叩き』は、鈴本演芸場10月下席で喬太郎がトリで、10日間にわたり三遊亭圓朝作品を日替わりで演じた企画ものの一つ。『名人長二』の発端部分にあたる。
他の優秀賞に比べ飛びぬけて優れているわけでないが、聴いていてゾクゾクする程の気迫の籠った高座だったことを評価した。こうした経験は滅多にできるものではないし、喬太郎の高座に限れば恐らくは10年ぶり位になるのではないだろうか。
素晴らしい出来だった。

優秀賞はいずれも定評のあるベテラン勢が顔を揃えた。

扇遊『明烏』、扇遊は元々実力者だったが、ここ最近になって高座に華やかさが増した感じがする。古典をきっちり演じながら惹き付けられる芸の確かさを実感した。

権太楼『唐茄子屋政談』、このネタは世間知らずだった若旦那が、自らの労働を通して成長してゆく物語だと思う。彼を導いたのは叔父さんで、酸いも甘いも噛分けた人物だ。権太楼が描く叔父さんは、そうした人物像がくっきりと描かれていた。

新治『雪の戸田川』、先代正蔵から教わった怪談噺『戸田の河原』を、露の五郎兵衛が上方落語に直したという珍しいネタで、所々に芝居仕立てが入る怪談噺。人間の業の深さを描いた見事な高座だった。

さん喬『福禄寿』 、長い割には暗くて儲からない噺なので、演じ手が少ない。さん喬の高座では最後の救いを持たせ、それが成功していた。
さん喬の語りが物語全体を引き締めていた。

茶楽『芝浜』、このネタを小品として演じた点に好感が持てた。小品だからこそ噺の隅々にまで神経が行き届けねばならない。最近聴いたこのネタではベストの出来だった。

雲助『幇間腹』、このネタの難しさは幇間の描き方だ。ここに出てくる幇間は例えば『鰻の幇間』の様な野ダイコではなく、見番に所属し客の依頼があれば座敷に上がって一座を取り仕切る立場になる。雲助が演じる幇間にはそうした片鱗を見せていて、若手にとって手本となるような高座だった。

特別賞として一朝『植木のお化け』を採り上げたのは、寄席の演目の一つである「音曲噺」の担い手がいなくなってきている。このままでは絶滅しかなねい。音曲の達者な一朝だからこそ演じられるネタであり、是非後継者を育成して欲しい。


1年間拙ブログを笑覧下された方々に御礼申し上げます。
また来年も宜しければお越しください。
皆さま、良いお年をお迎えください。

なお、来春は8日より再開の予定です。

2018/12/30

2018年下半期「演芸佳作選」(2018/12/30)

2018年6月~12月に聴いた高座の中で、特に優れたものを下記の通り選んだ。

五街道雲助『もう半分』雲一里(2018/7/4)
柳家権太楼『唐茄子屋政談』鈴本演芸場(2018/8/20)
露の新治『雪の戸田川』人形町らくだ亭(2018/8/21)
柳家さん喬『福禄寿』人形町らくだ亭(2018/8/21)
入船亭扇辰『江戸の夢』扇辰・喬太郎の会(2018/9/8)
桂かい枝『算段の平兵衛』西のかい枝・東の兼好(2018/9/10)
笑福亭たま『ちしゃ医者』ワザオギ落語会(2018/9/15)
春風亭一之輔『竹の水仙』鈴本演芸場(2018/9/26)
むかし家今松『質屋庫』国立名人会(2018/9/29)
柳家はん治『禁酒番屋』国立名人会(2018/9/29)
立川ぜん馬『夢金』ケチと強欲のはなしの会(2018/10/4)
桂春若『京の茶漬』ケチと強欲のはなしの会(2018/10/4)
隅田川馬石『稲荷堀(お富与三郎)』人形町らくだ亭(2018/10/5)
柳家喬太郎『仏壇叩き(名人長二)』鈴本演芸場(2018/10/23)
三遊亭萬橘『佐々木政談』圓楽一門会(2018/10/28)
柳家小平太『井戸の茶碗』国立演芸場(2018/11/5)
三笑亭茶楽『芝浜』国立演芸場(2018/11/16)
柳亭左龍『人形買い』三三・左龍の会(2018/12/10)
五街道雲助『幇間腹』雲助浅草ボロ市(2018/12/23)


【参考】2018年上半期「演芸佳作選」

古今亭志ん輔『お見立て』人形町らくだ亭(2018/2/5)
柳家小満ん『雪とん』小満ん夜会(2018/2/20)
入船亭扇遊『明烏』三田落語会(2018/2/24)
笑福亭たま『立ち切れ』花形演芸会(2018/3/3)
三遊亭兼好『一分茶番』白酒・兼好二人会(2018/3/6)
古今亭文菊『子は鎹』一之輔・文菊二人会(2018/4/12)
立川志の輔『小間物屋政談』朝日名人会(2018/4/21)
隅田川馬石『船徳』にぎわい座名作落語の夕べ(2018/5/5)
桂佐ん吉『火事場盗人』花形演芸会(2018/5/12)
三笑亭茶楽『品川心中』にぎわい座名作落語の夕べ(2018/6/2)
露の新治『お文さん』三田落語会大感謝祭(2018/6/9)
春風亭一朝『植木のお化け』三田落語会大感謝祭(2018/6/9)
隅田川馬石『井戸の茶碗』五街道雲助一門会(2018/6/12)
五街道雲助『つづら』人形町らくだ亭(2018/6/13)

上記の中から「My演芸大賞 2018」の大賞1点、優秀賞数点を選ぶことになる。

2018/12/29

「白酒X兼好」(2018/12/28)

毒を盛って毒を制す「白酒X兼好」其の三
日時:2018年12月28日(金)19時
会場:博品館劇場
<  番組  >
『オープニング・トーク』白酒、兼好
桃月庵白酒『時そば』
三遊亭兼好『蛙茶番』
~仲入り~
三遊亭兼好『紙入れ』
桃月庵白酒『富久』

今年最後の落語会は「白酒X兼好」、ワッと笑って1年を納めようという趣向。

『オープニング・トーク』では、既に落語芸術協会が公表している新真打昇進、
2019年九月下席より、柳亭小痴楽
2020年二月中席より、神田松之丞
が夫々単独で昇進披露を行うことが話題になっていた。
松之丞に関しては異例ともいうべき香盤の上位者を飛び越えての抜擢で、芸協としても興行面から人気は無視できなかったと見える。
小痴楽についても同様の狙いがあるのだろう。

白酒『時そば』
通常の演じ方だと、最初の旨いソバ屋は不景気だと言い、翌晩の不味いソバ屋は景気が良いと言うのだが、ここは不自然ではある。白酒は、前者は好景気、後者は全くお客が来ない貧乏ったらしいソバ屋という設定に変えていた。自殺でもしそうなソバ屋のソバを、我慢しながら不味そうに食べる男の姿で客席を沸かしていた。

兼好『蛙茶番』
オープニング・トークでも触れていたが、兼好にとって今年は飛躍の年となった。能や歌舞伎を研究し、高座にも積極的に採り入れてきた努力が実ったものだろう。
このネタにしても、通常はカットされることの多い序盤の「天竺徳兵衛」の「忍術ゆずり場」の所作を演じて見せた。こうした所を丁寧に演じることにより、噺の奥行くが生まれる。
半ちゃんが赤い褌を締めていると、湯屋の主が「倅は還暦?」というクスグリは秀逸。

兼好『紙入れ』
マクラで、片山さつき大臣のことを話題にしていたが、鉄面皮とはこの人にピッタリだ。きっと何重にも厚塗りしてるんだろう。
以前の兼好の弱点として、女形の色っぽさに欠ける所があったのだが、この点も最近は上達してきた。
布団に寝かした新吉に、お上さんが手燭を片手に迫る目つきが気持ち悪いくらい色っぽかった。あれじゃ新吉も金縛りだね。

白酒『富久』
8代目文楽の名演で知られるネタだが、白酒は志ん生の演じ方に近い。旦那の家の火事見舞いに行き出入りを許された久蔵が、番頭と一緒に見舞い客の帳付けをする。そのうち本家から届いた酒を旦那の許しを得て飲み始める。始めの頃は多少遠慮しがちだったが、飲むにつけ酔うにつけ次第に大胆になり、帳付けなど放り出し番頭にも絡むようになる。元はと言えば酒で旦那をしくじったのだが、やはり地が出てしまうのだ。こぅした太々しく人間臭い久蔵の姿が描かれていた。
自宅が焼けて旦那の家に居候した久蔵だが、自立したくてもがいていた。それだけに千両富が当たった時の喜びの爆発に共感が出来る。
先ずは目出度くお開き。

なお、30日に2018年下半期の佳作選を、31日に「My演芸大賞 2018」を発表します。

2018/12/28

【演劇部門】2018年、この1作

『赤道の下のマクベス』
観劇日:2018年3月13日
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT
脚本:鄭義信
演出:鄭義信
<  主なキャスト  >
池内博之:朴南星(清本南星)
浅野雅博:山形武雄
尾上寛之:李文平(清原文平)
丸山厚人:金春吉(金田春吉)
平田満:黒田直次郎
木津誠之:小西正蔵

【講評】
アジア・太平洋戦争について、私たちが知らないことが沢山ある。
例えば、戦争終結後に軍事裁判によって死刑判決を受けた人数だ。
A級戦犯    7名
BC級戦犯  934名
命令を下した者より、命令に従った者の処刑者の数の方が圧倒的に多いのだ。
さらに、BC級戦犯の死刑のうち11%は捕虜収容所の関係者で、捕虜に対する虐待や暴力が処刑の理由となっていて、捕虜収容所の監視員らがその対象とされていた。
戦犯で処刑されたのは日本人だけでなく、朝鮮人も含まれている。
この舞台は、1947年のシンガポール、チャンギ刑務所で、BC級戦犯として収容されていた日本人と元日本人だった朝鮮人の物語だ。
判決から処刑までおよそ3ヶ月という期限に日々怯えながら、過酷な環境の中で精神的にも肉体的にも追い詰められるていく。
朝鮮人死刑囚が日本人死刑囚に対して「あんたたちは、それでも名誉が残るからまだいい。俺たちは何も残らない」という言葉は重い。国に残された家族たちも、息子が日本軍の協力者だったということで迫害を受ける。彼らには全く救いがなかった。
明るく振舞っていた死刑囚の一人が、執行を前にして「生きたい、もっと生きていたい」と嘆く場面は胸を打つ。
舞台はいかにも鄭義信の作品らしく賑やかな場面もあるが、それが反面の熾烈さを印象づけていた。
出演者は全員が熱演で舞台を盛り上げていた。

2018/12/24

雲助浅草ボロ市「雲助・白酒」(2018/12/23)

「雲助浅草ボロ市」
日時:2018年12月23日(日)13時
会場:浅草見番
<  番組  >  
前座・春風亭一猿『弥次郎』
桃月庵こはく『湯屋番』
五街道雲助『幇間腹』
桃月庵白酒『馬の田楽』
~仲入り~
五街道雲助『文七元結』

一昨年までは「雲助蔵出し」というタイトルで雲助の独演会形式で行ってきた会だったが、昨年から模様換えして助演を加えた「雲助浅草ボロ市」という名称に変わった。
この日は助演に白酒を迎え、親子会の形となった。
冷たい小雨がぱらつく中、外国人観光客でごった返す仲見世をすり抜けて会場の浅草見番へ。
会場向かって右奥に折り畳み椅子が並べられ、椅子席を好む人には以前より便利になった。

落語にはしばしば若旦那というのが登場するのだが、これが例外なく遊び人だ。花街に入り浸り、果ては店の金まで使いこみ勘当となるのが相場だ。
こうした若旦那を演じるにあたり、大事なのは「遊び人風情」を醸し出すことにある。これが出せなければ若旦那モノは演じられない。

こはく『湯屋番』
若旦那モノの代表作だ。処が、こはくもそうだったが、若手が演じると単なる好色で軽薄だけの人物になってしまう。「遊び人風情」が抜けているのだ。
ストーリー展開にはキズが無いのだが、そこが欠けている。

雲助『幇間腹』
「タイコモチ上げての末のタイコモチ」という句がある通りで、幇間の多くは遊び人のなれの果てだったようだ。
『幇間腹』というネタでは、3代目柳好が当時の評論家たちから絶賛されていたようだが、その理由は柳好の演じる幇間にリアリティがあったからだ。それもその筈で柳好は若い頃に幇間をやっていた。その後は向島で芸者置屋の主人だった。
だから柳好演じる若団那も幇間も「遊び人風情」が出ているし、加えてその果ての身を落とした幇間の哀しみも演じることが出来る。
さて雲助の『幇間腹』だが、さすがで、若団那も幇間にもその遊び人風情が出ていた。針を打たせようと迫る若旦那に対して、何とか座を持たせながら苦境を脱しようと腐心する幇間の鬩ぎあいが巧みに描かれていた。
若手の手本となるような雲助の高座だった。

白酒『馬の田楽』
マクラで「博多・天神落語まつり」の打ち上げでの落語家の生態をいじってからネタに。
白酒の特長の一つは「顔芸」にあると思う。得意としている『浮世床』では表情だけで客席を爆笑させている。だから白酒は観る落語である。
このネタではセリフで馬の表情変化が頭に浮かんでくる。悪ガキは顔を見るだけでいかにも悪さをしそうな雰囲気を表出させていた。
相変わらずのセリフのリズムと物語のテンポの良さで楽しませてくれた。

雲助『文七元結』
暮れの定番ネタで、以前にも雲助のこの高座は何度か観ている。
雲助の『文七元結』で特に優れているのは佐野槌の女将の描き方だ。凛とした姿勢、長兵衛や娘お久に対する優しさと同時に、この世界で生きてきた人間の厳しさが表現されている。
貸した50両を持って帰ろうとする長兵衛に向かって、娘に礼を言わせるが、ここが肝心なのだ。敢えて長兵衛のプライドを傷つけ恥をかかせることにより、長兵衛が本気で博打をやめるよう念押ししている。
それだけに身投げしようとする文七に50両を渡すには大きな迷いがあった。「誰かこねえかな?」という長兵衛の一言にその心情が示されている。
1年の締めくくりに相応しい雲助の高座だった。

2018/12/20

恵比寿まめかな寄席(2018/12/19)

「恵比寿まめかな寄席」12月公演 昼の部
日時:2018年12月19日(水)14時
会場:恵比寿エコー劇場
<  番組  >
春風亭昇々『転失気』
三遊亭萬橘『ん廻し』
ロケット団『漫才』
三遊亭歌之介『爆笑龍馬伝』
~仲入り~
堺すすむ『ギター漫談』
江戸家まねき猫『動物ものまね』
桂文珍『持参金』

今年も残り僅かとなった。落語会もこの会を入れて3回を残すのみ。
以下に寸評。

昇々『転失気』
前座噺というのは意外に実力が測れる。下手だ。

萬橘『ん廻し』
集中を欠いていた客席を一気に温める。この日は眼鏡をかけままネタに入ったが、独自のクスグリを入れて楽しませてくれた。

ロケット団『漫才』
時事ネタも入れて客席を沸かせていたが、ツッコミ役の倉本剛の健康状態が気になった。大事にして欲しい。

歌之介『爆笑龍馬伝』
来春4代目圓歌を襲名するが、この芸風のまま行くのだろう。
3代目も2代目を全く継承してなかったし、先代とは同じ爆笑派という共通項もあるしね。

堺すすむ『ギター漫談』
「なぁーんでか」は健在。

まねき猫『動物ものまね』
変わり映えしない芸だ。

文珍『持参金』
マクラで、同じ歳のジュリーをあちらの方が爺さんといじってネタに入る。
通常は「金は天下の回りもの」でサゲるのだが、持参金の20円と「ご縁(5円)」でサゲた。押し付けられた嫁さんが、なかなか気が利く良い嫁に描かれているのが特長で、目出度し目出度しで終えていた。

2018/12/18

パリ管弦楽団「田園」ほか(2018/12/17)

ダニエル・ハーディング指揮
パリ管弦楽団
ヴァイオリン:イザベル・ファウスト
日時:2018年12月17日(月) 19時
会場:サントリーホール 大ホール
<   曲目   >
ベルリオーズ:オペラ『トロイアの人々』より「王の狩りと嵐」
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.61
ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 Op.68 「田園」

かつては名曲喫茶というのがあった。クラシックのレコードを聴きながらコーヒーなどを飲むという喫茶店で、店名はたいがい「田園」だった。この曲が、数あるクラシックの中でも最も愛されてきた証拠だろう。
CDでは何度も聴いているがライブでは初めてで、
「田園」は交響曲としては珍しい5楽章からなり、第1、第2、第3-5楽章は続いて演奏される。
各楽章について、次のような標題が付されている。
1.「田舎に到着したときの愉快な感情の目覚め」
2.「小川のほとりの情景」
3.「田舎の人々の楽しい集い」
4.「雷雨、嵐」
5.「牧歌 嵐の後の喜ばしい感謝の気持ち」
楽器編成は次の通り。
・ピッコロ 1、フルート 2、オーボエ 2、クラリネット 2、ファゴット 2
・ホルン 2、トランペット 2、トロンボーン 2
・ティンパニ
・弦5部

やはり第1楽章が素晴らしい。主題の動機が転調しながら繰り返される独特のメロディーに陶然とさせられる。
第2楽章では、弦楽器による小川のせせらぎや、小鳥のさえずりが表現される。
第3楽章では一転して管楽器が活躍し、第4楽章ではティンパニの連打や管弦楽器の激しい演奏により風雨や稲妻の閃光を暗示され、第5楽章では牧歌的な風景が描かれ静かに閉じる。
感動した。
指揮者のダニエル・ハーディングは、札幌公演のおりに雪で転倒して怪我をしたようで、車椅子で登場し座ったままの指揮だったが、舞うようなスタイルの指揮ぶりが印象的だった。

もちろん、ヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリン:イザベル・ファウスト)も素晴らしかった。
優雅な響きに酔ってしまった。
やはり音楽もライヴでなくっちゃ。

2018/12/15

「通し狂言 増補双級巴―石川五右衛門―」(2018/12/14)

「通し狂言 増補双級巴(ぞうほふたつどもえ)」 四幕九場
三世瀬川如皐=作
国立劇場文芸研究会=補綴

発端 芥川の場
序幕 壬生村次左衛門内の場
二幕目 第一場 大手並木松原の場
第二場 松並木行列の場
三幕目 第一場 志賀都足利別館奥御殿の場
第二場 同 奥庭の場
第三場 木屋町二階の場
大 詰 第一場 五右衛門隠家の場
第二場 藤の森明神捕物の場

<    主な配役    >
石川五右衛門:中村吉右衛門(播磨屋)
壬生村の次左衛門:中村歌六(播磨屋)
三好修理太夫長慶:中村又五郎(播磨屋)
此下藤吉郎久吉後ニ真柴筑前守久吉:尾上菊之助(音羽屋)
大名粂川但馬:中村松江(加賀屋)
大名田島主水/早野弥藤次:中村歌昇(播磨屋)
足柄金蔵/大名白須賀民部:中村種之助(播磨屋)
次左衛門娘小冬:中村米吉(播磨屋)
大名天野刑部/小鮒の源五郎:中村吉之丞(播磨屋)
大名星合兵部/三二五郎兵衛:嵐橘三郎(伊丹屋)
呉羽中納言氏定/大名六角右京:大谷桂三(十字屋)
足利義輝:中村錦之助(萬屋)
傾城芙蓉/五右衛門女房おたき:中村雀右衛門(京屋)
義輝御台綾の台:中村東蔵(加賀屋)

国立劇場12月歌舞伎公演は「通し狂言 増補双級巴」、芝居や映画、ドラマ、落語でもお馴染みの石川五右衛門の物語だ。
石川五右衛門は実在の人物だったようで、安土桃山時代の盗賊の首長。文禄3年(1594年)に捕えられて京都三条河原で煎り殺され、親族も全員が極刑に処されている。
但し、処刑の事実だけははっきりしているが、彼の所業や人物像は全く分かっていない。それだけに後世の作者は自由に描けるわけで、沢山の作品が生まれている。
本作も古典の狂言である「釜淵双級巴」と「木下蔭狭間合戦」をつなぎ合わせて創作を加えた書き換え狂言だ。
いずれの場も数十年ぶりの上演となるようだ。

配役に屋号を加えたが、吉右衛門を中心とした播磨屋の芝居だ。
序幕での五右衛門の出生の秘密が明かされる場面から始まり、大詰では五右衛門の家族をめぐる苦悩が描かれていて、全体に世話物の色を濃くしている。
「木屋町二階の場」は有名な「楼門五三桐」の中の「山門」のパロディになっていて、ここでも五右衛門と久吉(秀吉)とのヤリトリも世話物風にしている。
宙乗りでの「葛籠抜け」という珍しいアクロバティックな演出や、大詰での派手な立ち回りなど娯楽色の舞台は理屈抜きに楽しめる。
中村吉右衛門奮闘公演の名に相応しい舞台だ。

五右衛門の息子・五郎市(安藤然/醍醐陽のWキャスト)という子役が活躍するのだが、これが健気で可愛らしい。
五右衛門の妹役を演じた中村米吉、数年前から注目している若手の女形役者だが、可憐な娘役を演らせたら当代一ではなかろうか。姿が美しいし声が良く、上品な色気がある。次代を背負う女形になると期待している。

公演は26日まで。

2018/12/13

国立演芸場12月中席(2018/12/12)

前座・三遊亭ぐんま『初天神』
<  番組  >
入船亭小辰『金明竹』
入船亭扇蔵『子ほめ』
東京ガールズ『音曲バラエティ』
柳家さん八『小言念仏』
古今亭志ん橋『出来心』
─仲入り─
ニックス『漫才』
入船亭扇辰『紋三郎稲荷』
翁家社中『曲芸』
入船亭扇遊『棒鱈』

国立12月中席は落語協会の芝居、代演の少ない2日目に出向く。平日の昼にしてはマアマアの入り。

ぐんま『初天神』
白鳥の弟子にしてはまともな古典だった。

小辰『金明竹』
店の主人が与太郎に留守番を言いつける繰り返しがややしつっこかったかな。店に戻ってきた主人に言付けを説明する女房が、説明に窮すると店の奥に引っ込もうとする動きは独自の演じ方か。

扇蔵『子ほめ』
年齢を「数え」で表す習慣がなくなったので、このネタのサゲが分かりづらくなった。考えてみれば月日も年号も「1」から始まるのだから、年齢も「1」から始まるというのが合理的かも知れない。「ゼロ歳児」っていうのは変だもの。

東京ガールズ『音曲バラエティ』
三味線演芸の女性ユニットは貴重な存在。艶やかで結構でした。『勧進帳』も良かった。

さん八『小言念仏』
久々だ。入れ歯が合わなくて、と言っていたが喋りは流暢だった。このネタ、念仏と小言のリズムが大事だが、そこはベテランらしく演じていた。

志ん橋『出来心』
堅実な高座だが、このネタではもっと軽みが欲しいところ。

ニックス『漫才』
クオーター(そう見えないが)の姉妹で、ニックスという芸名はアメリカ人の祖父の名前だそうだ。二度目だが、前よりボケとツッコミの役割が明確になっていて今回は面白いと思った。

扇辰『紋三郎稲荷』
この人の鉄板ネタ。

扇遊『棒鱈』
数年前までは実力派の中堅というイメージだったが、今では「上手」の一角を占めている。元々から芸の確かさでは折り紙つきだったが、そこに華やかさが加わり芸に艶がでてきた。
この日も登場人物が活き活きと描かれていて好演。

2018/12/11

三笑亭笑三の死去

三笑亭笑三が、10月24日に肺炎のため死去した。93歳だった。
新作、古典の双方を演じる落語芸術協会の大看板だった。
以前、当ブログで「寄席で聴きたい噺家」BEST20を選んだが笑三はその内の一人で、洒脱で色気があり寄席に似合う人だった。
最後に観た高座は、2012年11月24日の国立名人会のトリで演じた『火事息子』だったが、その気力溢れる高座に感心したのを憶えている。
ご冥福を祈る。

「三三・左龍の会」(2018/12/10)

第89回「三三・左龍の会」
日時:2018年12月10日(月)19時
会場:内幸町ホール
<  番組  >
『オープニングトーク』三三、左龍
前座・春風亭与いち『手紙無筆』
柳家三三『粗忽の釘』
柳亭左龍『人形買い』
~仲入り~
柳亭左龍『釜泥』
柳家三三『夏の医者』

今季一番の冷え込みの日、前回は交通事情で流れたこの会だが、この日も一杯の入り。
オープニングトークで、いま入門したのは良いが人数が多すぎて前座になれず見習のまま待機している人が20名ほどいるそうだ。噺家ってそんなに魅力のある仕事だろうか。世の中、人手不足だというのに、困ったものだ。

三三『粗忽の釘』
三三の特長というのは、本筋から少し外した所で笑いを取る点だろう。
釘を壁に打ち込んで隣家に詫びに行った男が、煙草を吸いながらいきなり女房との馴れ初めを語りだし、初めは優しかった女房が次第に強くなり・・・、と言いながら泣き出す。それでもと言いながら姿勢を正して、「今は幸せです」。ここで客席からワッと笑いが起こる。
男の似顔絵が書かれた回覧板が町内を回っていたとか、
「金はどこへしまった?」
「箪笥の中よ」
「箪笥にゴーン」
と言ったクスグリが受けていた。

左龍『人形買い』
この噺は短い中にいくつもの場面転換がある難しいネタだ。
①月番の男が買い物上手の兄いに同行してもらって買い物に出かける。ここで長屋から集めた5円を1円浮かして二人で一杯飲もうと約束する。
②人形屋で店の若旦那とのヤリトリで人形の値段を10円から4円に値切る。
③太閤秀吉と神功皇后の二つの人形jの荷を担いで付いて来た店の小僧が、この人形がタダ同然の品だったことをばらす。
④さらに小僧が先ほどの店の若旦那と女中との怪しい間柄を喋る。
⑤長屋の易者に意見を求めると、早速易を立て神功皇后を選ぶのだが、見料50銭を取られる。
⑥続いて長屋の講釈師に意見を求めると、太閤記を語りだし「豊臣家は二代で滅んだから、縁起がよろしくない。神宮皇后がよろしかろう」と言って、木戸銭を50銭取られてしまう。ここで二人の残金はゼロになる。
⑦最後にお祝いの神功皇后の人形を神道者に届けると、「そも神宮皇后さまと申したてまつるは、人皇十四代仲哀天皇の御后にて……」と講釈を並べ立てる。二人は慌てて、「講釈料は長屋へのお返しからさっ引いてください」でサゲ。
こうした筋立てを整然と語るのはかなりの力量が要るのだが、左龍の高座は過不足なく随所の笑いを散りばめながら客席を引き込んでいた。

左龍『釜泥』
盗まれるのを防ぐため釜の中に入った豆腐屋の亭主に、女房は釜の蓋を閉め切ったり、下から火を焚こうとしたりと亭主を脅かす。そのヤリトリが何とも可笑しい。左龍の軽妙な喋りが活きていた。

三三『夏の医者』
具合の悪い父親を早く診て貰いたいと急ぐ息子と、万事ノンビリとした医者との対比を描いた高座。
なかでも下剤を掛けられグッタリした蟒蛇の表情が良かった。

この会は、恐らくは三三のファンが多いと思われるが、芸の中身としては左龍が一歩リードしている様に見えた。

2018/12/09

「スカイライト」(2018/12/8)

「スカイライト」
日時:2018年12月8日(土)13時
会場:新国立劇場 小劇場 THE PIT
脚本:デイヴィッド・ヘア
翻訳:浦辺千鶴
演出:小川絵梨子
<  キャスト  >
蒼井優:キラ・ホリス
葉山奨之:エドワード・サージェント
浅野雅博:トム・サージェント

あらすじ。
トムは外食企業の経営者で、キラはかつてトムの会社の従業員。トム夫妻もトムの息子エドワードもキラを信頼していたが、キラとトム二人は長いあいだ不倫関係にあった。しかし、不倫がトムの妻に知られてしまい、キラは行方をくらます。キラに去られ、妻をガンで失ったトムは打ちひしがれ、エドワードとの関係も悪化してゆく。
今ではキラはロンドン中心部から離れた質素なアパートに住み、貧民街の子どもたちに勉強を教える教師となっていた。
そこへエドワードが突然キラのアパートを訪ねてきて、不安定なままの父親トムを助けてほしいと言い残し、彼は去る。
その夜、トムもまたキラの元を訪れる。三年前に不倫関係が明るみになった日以来、初めて再会した二人は、夜更けまでこれまでのことを語り合う。お互いへのいまだ消えぬ想いと、解けない不信感、共有する罪の意識の間で大きく揺れ動く二人。
よりを戻し二人で新たな生活を始めようと迫るトムに対し、貧しい子供たちへの教育に生きがいを見出したキラ。二人の会話は、やがてそれぞれの価値観の違いが鮮明になり・・・・・。

この物語の背景に、イギリスの階級社会の存在がある。
解説によればイギリスの階級は、上流、中の上、中の中、中の下、労働者層、貧困層に分かれているようで、お互いに生活環境が全く異なり、階級が違う同士はプライベートの付き合いが無いそうだ。
キラもトムも恐らくは中の中クラスに属すると思われるが、トムは自社の事業拡大が人生の目標であるのに対し、キラは貧困層の子供たちの成長を助けることが使命を燃やしている。これが二人を決定的に隔てている。
別離に至った経緯についても、二人の言い分は大きく食い違っている。
舞台はキラのアパートの部屋、登場人物は3人だけで、これといった出来事があるわけでもないのだが、お互いの火の出る様な会話のぶつかり合いは迫力がある。
タイトルの「スカイライト」とは「天窓」で、観客席の谷間で演じる俳優たちの演技を、観客はまるで天窓から覗くような気分で観られる仕掛けになっている。
出演者3人の熱演も見もの。

公演は24日まで。

2018/12/05

テアトル・エコー「おかしな二人」(2018/12/4)

テアトル・エコー公演156 
ニール・サイモン追悼公演「おかしな二人」
日時:2018年12月4日(火)14時
会場:恵比寿エコー劇場
作:ニール・サイモン
訳・演出:酒井洋子
<  CAST  >
安原義人:オスカー
根本泰彦:フィリップス
落合弘治:スピード
上間幸徳:マレー
後藤敦:ロイ
松原政義:ヴィニー
RICO:グウェンドリン
薬師寺種子:セシリー

過去12回ニール・サイモン作品を上演してきたテアトル・エコーが、今年8月26日に亡くなったニール・サイモン追悼公演として今回「おかしな二人」を上演。

あらすじ。
スポーツ記者のオスカーは離婚して気ままな新生活を満喫中。ズボラで部屋は散らかり放題だが全く気にならず今夜も友人たちとのポーカーで盛り上がる。そこに仲間の一人、フィリックスが妻に別れを告げられ憔悴して転がりこんできた。だらしがなくて妻に去られたオスカーと几帳面すぎて妻に離婚を言い渡されたフィリックス。性格は反対でも同じ境遇のもの同士、オスカーはフィリックスを誘い一緒に暮らし始めたのだが、二人の新生活は波乱が絶えない。
ある日、オスカーが上階に住む後家と離婚したばかりの姉妹(ポッポちゃん)に目を付け、一夜を過ごそうと企てるが、フィリックスのためにオジャンになる。いよいよ我慢が出来なくなったオスカーはフィリックスを家から追い出すのだが・・・。

ジーン・サックス監督、ジャック・レモン, ウォルター・マッソー出演の映画は何度か観たが、舞台は初めてだった。
とにかく面白く、2時間半の上演中は笑い通しだった。ニール・サイモン作品の最高傑作というだけでなく、すべてのコメディの中でも最高の作品だと思う。
オスカーやブリッジ仲間は潔癖症のフィリックスを疎ましく思うのだが、いざ彼がいなくなると皆が真剣に心配する。この戯曲は男同士の友情の物語だ。
フィリックスがポッポちゃんたちに別れた妻や子供たちの思い出を語ると、ポッポちゃんたちも貰い泣きしてしまう。彼女たちも死別あるいは離別した亭主たちを思い出したのだ。
オスカーにしても、乱暴な口とは裏腹に別れた家族のことが忘れられない。
そうした人間の持つ温かさがこの芝居全体に通底しているから、観客は腹の底から笑えるのだ。

出演者も主役の安原義人を始め、この公演に対する意気込みを感じた。個々の演技はもちろんのこと、全員のチームワークでニール・サイモンの世界を創り出していた。

公演は12日まで。

2018/12/02

国立12月上席(2018/12/1)

国立演芸場12月上席・初日

前座・柳家ふくびき『子ほめ』
<  番組  >
柳亭信楽『弥次郎』
東生亭世楽『尿瓶』
三笑亭可龍『古手買い』
一矢『相撲漫談』
一龍際貞水『赤穂義士銘々伝~槍の前原』
~仲入り~
あさひのぼる 『ギター漫談』
柳亭楽輔『替り目』
宮田章司『江戸売り声』
三笑亭夢太朗『阿武松』

今年もアッと言う間に師走を迎えてしまった。歳を重ねるごとに時間が短く感じる。時間軸が対数目盛になっているようだ。「老人老い易く 学成り難し」である。
国立演芸場12月上席は芸協の芝居、その初日に。土曜日だというのにガラガラだった。しかし高座は熱気があり、充実した内容だった。

信楽『弥次郎』
初見。
二つ目に昇進したばかりなので実力は前座と謙遜していたが、リズムが良く面白く聴かせていた。

世楽『尿瓶』
初見。
当代は3代目で200年ぶりの名跡復活とされているが、初代三遊亭圓生が一時期名乗っていたらしいという程度で、過去の詳しい事は分からないようだ。
ネタでは尿瓶に花を活ける場面を丁寧に演じていて好演だった。これによって、騙されたと知った侍の怒りが伝わってくるのだ。

可龍『古手買い』
最近あまり寄席で聴かれない噺で、聴きどころは与太郎をバカにした古着屋の番頭に、兄いが胸のすくような啖呵を切るのと、それを真似した与太郎の間の抜けた啖呵の対比。ここは『大工調べ』に似ている。
可龍の流暢な語りが活きていた。

一矢『相撲漫談』
前にも感じたのだが、相撲漫談を標榜するなら大相撲についての造詣が深くなければなるまい。漫談の内容がスポーツ紙や週刊誌のネタの域を出ないのだ。

貞水『赤穂義士銘々伝~槍の前原』
久々で、板付きの高座だった。師走に入ったのでこれからは赤穂義士伝の真っ盛りだ。
槍一筋で赤穂藩の仕官がかない、やがて吉良邸討ち入りに参加した義士の一人である前原伊助の出世談。
グッと引き込まれるのは、やはり芸の確かさ。やはり講談はこうでなくっちゃ。

あさひのぼる 『ギター漫談』
初だったが、観客に「そうだろう!みんな!」と投げかけ、観客が「そうだ、そうだ」と返す、なかなか勢いのある芸で楽しめた。

楽輔『替り目』
貴乃花が離婚した。相撲部屋を解散したので、もう「稽古(景子)は要らない」。そんなマクラから酒飲みのネタ。楽輔が描くこの亭主が実に可愛い。

宮田章司『江戸売り声』
客席のリクエストの応えて、「唐辛子」「大阪のおでん」売りなどの珍しい売り声を披露していた。ますます元気だ。

夢太朗『阿武松』
江戸時代は現役の関取が親方を兼ねていたんだね。強い力士になると阿武松の様に藩のお抱えになることもあった。
このネタに登場する武隈も錣山も阿武松も現役の親方の名前だが、武隈の当時の四股名は竹熊だったようだ。
夢太朗は随所にクスグリを入れながら楽しそうに演じていた。

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