今月の文楽公演は落語でお馴染みの「お半長」(2019/2/14)
上方落語の『胴乱の幸助』を聴かれた方も多いでしょう。
胴乱の幸助と呼ばれる喧嘩の仲裁だけが唯一の趣味という男。今日もどこかで喧嘩がないかと探していると、義太夫の稽古屋の前を通りかかる。中では『桂川連理柵(通称がお半長)』の帯屋の段の稽古の真っ最中で、長右衛門の継母・おとせが、長右衛門の妻・お絹をいびる場面だ。これを親子喧嘩と勘違いした幸助は周囲の人に事情を訊くと、これは有名な浄瑠璃で・・・と筋書きを教える。浄瑠璃なんて見たこともない幸助は筋書きが事実と勝手に思い込み、京都から三十石の夜船に乗って帯屋の舞台となっている柳馬場押小路虎石町の西側にある帯屋宅を訪れる。たまたまその場所に帯屋の店があったので、店の番頭に幸助は、聞いてきた筋書きの通りに事の次第を問い質す。ようやく事情が呑み込めた番頭が、
「それ、もしかしたら、ハハハ……『お半長』と違いますか?」
「何がおかしいねん」
「笑わずにおれますかいな。お半長は、とうの昔に桂川で心中しましたわいな」
「えっ、死んでもた、てか! しもた……ゆうべのうちに来たらよかった」
でサゲ。
この当時は子どもでも知っていたという『お半長』、恥ずかしながら私も幸助と同様、知らなかった。
今月の国立の文楽公演でこの『お半長』が掛かるというので、これを見なけりゃ先祖の助六に顔向けできないと、早速出向いた次第。
『桂川連理柵(かつらがわれんりのしがらみ)』
石部宿屋の段
六角堂の段
帯屋の段
道行朧の桂川
日時:2019年2月14日(木)11時
会場:国立劇場 小劇場
実際にあった心中事件を題材にした浄瑠璃で、『朧の桂川』など先行のお半長右衛門情話を、菅専助が脚色したもの。安永5 (1776) 年に初演以来、浄瑠璃や歌舞伎で度々再演されてきた。
帯屋の主人・長右衛門は、隣家の信濃屋の娘お半と伊勢参りの旅宿で泊り合せたのを縁に契りを結ぶ。長右衛門の貞淑な女房お絹が2人の身を案じるものの,親子ほどに年の違う2人の仲に長右衛門の苦悩は深まるばかり。長右衛門の継母・おとせは息子の儀兵衛に店を継がせるべく、難癖をつけては長右衛門やお絹を責めたてる。ついには,長右衛門がさる武家屋敷から預っていた刀をお半に横恋慕していた丁稚にでっちにすりかえられたことや、お半の懐妊で進退きわまり,お絹に心を残しつつ,お半と桂川で心中する。
長右衛門38歳、お半14歳、おそらく数ある心中ものでも最大の年の差だろう。一夜の過ちとは言え、親子ほどの年下の生娘であり、女房のお絹の弟の許嫁でもあるお半と関係を持ち妊娠させてしまう。過去には芸子と心中のし損ないをしていて、お半が妊娠したと知ると女房の弟と縁組させようと図る。女房の真心に打たれて全てを告白するが、肝心のお半の妊娠や、大事な刀がすり換えられていたことは打ち明けられない。
全ては、長右衛門の優柔不断さが生んだ悲劇と言えよう。
そう冷静に分析してしまうと感情移入が出来ないので、ひとまずは物語の世界に浸かって観るしかない。
やはり圧巻は「帯屋の段」で、松竹新喜劇ばりの笑いあり、口説きありで、たっぷりと楽しませる。前半を呂勢太夫、後半を咲太夫がじっくり語る。人形では勘弥のお絹が凛とした品格を見せ、清十郎のお半が一途な心を表現させていた。
落語ファンにも必見の浄瑠璃だ。
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コメント
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おや、いらしてましたか。
私は六角堂からみました。
今の若者に感想を聞いてみたいです。
投稿: 佐平次 | 2019/02/15 10:35
佐平次様
「お半長」のストーリは、そのまま今の時代に置き換えてドラマにしても成り立つでしょう。儒教臭や教訓的な所がなく、庶民目線で書かれている点に人気が集まったものと思います。
投稿: ほめ・く | 2019/02/15 16:30