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2019/01/25

『文七元結』での金銭貸借関係

落語の『文七元結』は人情噺で、最後は皆がハッピーとなる作品ですが、この噺を金銭の貸借という側面だけから見ると、どうなるでしょうか。

最初に吉原の大見世「佐野槌」の女将が長兵衛に50両を渡します。その際に期限を設けて返済すべき事と、もし返済できない時は娘のお久を店に出す、つまりは花魁として働かせると言明していますので、これは「担保貸付」になります。
もちろん女将は長兵衛の改悛を促し、真面目に働く様にという意図があったのですが、貸付にあたってお久という担保を取っているので、返済の有無に拘わらず損失は発生しない仕組みになっています。

次に吾妻橋の上で身投げしようとした文七を長兵衛が諭し、持っていた50両を文七に渡し自殺を思いとどまらせますが、これは長兵衛から文七への「贈与」になります。

文七から事の経緯を聞いた鼈甲問屋「近江屋」の主人は、「佐野槌」の女将に50両を渡し、担保だったお久を返して貰います。つまり債務者の長兵衛に代わって「第三者返済」を行ったわけです。
次いで「近江屋」の主人は文七を伴って長兵衛宅を訪れ、50両を渡そうとします。長兵衛としてみれば、前日の50両は文七に贈与したのだから受け取れないと拒否します。
これに対して「近江屋」の主人は、50両は文七への貸付だったので返済は当然だと説得し、文七に代わって長兵衛に50両を返し長兵衛もこれを受領します。これも「第三者返済」です。
その後、担保が解除されたお久は自宅に戻ります。

以上の様にこの噺の結末により、長兵衛-「佐野槌」の女将-文七の間の金銭の貸借は全て解消されます。
唯一、「近江屋」の主人が「佐野槌」の女将に対して、長兵衛の債務を「第三者返済」した50両だけが一方的な支出と言えます。
しかし、
・長兵衛の善意により奉公人の文七を失わずに済んだ。
・もし文七が自殺してしまったら、50両のために奉公人を死なせてしまったという噂が立ち、店の看板に傷が付いた。
という点を考慮すれば、50両の出費は決して高くなかったでしょう。鼈甲という贅沢品を扱う「近江屋」にとっては、店の信用が何より大切ですから。

結局、『文七元結』では金銭的にも全ての人がハッピーに終わりました。
ただ、娘が戻り手元には50両が残った長兵衛に再び油断が生じて、博打の虫が起きないかと、それだけが気がかりです。

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寄席・落語」カテゴリの記事

コメント

言われてみれば φ(.. )メモメモ
小西の切手は、すんなりと受け取りましたが、五十両は最後まで固辞していましたね。屏風越しのおかみさんとのやりとりも(笑)
吾妻橋の場面が一番難しいですかね。(ーー;)
個人的には佐野槌の女将さんのセリフ、大晦日を一日でも過ぎれば、私は鬼になりますよ・・・・
が好きです。

投稿: 蚤とり侍 | 2019/01/25 19:26

蚤とり侍様
今回改めてこのネタを見なおして、金融面からしてもこの噺は良く出来てるなと思った次第です。心温まるストーリーの中に、商売人の強かも感じるのです。

投稿: ほめ・く | 2019/01/25 21:56

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